第2話 「うどんとノベルのセーラー服美少女女神、アスカムーン! 月見うどんにかわってオシオキよ!」

 夜。


「うー、つかれた~」


 わたし、早乙女ステラは、学校帰りにいくつかウーバ〇イーツ的な配達バイトをこなして日銭を稼いだのち、帰途についていた。


 向かう先はアルファルド学園が用意してくれた学生寮だ。

 主にお金がない学生向けの施設で、相場からはるかに割安で借りることができるんだ。


「でもまだ4月だし、やっぱり日が暮れるのが早いなぁ」


 まだ5時だっていうのに、すでに周囲はすっかり暗くなってしまっている。


「急いでかーえろっと」


 夜道をてくてく歩いていくと、もう少しで学生寮ってところで、


「……? なにあれ?」


 2.5の視力をほこる自慢のステラ・アイが、道の先、街灯と街灯のあいだの暗がりに、何かがいるのを発見した。


 変質者かな?

 春になると増えるって言うもんなぁ。

 やだなぁ……。


 わたしは、少し距離をとって通りすぎようとする。

 だけど――、


「ヴァッッ!!」


 そいつは、とても人の発したものとは思えない奇声をあげながら、いきなりわたしに襲いかかってきたんだ!


「ひぇぇっ!?」


 ダダダダダダーーッ!


 わたしは逃げた。

 マッハで逃げた。


 あ、もちろんマッハ(1200km/h)が出せるわけじゃないからね。

 単なる比喩表現だよ?


 ウーバー〇ーツで鍛えた両足から繰り出される超速のステラ・ダッシュも、せいぜいが50メートルを6秒フラットってとこだから。


 しかし、わたしは回り込まれてしまった!


 うそっ!?

 わたしのステラ・ダッシュが敗れるなんて!?


 そして目の前には、まっ黒なクマみたいな化け物がいた。

 な、なんなのこいつ!?


 物語が始まってそうそう、わたしはいきなりの大ピンチ!


 っていうか、学園百合もの第2話だったよね!?

 ステキな先輩と出会ったのが、ついさっきだよ!?


 なのにこの展開は、さすがにおかしくない!?


 あらすじ詐欺&嘘キャッチコピーで、カクヨムの運営に通報しちゃうぞ!?

 垢Banされても知らないからねっ!?


 ステラ春のBan祭りをしちゃうんだからねっ!


 なんてアホなことを考えていた私に、クマみたいな化け物が近寄ってくる。


「ふぇぇ!? ちょっと待ってよーっ!?」


 ここからわたしは、どうなっちゃうの!?

 って言うかわたしぜんぜん美味しくないし!?


「ノー・ステラ、ノー・イート!」


 そんな絶体絶命の時だった!


 暗闇を切り裂く、女神の声が聞こえてきたのは――!


「物語から抜け出した悪しき魔獣め、やっと見つけたわよ」


 それは今日のお昼に聞いた、月明かりみたいな優しい声にそっくりで――。


 星座のまたたきを数えるような月の光に導かれて、わたしと先輩は、再びここで巡りあったんだ――!


「アスカちゃんさん……」

 わたしは、小さく自分だけに聞こえるかどうかの声で、つぶやいた。


 自分で発したその言葉が耳に入ってくるだけで、わたしは胸がドキドキと高鳴っていくのを感じていた――!


 これってもしかして――恋!?


「灰は灰に、塵は塵に。そして物語は物語に――」


 アスカちゃんさんが、シュバッ! シュバッ!ってなんか無駄にカッコいいポーズ(?)をとった。


 そして――!


「うどんとノベルのセーラー服美少女女神、アスカムーン! 月見うどんにかわってオシオキよ!」


 決めゼリフ(?)を言い放つ!


 きゃうん!

 ステキ!


 カッコいい!

 抱いて!


 ちょっと意味は分からないけど!


 でも、


「アスカムーン……?」


 ――って、なんなんだろう?

 アスカちゃんさんの、別のあだ名なのかな?


 あとで聞いてみようっと。

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