第25話

 青天の霹靂とはこのことかもしれない。

 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの心の奥にはずっとその言葉があった。


 ネットで検索したところで怪しいサイトに行き着くだけでとらえどころがない。

 しかし、なんだか行く先々でまとわりつくようにある言葉。


「真顔の反骨でしょ」


 楽しい雰囲気で盛り上がっていた雑談はザ・パーフェクトの一言で一瞬凍りついた。

 正確に言うとザ・パーフェクトの一言によってピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが立ち上がり詰めよったせいなのだけど。


「パフェ、何か知ってるの?」

「別に聞いて愉快になる話じゃないよ」

「知ってるなら教えて」


 思わず彼女を掴んだ手に力が入る。


「だたの一般庶民が好きなゴシップだよ」

「それを教えて」

「慌てなくても、そのうちみんなの耳にも入ると思うよ、痛い。力。痛いから」

「今知りたいの! チームにとって大切なことでしょ」

「うちにとっては全然大切なことじゃないよ」


 あくまでザ・パーフェクトは白を切って躱す気らしい。


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは手を離してザ・パーフェクトを睨みつける。


 興味のないことには一切手を出さない。

 常にマイペースの彼女にこれ以上無理強いは不可能だ。

 これ以上つつくと機嫌が悪くなってすねて口を利かなくなってしまう。

 彼女の中では、明確な優先順位があって、他人がどう説得しようとそれは覆らない。


 それでも諦めきれなかった。


 真顔の反骨という名称の何かについて。

 ロボットハッキングの時。

 そして鉄を変形させる特殊能力者の言葉。


 この現代において、悪の秘密結社などというフィクションじみた存在はありえない。

 そんなことは超本営の人間の方がよく知っている。

 そもそも超本営は、世界征服を企む悪の組織に対抗するようなものではない、と毎回訓示で言われてるくらいだ。


 世界を救うような派手な活躍はない。

 だからこそ、地味に無軌道な犯罪を一つ一つ対処療法のように潰していかなくてはいかない。

 悪いラスボスを倒せば世界に秩序が訪れるというのなら、そっちのほうが大歓迎だ。


 現実の世界に悪の組織はいなくても、世界は閉塞していっている。

 犯罪率はうなぎのぼりになり、行政は対応しきれずにスーパーヒーロー組織を結成するに至った。

 それでも対処しきれず人々の不平は吹き上がっている。

 それがなにか大きな暴動につながるかと言えばそうもなっていない。

 ただ人々は気力をなくしてくすぶっていくだけだった。

 死なないためだけに生きているような活力のなさ。

 それが今、リアルに横たわっている世界だ。


 犯罪が許されるわけでもないし望んでいるわけでもない。

 しかし、何かを変えようというエネルギーがどこかで生まれているとしたら、それはなにか知りたい。


 ザ・パーフェクトはもうすでに話に飽きたのかソファに座り込んでゾングルを見つめている。


 サンシャイン・ダイナはケーキをつついている。

 ラック・ザ・リバースマンはサンシャイン・ダイナに美味いかどうかしきりにたずねて、ハート・ビート・バニーはキョロキョロと周囲を見回していた。


「わかったわ。ゲームで勝負しましょう」

「ゲーム!」


 ピョンとソファから身を乗り出してザ・パーフェクトが答える。


「ゲームでの勝負なら大好きでしょ」

「ゲームでうちに挑もうだなんて、随分命知らずのハリキリ大臣だねえ」


 ザ・パーフェクトは顎を持ち上げて無理やり見下すように言った。


 たしかに無謀ではある。

 しかし、こうでもしないと彼女は乗ってこないだろう。


「無茶だよ、パフェにはゲームでかなわないってわかってるよね」


 すぐにラック・ザ・リバースマンが立ち上がって首を振った。


「なんで? パフェちゃんそんなに強いの?」


 サンシャイン・ダイナが目を丸くして問いかける。


「パフェはすぐ能力でズルするから絶対に勝てないのさ」

「ズルも戦略のうちよ。ホッホッホ」


 ザ・パーフェクトはまるで悪の総統のような高笑いをした。


 それでも可能性があるならば。

 勝てば教えてもらえる、その僅かな可能性にいまは賭けるしかない。


「あたしが勝ったら、知っていることをすべて教えてもらうわ」

「勝ったら? オホホ、面白いこと言うね。全然いいとも。いいトゥモロウ。どのようなゲームでも相手しよう」


 ゲームができるということでテンションが上りまくってるのだろう。

 その尊大さは天井知らずになっている。


「この増長っぷりを見てよ。絶対手酷いズルをするね。悪い笑顔。こうなったらボクはピンキーの味方をするよ」


 ラック・ザ・リバースマンが気の抜けた顔で呟いた。


「ウッケるう! あーしは、二人とも応援する」

「はてさて、なんのゲームで対戦するつもりでおじゃるか?」


 踊りながらざ・パーフェクトが尋ねる。


 そう言われても初めから腹案があったわけじゃない。

 実際にザ・パーフェクトにゲームと名前のつくもので勝つことはほとんどない。

 他人を操るという能力とゲームで対戦というものの組み合わせは最強なのだ。

 だからこそ、ここは運の力のみが左右するゲームをなにか選ばなければならない。

 運ならばまだ勝ち目はある。

 たとえズルをされたとしてもだ。

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