第8話 蕎麦・原理主義者vsうどん一神教徒

「やりましたね、アスカムーン!」


「ええ、シャイニング・プリンセス・ステラ。あなたのおかげよ」


「ありがとうございます!」

 やったね、アスカムーンに褒められちゃった!


「でも1つだけ、いただけない所があったわ」

「はい? えっと、なんでしょう?」


 あれれ?

 なにかやっちゃったことが、あったけかな?


 わたしはこてんと首をかしげた。


 すると、


「蕎麦粉はダメね。ソバ・イズ・ノット・グッドよ。ダメダメ。まさかとは思うけれど、シャイニング・プリンセス・ステラは愚かな『蕎麦・原理主義者』なのかしら?」


 アスカちゃんさんは、そんなことを言ってきたんだ――!


「そ、その口ぶり……! そういうアスカムーンは、まさか『ラーメン・マン』と並ぶ最強のマウント大好き民族『うどん一神教徒』なんですか!?」


 わたしが恐るおそる尋ねてみると、


「そんなの当然じゃない、うどんは究極にして至高の国民食よ。それをさも対等なように言ってくるなんて……たかが蕎麦が、蕎麦のくせに無礼な! 分をわきまえなさい!!」


 アスカちゃんさんは、まるで人が変わったみたいに鬼気迫る顔でシャウトしてきたんだ!


「そ、蕎麦だって国民食ですもん!」


 わたしは広い視野に立った青年の主張をした。


 だけどアスカちゃんさんは、そんな若い情熱だけの答えは想定の範囲内って顔をして言うんだ。


「はぁ? なにを言ってるのかしら? 蕎麦は異端よ。Soba is so badソバ・イズ・ソーバッ!」


「異端!? 蕎麦がですか!?」


「そうよ、異端よ。実に日本国民の6割以上が、蕎麦よりうどんを好むという2015年の大規模調査データが、それを証明しているわ」


「そ、そんなデータが!?」


 ガーン!


 そう言えば最近はファーストフードでも、昔ながらの立ち食い蕎麦屋がめっきり減って、うどん専門店の〇亀製麺とかばっかりになってるし……。


 そっか……。

 蕎麦は……蕎麦は負けたんだ……。


 わたしたちは、敗北したんだ……。


 大ソーバ共栄圏の壮大な理念は、うどん帝国主義の前に泡沫うたかたの夢と消えてしまったんだ……。


「たかだか4割に満たない分際ぶんざいで、国民食を名乗ろうだなんて100年早いわ! フェイクニュースよ! 恥を、恥を知りなさい!」


「な、なんて論理的なんでしょうか……これが噂に名高い、うどん一神教徒によるファクト&エヴィデンスってやつですね……?」


 さすがアスカちゃんさん、うどんながらあっぱれ!


「まぁいいわ、これも何かの縁よね。一緒に住むんだし、これからじっくりあなたを、『うどん一神教徒』に変えていってあげるわ」


 アスカちゃんさんがにっこりと笑っていった。

 でもその目は笑っていなかった。


 神のために異端者を審問する、恐ろしい異端審問官の目をしていた。


「わ、わたしは負けません! たとえ洗脳うどん調教うどん拷問うどんをされても、蕎麦を愛する私の心は永久に不滅ですから!」


 わたしの徹底抗戦宣言に、


「ふふっ、その気概がどこまで持つか楽しみにしてるわね? すぐに、うどんなしでは生きられない身体にしてあ・げ・る……」


 アスカちゃんさんが、SMの女王様みたいに嗜虐しぎゃく的に笑った。


「あの、その、一応確認なんですけど、わたしたちって仲間なんですよね……?」


「……え? 仲間? 誰と誰が?」


「えっ――て、ええっ!?」


 な、なんで今アスカちゃんさんは、マジで首をかしげたの!?


「……」


「や、やだなぁもう、アスカちゃんさんってば。冗談ですね……? あはは……」


「ふ、ふ、ふ、ふ……( ̄ー ̄)ニヤリ」


「あ、あのぉ……その笑いかた、すっごく怖いんですけどぉ……」



 とまぁ?

 最後にひと悶着もんちゃくはあったんだけど。


 こうして、わたし早乙女さおとめステラと四季咲しきざきアスカちゃんさんは。


 運命に導かれるようにして、出会ったんだ――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る