第9話 うどんDAYS

 わたしがシャイニング・プリンセス・ステラに変身して、物語から抜け出した魔獣を倒した翌日。


 土曜日で学校が休みだったので、わたしはステイ・ホームしているアスカちゃんさんちで、のんびりと朝うどんを食べていた。


(すっかり忘れているかもしれないけど、わたしはアルカディア学園のピッカピカの1年生である。念のため)


 アスカちゃんさんはうどん一神教徒なので、朝昼晩は基本的にうどんだ。

 「朝ごはん」なんて言いかたもしない。


 朝うどん、昼うどん、晩うどんというのが彼女たちの流儀だった。


 栄養が偏らないようにいろいろトッピングをしたり、主食のうどんの他に副菜をガッツリ用意したりもしている。

 さらにはサプリメントなんかも併用して、うどんオンリー生活のために万全を期していた。


 うどん一神教徒は皆、3食うどんを食べ続けるために、こうやって日々ファクト&エヴィデンスに基づいて行動しているのである。


「うどんって、それだけ食べたらオッケーな完全食じゃないんですよね。蕎麦はポリフェノールや食物繊維が含まれてる健康食として、有名ですけど」


 わたしがちょっと意地悪な質問をしつつ、プチマウントを取りに行ってみると、


「そうよ。完全じゃないからこそ、様々なうどんに私たちは挑戦できるの。うどんと対話することができるの。神は私たちに、うどんと対話し続ける喜びを、与えてくれたのね」


 アスカちゃんさんは、それをさらりと返してみせた。


 さすがガチのうどん一神教徒、理論武装は完璧だ。

 下手をしたらマウントされ返す可能性もある。


 わたしは今後はマウントとりに行くのはやめようと、心に誓ったのだった。


 ちなみにわたしは生粋の蕎麦派なんだけど、タダで食べさせてくれるというのだから文句を言ったりはしない。


 地球留学のために闇ブローカーに大金を払ったせいで苦学生をしてるわたしとしては、むしろ食費を出していただき、ありがとうございます!(>_<)


 というかアスカちゃんさんは、わたしが蕎麦好きってだけで勘違いしてるみたいだけど、別にわたしは蕎麦・原理主義者ってわけじゃないんだよね。


 単に蕎麦がすごくすごく好きなだけ。

 世界の食卓が、あまねく全て蕎麦で満たされればいいのにって思ってるだけの、ただのフツーの蕎麦好きだもん。


 うーん、それにしてもたまには別のものが食べたいなぁ……。

 今度こっそり蕎麦でも食べに行こうかな――、


 なんてことを思った瞬間だった。


「ステラ、あなた今、こっそり蕎麦でも食べに行こうかなって思ったでしょ?」


 アスカちゃんさんがそんな言葉をつぶやいた。


「――っ!?」


 ズバリ言い当てられてしまったわたしは、思わず目を見開いてしまう。


「アスカちゃんさん、まさかわたしの心を読んだんですか!? うどんテレパシー!?」


「うどんテレパシー……? なに言ってるのステラ? ステラがうどんに飽きたような顔をしてたから言ってみただけよ。ま、当たってたみたいだけど」


「ううーーっ! カマかけるなんてずるいです!」


「やれやれ、ステラはまだうどんに対する理解が足りてないようね。〇亀製麺に修行に行ってみる? 一心不乱に毎日ひたすらうどんと対話すれば、すぐに理解できるわよ。うどんが神にも等しい――いえ、うどんこそが神であるということを」


 アスカちゃんさんが、やたらと目をキラキラさせながら言った。


「えっと、その、遠慮しておきます……」

 なんか一度踏み入れたら、元の世界に帰ってこれなさそうだし……。


「そう、残念。でも気が向いたら言ってね。知り合いが店長してる店があるから、いつでもバイトの紹介をしてあげるから」

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