第3話 「なにとぞその方向でお願いします!!」

 そしてアスカちゃんさん(アスカムーン)と魔獣の戦いがはじまった。


「ヴァッッ!! ヴァッッ!!」


 またもや奇声をあげながら、高速で動いて攻撃する魔獣を、しかしアスカムーンはカウンターでしばきたおしていく!


 速さでは全然負けちゃってる。

 50メートル6秒フラットのステラ・ダッシュすら上回る魔獣のスピードの方が、アスカムーンより圧倒的に速いんだ!


 だけどアスカムーンは完全に相手の動きを、読み切ってるみたいだった。


「ふふっ、あなたの動きはすべて予測できます。いかに強力な攻撃と言えども、当たらなければどうと言うことはありません!」


「ヴァッッ!?」


「なぜ予測できるか、ですって? 簡単なことですよ。なぜならわたしはもう、あなたが何の物語から逃げ出した魔獣か、知っているからです」


「ヴァッッ!!!」


 魔獣がビクウッと、驚いた様子を見せた。


「物語No.5818034――『討滅の刃 -漆黒の復讐者- darker than "The BLUE"』の《想念獣》が、あなたの正体です!」


「ヴァッッ!! ヴァッッ!! ヴァァッッッ----!!!!」


 魔獣が怒り狂ったように激しくアスカムーンを攻撃し始めた。


「なんて苛烈な攻撃なの! あれじゃアスカムーンも!」


 わたしは思わず声をあげちゃったんだけど、アスカムーンはやれやれって感じでそれをことごとく回避する。


 そして、言った。


「あなたの攻撃はすべて予測できると言ったでしょう。いい加減に観念しなさい! ムーン・ウドン・ウィップ・エスカレーション!」


 アスカムーンの手に、どこからともなく巨大なうどんがあらわれた。


「ハァァァァァッッ!!」


 そして月の光を浴びたアスカムーンの強烈なうどんが、ムチのようにしなって、魔獣を何度も何度も、麺を伸ばすときみたいに、激しく叩きつける!


「うどんとはUDON、つまり並び替えればUNDO=運動となる! その膨大なうどん運動エネルギーに、あなたはどこまで耐えられるかしら?」


 す、すごい!

 きっとこれは、アスカムーンの必殺技だ――!


「ヴァッッ!! ヴァッッ!! ヴァッッ……」


 アスカムーンのムーン・ウドン・ウィップ・エスカレーションでしこたま叩かれた魔獣は、ついに動かなくなった。


 アスカムーンが勝利したのだ。


 そして、


なんじのあるべき物語に戻れ――ノベル・イン!」


 アスカムーンのその言葉で、魔獣はアスカムーンの持つ巨大うどんの中に、「シュワーン!」って吸いこまれていった。


「アスカムーン――いえ、アスカちゃんさん、ありがとうございました」


 わたしはすぐにアスカちゃんさんに駆けよると、いっぱいの感謝の気持ちを込めて、ガバッと頭を下げた。


 すると、


「わ、わたしはアスカムーンです。アスカちゃんさんなどという者ではありません」


 アスカちゃんさんってば、そんな変なことを言うんだよ。


「ふぇ? なに言ってるんですかアスカちゃんさん? だって誰がどう見ても、アスカちゃんさんですよね? これって、コスプレですか? うわー、すごく本格的でステキです!」


「うそっ!? なんで!?」


「なんで――って見ればわかりますよね? だって、どこからどう見ても、アスカちゃんさんですよね?」


 変なアスカちゃんさん。

 わたしはアスカちゃんさんの言うことが、イマイチわからずに首をかしげた。


「うどん粒子による認識阻害が効いてない? わたしのうどん女神パワーによる変身を、この子は見破ったっていうの!? まさかそんな高度な技術をもってるなんて……! ステラ、あなたいったい何者なの?」


「何者って、蕎麦とネギ栽培が好きな、銀河系アイドル志望の1年生ですけど……」


 アスカちゃんさんは、さっきからなにを言ってるんだろう?


「……どうやら嘘は言ってないようね」


「アスカちゃんさんに、嘘なんて言いませんよ!」


 わたしはわりかし正直な方だ。

 むしろ正直すぎて、何でも言っちゃって困ることも少なくない的な?


「……どうもあなたは、アスカムーンと似た力を持っているようね」


「アスカムーンってさっきも言ってましたよね? なんなんですか? アスカちゃんさんのあだ名ですか?」


「アスカムーンは古来より伝わる、弱きを助け、悪を斬る。そして物語を守る正義の味方なの。今はわたしが、引き継いでるわ。ちなみに13代目よ」


「そ、そうなんですか!?」


 わわわっ、さすがアスカちゃんさんです!

 言ってることは完全に電波入っててよくわからないけど、なんかすごい感じ!


 ステキ!!


「ねぇステラ、ここにいるってことは、あなたは学生寮に住んでるのよね?」


「はい、そうですけど」


「ならそこは引き払って、今日からわたしと同居しなさい」


「ふえっ?」


 アスカちゃんさんってば、急に何を言ってるんですか?


「あなたのその力は、きっとあなたが望まない物まで引き寄せてしまう。さっきの魔獣みたいにね。ステラ、あなたをこのまま一人にはしておけないわ」


「えっとあの……」


 アスカちゃんさんからいきなり同居しろと言われたわたしは、しどろもどろになってしまうんだけど、


「安心して、悪いようにはしないから。それにうちに来たら家賃、食費、光熱費もろもろ全部タダよ?」


 その素敵すぎる提案に、


「なにとぞその方向でお願いします!!」


 もろもろ全部タダと聞いたわたしは、力いっぱいに申し出を受諾した。


 ウーバ〇イーツ的スキマバイトをやってるだけあって、わたしはかなり生活が苦しい。


 この銀河への留学のさいに闇ブローカー、おっと腕利きの仲介業者さんに大金を払ったから、手持ちがほとんどないんだよね。



 というわけで。


 わたし早乙女さおとめステラは、アスカちゃんさんとうれし恥ずかしの同居生活をすることになったのでした!


 やったね!

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