第22話平行線

「ええっ!? 魔獣を消滅させちゃったの!? 封印は!?」


「封印? そんなの時間の無駄アルネ。魔獣は全て討滅する、これがワタシのジャスティスアルネ」


「だってそんな――」


 わたしはアスカムーンを見た。


なんじのあるべき物語に戻れ――ノベル・イン!」


 ラー・メンマとほぼ同じタイミングで魔獣Aを倒したアスカムーンは、ちょうど魔獣Aを封印するところだった。


 今回の戦いも、無事にわたしたちの勝利で終わったのだ。


 しかしアスカムーンは厳し表情でこっちにやってくるとすぐに、ラー・メンマに苦言をていした。


「ラー・メンマ。あなたは確かに強い。だけど物語から抜け出した魔獣を消滅させてしまえば、物語自体が変わってしまうわ」


「ふふん、それがどうしたアル?」


「世界の持つ修正力によって、わたしたちの記憶も最初からそんな魔獣なんていなかったものとして、書き換えられてしまうのよ?」


「ですよね!」


 だから魔獣は倒すんじゃなくて、できうる限り封印するんだ。

 わたしもアスカちゃんさんの意見に激しく賛成だよ!


「わたしたちの知らないうちに、美しい物語が書き換えられてしまうの。それはとても悲しいことだと思わない?」


「思います! ちょお思いますよ!」


「特に物語のラスボスが逃げ出して、それを封印ではなく討滅してしまったら、最悪物語そのものが消滅してしまうんだから」


「まったくもってその通りです!」


 例えば中国の古典「封神演義」のラスボスである妲己だっきちゃんを討滅してしまったら、物語の核である、悪い仙人を封印する「封神計画」そのものが必要なくなり、ひいては「封神演義」という古典の名作が姿を消してしまうのだから。


 さらに個人的に大好きなメカ生体ゾ〇ドのバトルストーリーで例えるならば、帝国のラスボスであるデ〇ザウラーがいなくなれば、対デス〇ウラー用決戦兵器マッドサ〇ダーも同時に存在しなくなってしまう。


 幼少のみぎりに、マッド〇ンダーのグルグル回転するマグネーザー(2本のツノ)のアクションギミックに心を奪われて以来、マ〇ドサンダーを愛してやまないコアガチファンであるわたしは、もし万が一そんなことになったら銀河系アイドルを引退するまであるんだからねっ!(まだなってないけど)


 だけど――、


「ふふん、それがどうしたアルネ? 人々が救われ世界が平和になることこそが、正義の味方の至上命題アル。効率が大事アルネ。イチイチ半殺しにして封印するなんて手間暇かかりすぎアル」


「だけどそれじゃあ物語が死んでしまうわ。その魔獣がいて初めて完成する物語が、時には丸っきり別物になってしまうのよ? 人類が脈々と受け継ぎ、時を越えてはぐくんできた文化が失われてしまうのよ?」


「それがどうしたアル? まさか、物語のほうが人の命より大切だと言うアルカ? 正義の味方アスカムーンは、とんだ偽善者アルネ?」


「いいえ、どちらも大切だって言ってるの」


「それこそ詭弁アル。ごたいそうな理想論では、現実の世界で苦しむ人々は守れないアル」


「いいえ、崇高な理想がなければ、世界も人も物語も守れはしないわ」


「理想が満たすのは心だけネ、現実の腹は膨れないアル。物語でも腹は膨れないアル。やれやれアスカムーンに会いにわざわざ日本に来てみたアルけど、ムダだったみたいある」


 ラー・メンマはハリウッド映画みたいに、わざとらしく大仰おおぎょうに肩をすくめた。


「なんと言われようと、わたしは正義の味方としてのわたしの信念を曲げないわ。うどんの乾麺が寸分たがわずまっすぐなようにね」


「平行線アル」


 そのまま厳しいまなざしで見つめ合う、アスカムーンとラー・メンマ。


「ええっと、あの、わたしたち正義の味方の仲間ですよね!? 仲良くしませんか?」


 わたしはプレッシャーに耐え切れず、思わずへらへらーと場を和ませに行ったんだけど、


「「――え?」」


「だからなんでアスカムーンは、そこで不思議そうな顔をするんですか!? あとラー・メンマまで! こういう時は変に仲がいいんですねっ!?」


 わたし泣いちゃいますよ!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る