第14話 ~獣人(けものびと)の住まう街~城塞都市ザルドローグ

 砂漠に入って5日目。一行は3つ目のオアシスを後にした。


 砂ばかりだった辺りの様子は、徐々にむき出しの岩肌に変わっていく。


 巨大な岩床いわとこを思わせる赤茶けた大地を、どれくらい進んだろうか。


 ひたすら無心で歩いていたサリュナ達の視界に、少しずつ城壁らしきものが見え始めた。


 最初は小さかったそれは、近づくにつれてその大きさを増していき。


 ようやくその厳つい城門にたどり着いた時には、天まで届くのでは、と錯覚するほどの立派な城壁が聳えていた。


 見るからに重厚なその門の両脇には、武装した獣人――恐らく門番だろう――が1人ずつ。また、右の門番のすぐ後ろには、城壁と一体化した門番の詰所らしきものもある。


 ――壁でこれだけの高さなら、遠くから見えていた尖塔は一体どれくらい高いのかしら。


 そんなことをぼんやり考えながら、キャラバン長と門番のやり取りを眺める。


 ザルドローグは閉じた都市だが、許可を得た商人だけは住人でなくとも通行を許されているのだ、とキャラバン長から聞いていた。


「話はついた、行くぞ!!」


 門番と話しこんでいたキャラバン長が戻ってくるなりそう告げると、重く軋んだ音を立てて城門が開いた。皆それぞれ門をくぐる。最後尾にいたサリュナもそれに倣い――門番の1人があからさまに嫌悪の表情を向けてきたが、気付かないふりをし――潜りきったサリュナの後ろで再び門が閉じていく。


 門から真っ直ぐに延びた大通りの先には、オアシス。そしてその湖上には橋が渡され、無骨ながらも見応えのある砦へと続いていく。


 森湖古城フォレス・シャトーの美しさが女性的なら、この砦は間違いなく男性的な力強さを感じる造り、と言えるだろう。


 道行く人々は当然みな獣人で、なんだか不思議な心持ちになる。


 宿に向かう道すがら、キャラバン長やレイから教わったところによると、この街は大きく分けて中央通りとその周辺が商業施設の固まる中央区、正門から中央区をみて右手に工業区と農業区、左手に居住区、奥にオアシスとこの街を統べる評議会の議事堂である月狼砦ウルブズ・フォートからなるのだそうだ。居住区はオアシスに近くなればなるほど高級住宅になるのだそうで、手前の城壁近くはスラムになっているらしい。

 また、オアシスの水を有効に使うために治水施設が発達し、工業排水や生活用水を浄化してオアシスに戻す装置も完備しているとの事だ。


「凄いな、獣人の街の技術は。こんなの人間の街でもなかなか見ないよ!」


 トーヴァンが感嘆の溜息を漏らす。


「ふふふ、そうでしょう、そうでしょう!!」


 何故かレイが得意げだ。


「獣人様の技術を舐めるなよ、ってか! いいね! っと、さあここがこの街の宿だ。」


 話に夢中で気付かなかったが、今日の宿に着いたらしい。


「俺たちの滞在は明日から1週間だ。その間に用事済ませられたら、帰りも一緒に行ってやる。もしそれを過ぎたら次のキャラバンが来るまで待つことになるが…正直あてにしない方がいいだろう。きっちり1週間以内に用事を済ませるんだな。」


「ありがとうございます!!必ず1週間以内に終わらせます!!」


「おう、待ってるぜ! 何かあったら中央通りに来な。そこで商売してるからよ。じゃあ一旦ここでお別れだ。」


 そう言うと気のいいキャラバン長は去っていった。


 残されたサリュナ達は宿をとる手続きを終えると、


「ご飯! ご・は・ん!! 行きましょ!!」


 という、レイの主張により少し早い夕食をとりに出かけることにした。


 中央区の小料理屋に入ってみると、なかなか盛況のようでほぼ満席。ギリギリ3人座れる席を見つけて滑り込む。


 メニューを見ると、農業区で放牧されているらしい家畜の肉を使った料理とオアシスの魚料理がメインで、野菜を使った料理はあまり見受けない。土地的に野菜が育ちにくいのだろう。


 結局、サリュナは地魚の塩焼き、トーヴァンはラムチョップ、レイは腸詰めの盛り合わせをそれぞれ注文し、久しぶりの保存食でない食事に舌鼓を打った。


「そういえば、レイさんはお家に帰るの?」


 思い出したようにサリュナが問う。


「そうですねえ。もう長いこと帰ってないから、掃除しないとー」


「じゃあ、ここでお別れ、なの?」


 サリュナは少し寂しそうな表情を見せると、


「いえ、少なくともお2人がこの街にいる間はお供しますよ! 私がいた方が何かと話が早いでしょうし。乗りかかった船です、全力でお手伝いしますよ。」


 レイは明るく笑ってそう答えた。


「ありがとう!! 助かるよ」


 感謝を述べるトーヴァンもどことなく嬉しそうだ。


「で、明日からどうしよう?」


「実はこの街には腕利きの呪術師シャーマンの一族がいまして。その一族の当主がこの街の評議会の議員さんなんですけど、面会を申請してみましょう。後は大きな図書館もあるので、そこで情報収集するっていうのも手かも。」


「なるほど、じゃあまずは面会の申請かな。時間がかかるかもしれないし。」


「そうと決まったら今日はゆっくり休みましょ。長旅の疲れをしっかりとらないと。」


「さんせーい!! じゃあ私は自宅に帰るので、朝になったら宿に迎えに行きますねえ!」


 今後の方針が決まったところで会計を済ませ、小料理屋を出た。


 サリュナとトーヴァンは中央区の宿へ、レイは居住区の自宅へ。


 宿に着くとサリュナはこれまた久しぶりの柔らかいベッドへ倒れ込むように潜り込み、深い眠りにつくのだった。

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