第27話
スーパーツイスターゲームが始まった。
指定された色を指定された四肢のどれかで抑えるというパーティーゲーム。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは円盤型のルーレットを回す。
「右足、緑」
ハート・ビート・バニーが緑の円に右足を乗せる。
ザ・パーフェクトはふんふんと頷きながらラック・ザ・リバースマンの足を動かしてハート・ビート・バニーの隣のマスの緑に右足を乗せた。
二人は胸がぶつかるほどの距離で対峙した。
「え、最初から近すぎない?」
ラック・ザ・リバースマンが不平をこぼす。
ハート・ビート・バニーは背中を反らせて顔を赤くしてすでにプルプルと限界近いほど震えている。
「戦略よ、戦略。勝っても負けてもこれほど楽しい勝負はないね」
「左手、黄色」
ハート・ビート・バニーが左手を黄色に置くと、ザ・パーフェクトはわざと脇の下を通るようにしてラック・ザ・リバースマンの左手を黄色に置いた。
すでに二人はコブラツイストのような形で絡まっている。
ハート・ビート・バニーの長い黒髪が、まとわりつくようにラック・ザ・リバースマンの腰にかかっている。
「左足、赤」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは色を指定してく。
二人の身体はどんどん絡みついていった。
「右手、青」
「ちょっと、パフェわざと難しい位置にやろうとしてない? ボクが倒れたら負けなんだよ?」
二人の身体が太ももから胸までほとんど密着した形になり、さすがのラック・ザ・リバースマンも表情がやや雲っている。
「キミはゲームのコマなのだよ。余計なことを考えなくてもよろしい」
「悪の首領みたいなこと言い出したね」
「あの、もうダメかもしれません」
体勢的にはそれほど苦しくないはずなのに、ハート・ビート・バニーは今にも白目をむきそうな勢いで呼吸を荒らげていた。
それを見て何かを思いついたようにザ・パーフェクトは口の端を持ち上げ邪悪に微笑んだ。
「ラクスケ、必殺技よ。ブリザードブレス発射!」
「なにそれ、聞いてないよそう言う技」
「今から説明をする。まずゆっくりと息を吸い込んで。エネルギー充填率、60……70……80……90……95%」
ラック・ザ・リバースマンは言われるままに素直に息を吸い込む。
「発射! 息を細く吐き出して」
ラック・ザ・リバースマンが息を吹き出す瞬間にザ・パーフェクトは彼の首の角度を動かした。
息の先にはハート・ビート・バニーの耳がある。
「はひゅっ!」
ハート・ビート・バニーは声を上げて首を縮める。
涙目になり、手足がブルブルと震え、口が半開きになり、よだれもたれていた。
システムを超えた攻撃にピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは歯噛みをする。
さすがザ・パーフェクト、卑怯な手を使わせたら他の追随を許さない。
このままでは圧倒的に劣勢だ。
ハート・ビート・バニーとラック・ザ・リバースマンの組み合わせになった時に、この事態は想定しているべきだった。
しかし今更何を言っても遅い。
現状でできる最良の方法を考えなければ。
今までだって何度もそうしてきたはずだ。
「バニー、オナラを出せない?」
「だせ、だせ、だせません~」
「遠慮してる場合じゃないの。このままでは負けちゃうわ」
「無理です。絶対に無理です」
ついピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは舌打ちをしそうになってしまった。
他に手は思いつかない。
「ホッホッホ。いつものようにプースカやられたらピンチだったけど、今回はそうならないみたいね」
「い、いつもしてません!」
こうなったらなんとか体勢を変えて持ち直すしかない。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは矢継ぎ早にルーレットを回す。
「右足、青」
「左足、黄色」
ゾンビのようにボロボロになりながらハート・ビート・バニーはなんとか四つん這いを保っていた。
「なんで耐えられる! なんなのよ、この力は!」
ザ・パーフェクトは、勇者の力の前に追い詰められる魔王のようなセリフを言いはじめた。
見ているだけで関節がきしみそうな体勢のラック・ザ・リバースマンが答える。
「パフェは知らないのさ。スーパーヒーローにとって諦めない強い気持ちこそが一番大事なんだってこと」
「まぁね。うちはすぐ諦めるよ。ただいつか諦めるなら早いうちに判断した方がスマートってことだよ。これで終わり。ファイナルネックカップリ!」
ラック・ザ・リバースマンの首が動かされる。
そのままハート・ビート・バニーの首筋に唇を吸い付けた。
「ヒグッ!」
吸い込むような声を上げると、ハート・ビート・バニーの腕が膨れた。
体毛が全身を覆っていく。
皮膚が黒く変色し、その身体は空気を入れた風船のように大きくなった。
巨大な身体に押し出され、ラック・ザ・リバースマンはマットから跳ね飛ばされて尻餅をついた。
勝負は思いもよらない形で決した。
「どうやらうちの負けのようね。負けたのになんだろうこの清々しさは」
ニコニコと口元を月型に曲げてザ・パーフェクトはハート・ビート・バニーに手を差し伸べる。
「あの、ごめんなさい。こんなことに……」
「楽しいゲームだった。またやろうね」
この瞬間を友情というタイトルの名画にしたいほどだった。
図らずも、チームメイトの結束は強まったと言っていい。
充足された気持ちでピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは椅子に腰掛ける。
そして思い出して勢い良く立ち上がった。
「真顔の反骨は?」
「あ、忘れてたよ」
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