第23話 グルテンの絆

「……ところでおまえ、シャイニング・プリンセス・ステラって言ったアルカ?」


「え? ああはい、そーですけど?」


「はじめましてアル」


「え、ああはい。はじめまして」


 わたしとラー・メンマは、完全な初対面だ。

 会った記憶はないし、その正体と思われるような似たような容姿の相手とも、わたしは会ったことがなかった。


 だからぺこりとわたしは頭を下げて挨拶を返した。


「シャイニング・プリンセス・ステラ、おまえにちょっとした提案があるアル。おまえ、ワタシと一緒に戦うアルネ」


「え?」


「ちょっとラー・メンマ、何を言ってるの。シャイニング・プリンセス・ステラは私の相棒なのよ」


「今はアスカムーンには聞いてないアル。シャイニング・プリンセス・ステラ、ワタシは日本で活動するにあたって、ちょうど便利な手下が欲しかったアルネ。そんな弱っちい奴についていても成長できないアルネ。ワタシのもとで手下として働きながら、正義の味方のなんたるかを学ぶよろし」


 ラー・メンマの突然の提案を、


「いえ、結構です」

 だけどわたしは即答でお断りした。


「ほぅ、つまりアスカムーンに義理立てするということアルネ? さすが日本人、忠義を尽くすサムライスピリッツアルネ」


「え、いえ。単に家賃・食費・光熱費・諸経費もろもろ無料だからですが……それとわたしは正義の味方を目指してませんし、日本人どころかそもそも地球人ですらないんですけど……」


 みんなすっかり忘れてるかもしれないけど、わたしは第412シャイニー銀河からやってきた銀河系アイドルを目指すピッチピチの留学生である。


「まぁそういうことにしておいてやるアルネ。日本人はタテマエが上手いアルからネ。でも気が変わったら言ってくるアルネ。わたしはいつでもウェルカムあるから。それではサイツェン!」


 そう言うと、ラー・メンマはシュバっと飛び上がって闇のかなたに消え去っていった。


 方向的にはアルファルド学園の学生寮の方向だった。

 あ、わたしが前に住んでたとこね。


 もしかしたら学園の関係者なのかな?

 ってまさかねー。


「じゃあ私たちも帰りましょうか」

「えっと、ラー・メンマはどうするんですか? 放っておいていいんですか?」


「価値観が少し違うだけで、同じ正義の味方という観点だけを見れば、敢えて敵対してどうこうする必要はないわ」


「さすがアスカムーン! 大人の対応です!」


「まぁシマに土足で踏み入られたあげく、イヤミったらしく頭を下げさせられたのは若干ちょっとイラっとしたけどね……」


「で、ですよねぇ……(;´・ω・)」


「ま、そのうち分かり合える日も来るわ。だってうどんとラーメンはどちらも小麦からできてるんですもの。グルテンの絆を信じるわ」


「グルテンの絆? なんですかそれ?」


 グルテンって、日本語では麩質ふしつって言って、小麦とかのたんぱく質が水と反応してできる、粘着性と弾力に優れた結合物質のことだよね?


 麺にコシを与えてくれるんだ。


 そして蕎麦はグルテンが入ってないからこそ、プツンと切れて口の中で格式高くも芳醇な味わいが広がるのである。


 いわゆるグルテン・フリーというやつだ。


 小麦を混ぜる(つまりグルテンを混ぜる)二八蕎麦をわたしがあまり好まないのは、これが理由だった。


 プツンと切れてこその蕎麦なのだから――!


「グルテンは全部11画でしょ? そして絆という漢字も11画なの。つまりグルテンとはズバリ絆という意味なのよ。うどんとラーメンは、同じグルテン系として本来は深い絆で通じ合っているの」


「え、あ、はい……」


 なにを言っているか全くわからないんだけど、アスカムーンがそう言うんなら、まぁそうなんだろう。


 わたしは深く考えるのをやめた。


 こうして、最後ちょっとよくわからないことになったんだけど、新たなる正義の味方ラー・メンマとの初めての接触は、こうして幕を閉じたのだった。

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