第26話


「あ、あの、これで勝負したらどうでしょう」


 ハート・ビート・バニーは清純なキャンペーンガールのようにスーパーツイスターゲームを胸の前に抱えていた。


 それを見た瞬間、ザ・パーフェクトはニヤリと笑った。


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは思わずため息をついてしまった。

 お嬢様育ちのハート・ビート・バニーはそもそも争いとか競い合いなんてものとは無縁に生きてきた。

 ゲームだってあまりやったことなどないのだろう。

 だからと言ってこの状況においてスーパーツイスターゲームだけはない。


「そう言うフィジカル系のゲームこそパフェの独壇場なのよ」

「あの、ズルも戦略のうちって言ってたので。それだったら、それで戦ってみれば、そう思ったんですけど……」


 しかしハート・ビート・バニーは普段より力のこもった目でピンキー・ポップル・マジシャン・ガールを見て言った。


 彼女が一体何を言っているのかわからず、ラック・ザ・リバースマンの顔を見る。

 ラック・ザ・リバースマンは緊張感のないいつもの曖昧な笑顔を浮かべていた。

 おそらく彼も何もわかっていない。


「パフェちゃんは能力を使ってもいいんです。そのルールでスーパーツイスターゲームをやっても大丈夫ですか?」

「オッヒョッヒョ、どのような挑戦も受けるよ」


 能力をおおっぴらに認められてザ・パーフェクトはすでに勝利したような余裕である。


「ええと、パフェちゃんは能力で誰かを操ることで参戦するんです。関節を操るならスーパーツイスターゲームはピッタリなんじゃないかと」

「ヒョ?」


 一瞬にしてザ・パーフェクトの顔色が曇った。


「そういうこと!」


 ハート・ビート・バニーの言わんとしていることを理解してピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは思わず口が開いたままになってしまった。


 様子を見ると、ラック・ザ・リバースマンとサンシャイン・ダイナはまだ理解していないようだった。


「あの、やっぱり駄目ですよね、そんなの」

「いいわよね。いいって言ったものね」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはいつもよりも語気を強めてしっかりと言う。

 こここそがこの勝負の一番の決め手かもしれない。


「そんなのダメだよ。だって操った人がわざと邪魔するかもしれないじゃん」

「そうですよね。ごめんなさい、忘れてください」


 ハート・ビート・バニーは塩をかけられたナメクジのように小さくしぼんでいった。


「いや、そんなことないさ。このボクがやろう! 絶対に卑怯な真似はしない」


 ラック・ザ・リバースマンがそう言うと、ナメクジは蛹から羽化する蝶のように蘇った。


「何その断言。信じられないよ。うちなら絶対にするもん」

「しない。するわけがないだろ。ボクはスーパーヒーローさ」

「そうそう。よくわかんないけど、それでいいよ。とりあえず一回やってみて。そしたらわかるから」


 そこでサンシャイン・ダイナが声を上げた。


 やっぱりわかってなかったか。

 しかし、チームメンバーは全員賛成、こちらの追い風になっている。


「わかった。それでいいよ。ラクスケは関節逆に曲げても平気だもんね」


 ザ・パーフェクトはやる気になったのか、ゾングルをほぐすようにせわしなく動かす。


「関節逆に曲げても平気じゃないさ。世間一般の人と同じくらい痛いんだよ」


 ハート・ビート・バニーがスーパーツイスターゲームのシートを広げた。


 初めは自分で参加する気持ちだったが、代理対戦という形式になったのでこちらも誰かにやって欲しい。

 なによりも、ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは身体が硬い。

 それに勝負は距離をおいたところから冷静に挑みたかった。


「じゃ、こっちチームからは……バニー。できる?」

「む、む、む、無理です」


 ハート・ビート・バニーはそう言いながら首をふって後ずさる。

 そのままソファに沈み込んだ。


「しょうがないわね。ダイナちゃん、お願いできる?」

「もっちー! 任せてよ。マジ本気でいくんで。ラクちゃん覚悟してね。あーしウルトラ強いから。やったことないけど」


 サンシャイン・ダイナはシート横でラック・ザ・リバースマンの身体に身を寄せる。


「やっぱり私やります!」


 ハート・ビート・バニーが無理やり二人の間に身体を挟み込んできた。


「は? あーしやるって。マジで強いから。見せるから」

「でもでも、私が言い出しっぺなんで。そう言う責任とかがあると思うので」

「いや、ありえないから。もう心の腕まくり準備完了だから」

「ダメです。ダイナさんはドジだから!」


 待機室にハート・ビート・バニーの大声が響いた。


「ひどっ! ひどくない? ドジって。聞いた?」


 サンシャイン・ダイナはこっちを見てそう言った。


 ハート・ビート・バニーは自分の言った言葉の内容に気づいて慌ててフォローをしようとアタフタしている。


 ザ・パーフェクトはその二人を見てクスクスと笑っていた。


「そうね、ダイナちゃんはドジだから。バニーお願いできる?」

「は、はい! 頑張ります」

「ってかなにそれ、ウケるー。マジひどすぎてツボはまる」


 サンシャイン・ダイナはケラケラと笑いだして一気に雰囲気が柔らかくなった。

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