第10話

 ラック・ザ・リバースマンは、このメンバーが創るやや緊張感のある空気も嫌いじゃなかった。


 困ったような表情ですがりつくハート・ビート・バニーを見て、ザ・パーフェクトはニシシッと笑う。


 ザ・パーフェクトはイタズラや意地悪という子供っぽい事を好む。


 最年少のせいかと思ったけど、ラック・ザ・リバースマンが15歳の時には別にそんなものは好きじゃなかったので、年齢にかかわらず性格的なものだろう。


 しかし、ハート・ビート・バニーはそんなザ・パーフェクトを嫌っておらず、放っておけないと言った感じだ。


「あの時は今よりも未熟だったから。だけど結果的には今みたいにチームワーク良くなってるじゃない」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは顔を上げて諭すように話しはじめた。


「しかし、このクオリティではサプライズ以前の問題だぜ。根本から方向性を練り直そう。俺がイチから振り付けを考えてやるぜ」


 ハンド・メルト・マイトがそういうと、ザ・パーフェクトは露骨に嫌な顔をした。

 ハート・ビート・バニーも泣きそうな顔になってる。


「もう時間がないの。妥協するしかないわ。あと何分?」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが焦りのせいか、やや怒気を孕んだ声で尋ねる。


「もうそろそろです」


 いつものように雰囲気を察してハート・ビート・バニーが答えた。


「そろそろって何分?」

「3分です」

「ほら、もうそろそろ! 花は? 花は来てないじゃない」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが嘆く。


 ラック・ザ・リバースマンはそれどころではなく、自分の振りを入念にチェックしていた。


「そう慌てるな。スーパーヒーローと言うのは土壇場でこそ煌めくもの。任せとけ、俺はやる時はやる男だぜ」


 ハンド・メルト・マイトが華麗にターンを決める。


 ハート・ビート・バニーがザ・パーフェクトにすがりついて、どうしようどうしようと呟いている。


「ダメならダメでしょうがないから」


 ザ・パーフェクトはその頭を撫でながら言った。


「しょうがなくないでしょ。ちゃんとしてよ。この二時間何してたの」

「気持ちを高めるのに二時間つかっちゃって。やっと高まってきたところだよ」

「もう全然うまくいかない。なんで花も来てないのよ!」

「花はボクらのせいじゃないよ」


 ラック・ザ・リバースマンがそう答えると、ザ・パーフェクトがドアのところまでスッと歩いていった。


「うちちょっとトイレ行ってスッキリしてくる」

「トイレ? トイレは我慢して。もう来ちゃうから」

「こっちももう来ちゃうよ。出口まで来てる」

「もう、何なの! これじゃダメなのよ」


 あまりにも冷静さを欠いているピンキー・ポップル・マジシャン・ガールを見てると、なんだかラック・ザ・リバースマンは逆に落ち着いてきてしまった。


「たかが歓迎だよ」


 彼女に近づいて微笑みかける。


「そうです。大丈夫ですよ。歓迎する気持ちが伝われば」


 ハート・ビート・バニーも続いてそう言った。


 お互いに目があってなんとなく笑ってしまった。それが余計に刺激をしたらしい。

 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは目をうるませながら大声を上げた。


「みんな何もわかってないのよ!」

「泣くなよポップル。どんなサプライズよりも、笑顔のほうが大切だぜ」


 ハンド・メルト・マイトがピンキー・ポップル・マジシャン・ガールに声をかけた瞬間にインターホンが鳴りドアがスライドした。


 そこには小さなブーケを持った派手な女性が立っていた。


 ラック・ザ・リバースマンは花を受け取ると、ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの顔の前で大げさに振る。


「ほら、ピンキー。花が来たよ」

「あ、花、よかった。こっち。え? 花ってこれ? なんかしょぼい花束ね。もうちょっとゴージャスなやつなかったの? ま、今更言ってもしょうがないわ。ご苦労様」


 通路の奥から、ゆっくりとこちらに向かってくる影が見えた。


「あ、誰か来るよ」

「それよ。間に合わない! ちょっとあなた隅っこの方でタンバリンでも叩いてて。みんな準備はいい?」


 花を持ってきた女性を部屋の端に押しやるとピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは戦いに赴くような真剣な表情でみんなの顔を見回す。


「いい、くるわよ? 気持ちで負けちゃダメよ。どうせ相手は新人でビビってるから。ここでベテランの洗礼を浴びさせるの」

「歓迎でしょ。もっと笑顔で行こう」


 ラック・ザ・リバースマンはそう言って両手の人差し指を頬に当てて小首をかしげた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る