第13話 ~砂漠を越えて~過酷な旅路

 容赦なく照りつける太陽、時折吹く砂混じりの熱風。


 たくさんの荷物を括り付けられたラクダ数匹と、十数人ほどの隊列が砂漠をゆく。


 レイのアドバイスを受け、ザルドローグ行きの商隊キャラバンに同行させてもらったサリュナ達であった。一から準備するより、既にある程度の装備も土地勘もある商隊について行くのが、安全かつ安上がりなのだという。


 レイはともかく、サリュナもトーヴァンも初めての砂漠越えだ。この暑さの中、しっかりと長袖の服を着込み歩き続けるのはかなりの重労働である。暑さで相当体力を奪われているだろうに、2人とも弱音を吐かなかった。


 ――こんな所で挫けちゃいけない!足でまといになる訳にもいかない!頑張らないと!!


 その一心で必死について行く。


 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。


 皆の砂を踏む音だけが聞こえる。

 足取りは1歩ごとに重くなっていくけれど、ここで足を止めるわけにはいかない。


 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。


 進めど進めど一面の砂。


 時間の感覚もなくなってきた頃、日が暮れ始めた。

 砂漠では昼と夜の温度差が激しい。

 昼間と打って変わって徐々に奪われていく体温。


「今日はこの辺をキャンプ地にするぜ。このペースだと最初のオアシスには明日の昼頃につけるだろう。」


 キャラバンの長がそう言うと、皆がキャンプの準備を始めた。もちろんサリュナ達もそれを手伝う。


 長の話によれば、ザルドローグにたどり着くまでに3つのオアシスを経由しなければならないそうだ。

 それぞれの距離はまちまちではあるが、平均するとだいたい同じくらいだそうである。思っていたより遠い道程と砂漠を行く辛さにげんなりするが、行かなければ。


 夕飯は焼きしめたパンに、干し肉。


「これはサービス!」


 そう言って隊員が出してくれたのはデザート代わりの干したナツメヤシの実。


 暖を取るために焚かれた火を囲んで食べる。


 パチパチ、と爆ぜる音を聞きながら食べていると何だか胃も心も落ち着いてくる。


「なんで焚き火ってこんなに落ち着くのかしら。」


 無意識にそんなことが口をついて出る。


「なんででしょうねえ。暖まるからかな。」


「そうだね、暖まると安心するよね。」


 たわいないお喋りと共に食事を終えると、今度は急激に睡魔が襲ってきた。


 朝になるまで代わる代わる火の番をしながら、各自眠りにつく。


 そして翌朝。かなり早起きだが、暑くなる前に移動を始めたいのだ。

 眠い目を擦りながら、3人はキャラバンと共にひたすら歩き続ける。


 最初は違和感だった踏みしめた砂の感覚も、今や気になりもしない。皆、前に進むことだけに集中していた。


 ◇◇◇◇


 昼前になってサリュナの様子がおかしい事にトーヴァンが気づく。


「サリュナ、大丈夫かい? 少し震えているようだけど」


「だ、大丈夫……心配しないで……」


「本当かい?辛かったら言って良いんだよ?」


「うん……ありがとう……」


 そう言い終えたつもりだったのだが。

 そのままサリュナはその場で倒れ込んでしまう。

 薄れゆく意識で最後に見たのは、心配そうに自分の顔を覗き込むトーヴァン達の顔だった。


 ――ん、冷たい……?


 意識を取り戻すと、首から下が水に浸かっていた。


 びっくりして慌てて立ち上がろうとするも、まだ体がついてこない。


「サリュナさん! 良かったあ、気がついたんですね!!」


 そばにいたレイが喜びの声を上げる。


「サリュナさん、急に倒れるからみんなびっくりしたんですよ! たまたまオアシスまでもう少しのところまで来ててよかった!! じゃなかったら運べなかったかも。」


 その時のことを思い出したのか泣きそうな顔になるレイ。


「熱中症みたいだったんで、慌ててオアシスまで運んで、冷やしたんですよー! あ、服とか脱がせたのは私なので安心してくださいね。」


「レイさん、ずっといてくれたの?」


「そりゃあ、ここまで水につけてて万が一サリュナさん溺れさす訳にも行かないですし、不届きな男性が近寄ってこないとも限りませんからね。見張ってました。」


 サリュナが感謝を伝えると、レイはえへへ、と照れ笑いした。


「サリュナさん、そろそろ日が暮れますよ! 早く上がらないと風邪ひいちゃいますう。ここにタオルとお洋服置いておきますね。」


 少し体は重いが、動けない程ではない。

 のろのろとオアシスから這い出て体を拭くと、やや傾きかけた太陽の残滓が体毛に残った水分を奪っていく。出来るだけ急いで服を着ると、レイに案内されて皆のいるオアシスの宿に向かう。


「サリュナ! 良かった、気がついたんだね!」


 宿の戸を開けた途端、トーヴァンが駆け寄ってきた。


「こいつ、お前さんのことが心配で心配で仕方なかったみたいでな。ソワソワしっぱなしだったんだぜ!」


「……それは言わないで下さいよ……」


 赤面するトーヴァン、からかうキャラバン長。


「ところでねーちゃん、本当にもう大丈夫かい? なんなら引き返してもいいんだぜ?」


 心配そうなキャラバン長。


「ありがとうございます、大丈夫です。このまま行けます!!」

「ふむ。あまり無理するなよ??」

「はい、お手数おかけしてすみません。」


 謝るサリュナ。


「いや、どの道ここで1泊する予定だったからいいんだ。ま、倒れたとこがオアシスから遠かったら、見捨ててたかもしれんがな」


 本気なのか冗談なのか、さらっと怖いことを言うキャラバン長に苦笑いしつつ。各人翌日の準備をするのだった。

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