第11話
開いたままのドアから男性が入ってきた。
20歳くらいだろうか。
若いという感じはしないが、落ち着いた大人という感じでもない。
顎のあたりに無精髭を生やして超本営の制服を着ている。
人当たりの良さそうな笑みを浮かべてヒョコッと頭を下げた。
ラック・ザ・リバースマンが戸惑っていると、ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが一歩前に出て敬礼をした。
「いらっしゃい、あなたが新人ね」
「は、まぁ。新人といいますか……」
「言っておきますが、我がスタイル・カウント・ファイブは超本営の中でも秘密兵器と呼ばれていて、今まで目立った活躍はないものの、常に絶妙なサポートをしている重要なチームなの。そこら辺のダメチームと一緒にされちゃ困るわ。いわば、ダイヤの原石なの」
「おっと、おしゃべりがすぎるぜ、ポップル。キミ、なんて言ったか。そう、サンシャイン・ダイナだったな。結構な名前だ。こういう言葉を知ってるな? 鷹ある……鷹……鷹の……爪の……ん? 鷹……つまりだ……」
「能」
ザ・パーフェクトが袖を引いてハンド・メルト・マイトに囁く。
「話は変わるが、能ある鷹は爪を隠すという言葉がある。つまり、そういうことだぜ」
男性は呆然とした表情で立ちすくんでいる。
「あたしたちがどれだけ統率を取れたチームか。教えてあげるわ。カモンミュージック!」
そう言ってピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが指を鳴らす。
ラック・ザ・リバースマンが自分を指差して首を傾げると、彼女は勢い良く頷いた。
慌ててコンソールをいじるとメロディアスな音楽が鳴り響いた。
「違う。違う。ちょっと待って。もう一回!」
そう言いながらピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはラック・ザ・リバースマンを跳ね飛ばし、コンソールに自ら立ち、操作をし直す。
やがて練習していた曲が流れてきた。
定位置に戻りピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはリズムに乗せて話し始めた。
「ピンキー・ポップル・マジシャン・ガール。そう、このチームのリーダーよ。その能力は瞬速行動。早く走ったり早く殴ったりできる。早すぎて自分コントロールできないのが玉に瑕」
「俺はハンド・メルト・マイト。冷静沈着、御意見無用。道なき道を切り開く。俺のあとについて来るんだぜ」
「私はハート・ビート・バニーです。一時的に腕力がすごくなる能力です。あと、あの……もういいです。次。パフェちゃん。次お願いします」
「ヘイ、マイクチェックマイクチェック。プチャヘンザ。アイム、ザ・パーフェクト。あらゆる能力超越する一人。手取り足取り揚げ足取り。いいとこ取りして見る人うっとり、可愛さ抜群見ての通り」
「フレッシュ! ラック・ザ・リバースマン。そう、このボクがスーパーヒーローさ。あらゆる傷を治す無敵の男さ」
五人はそれぞれのポーズを決めた。
音楽はそこでちょうどよく切れることはなく、ポーズが決まったあとにもずっと流れ続け、ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールがしばらくして止めた。
曖昧な表情のまま紹介を見ていた男にピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは微笑みかける。
「ようこそ。スタイル・カウント・ファイブへ。歓迎するわ」
「じゃ、トイレ行ってくる」
ザ・パーフェクトはいそいそとトイレに向かい、その後姿を見てピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは苦い顔をした。
今にも爆発しそうな感情を抑えている様子で、口元が震えている。
「どうでしたか? うちのチーム」
「あの。サインを頂けますか」
男性はあまり心のこもってないような愛想笑いを浮かべて会釈をしながら言う。
「水臭いぜ、これからはチームの一員だ。しょうがないから一度目はしてやるが」
ハンド・メルト・マイトがそう言って男性の差し出した紙に巧みなサインを走らせる。
「こちらが花になります」
「わぁ、素晴らしいお花。これだったらさっきのしょぼい花はいらなかったわね。みんな、彼こそがこのチームの新メンバー、サンシャイン・ダイナさんです」
「しっかりついて来るんだぜ」
「よろしくお願いします」
「何か困ったことがあったら聞くといいさ。このボクに!」
「はい、ありがとうございました。では戻ります」
ハンド・メルト・マイトのサインを受け取ると男性は再び頭を下げる。
「どこ行くのよ。これも任務のうちよ」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが呼び止める。
「いえ、私の任務は連絡と配達だけです」
男性はゆっくりと振り返り片眉を上げて言った。
「……あなた誰?」
「総務部通信課の雷恩です」
男性の去ったあと、待機室はさらなる不穏な空気に包まれていた。
「誰よ! 新人じゃないの? なんなのよ」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが爆発した瞬間に平和そうな顔のザ・パーフェクトが戻ってきた。
「皆さんご存知、ザ・パーフェクトちゃんですよ」
「知ってるわよ」
「この俺が裏をかかれるとはな。初日から遅刻してくるなんて、こいつはとんだ食わせ者だぜ」
「で。あそこでチンパンジーみたいにタンバリン叩いてるのは?」
ザ・パーフェクトの示した方向に全員が視線を送る。
そこには汗びっしょりになり、タンバリンを熱演していた女性が。
ウェーブのかかった金髪で目の周りが隈取のように黒い。
いわゆるギャルという容姿だ。
「忘れてました。あなた……」
「うん。あーし、サンシャイン・ダイナ。よろしくー!」
カクっと魂が抜けるようにピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの重心がずれた。
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