第15話

 ふと、『ステータス』の職業の所を視ながら気になった事を瑞貴は口にする。

 職業の所は相変わらず『暗殺者』であり(仮)の字が極端に小さい事も変化は無し。


「風早と竜堂の職業は?」


 周囲の視線が二人に集中する。

 風早は人懐っこいワンコ系なイケメンとして知られている。

 少々中二病を患っているのを知る者はあまりいなかったのだが……


「ふ、ふ、ふ! よく聞いてくれました!! 『空属性の騎獣弓兵』だって! 空属性だよ空属性! 絶対なんか凄いよ! 時空系みたいなのとかも使えたりってできたりとか……収納系のアイテム作れたりも出来るのかな~! 騎獣ってもしかしてモンスターに乗れたり!? うわーカッコいい!! 自分で言うのもなんだけど絶対カッコいい!!!」


 風早はまってましたとばかりに、一人テンションが上がってノンブレスで言い切っては嬉しそうに笑み崩れている。


「ダンジョンで乗る機会があるのか謎だが」


 ボソッと瑞貴が言うと、風早は涙目になりながら訴える。


「酷いよ丹羽! そうかもしれないけど、そうかもしれないけど夢を見るのは自由だろ!」


 小型犬がキャンキャン鳴いているのを幻視しながら瑞貴は面倒くさそうに竜堂へと話を振る。


「それで竜堂は?」


 頭をかきながら照れくさそう頬を赤らめつつ彼は答えた。


「『勇者』だってさ……何かの間違いだと助かるんだけど」


 途端に反応をしたのは斧研と風早、それから神崎。


「マジか」


「え、なれるの勇者ー!!!」


「勇者……勇者か……」


 三者三様の嘆きを聞きながら、一人の少女が手を上げる。


「ずっと悩んでいたのよ。これも職業なのかしらって……『聖女』と書いてあるのだけれど」


 おっとり気味に、首を傾けた事でふわふわの髪を揺らしながら淑やかな美少女の元生徒会副会長だった花山院 紫子かざんいん ゆかりこが口にした事柄に、今度は雪音、芽依咲、麗奈、杏が悲嘆に暮れる。


「あ、え……? 聖女……」


「ずるーい!! ユカユカずーるーいーーー!!!」


「何故こうなるのかしら」


「良いな……聖女、か……」



 それを尻目に、元庶務長でモデルと言われても納得の抜群のプロポーションの艶やかな美少女の片桐 恵梨佳かたぎり えりかは、しっかりと波打つ長い髪を耳にかけながら嘆息する。


「疑問なのだけれど、職業って重複する者なのかしら」


 その声を拾ったのは真宮と復活した斧研。


「というと、今まで出た誰かの職業と被るのかい?」


「そういう事もあるんだ……最初に提示された職業も少なかったから被るのも当然とは思ってたけど。これってどういう意味があるのかな」


 恵梨佳は眉をしかめながら口を開く。


「『勇者』となっているのよ。まだ同じ職業の方もいるのかしらね」


 周囲のほとんどが目を見開く中、瑞貴と鬼ケ原と愛美は、気になる反応をする者へと声をかけた。


「周防先生、どうしたんですか?」


 かなり外れかかっていた対人用の仮面を被り直し、瑞貴が問う。


「苺谷、珍しく静かっちゅうんは何の風の吹き回しだ」


 鬼ケ原は不審そうに、いつも上から目線で偉そう我がままを地でいく、見事な幼児体型の誰より小さなツインテールの美少女へと声をかけた。


「萌奈も美紅も小鳥もどうしたの? なんだか雰囲気違うけど……いつも通りなんてできないのは分かるし、小鳥はいつもの事みたいに見えるけど、でも、何か違うよね?」


 愛美は自分よりかなり小さな年下の少女達三人を案じていた。



「あー……似合わねぇなぁと思ってよ。『賢者』だってよ、職業」


 まず居た堪れなさそうに口を開いたのは周防。


「何よ!何よ!!何よ!!! 絶対バカにしてる! 『光魔法の斥候』って職業なのこれ!!! 私に相応しくない! ぜーったいに相応しくないんだからーーー!!!」


 顔を俯かせていた苺谷 美々いちごたに みみは、堰を切ったように喚き散らす。

 それをある程度左から右の耳へと流しながら、鬼ケ原はしまったとため息をもらした。

 この少女をなだめる事が唯一出来る男へと視線を送る鬼ケ原だが、瑞貴は華麗に無視をする。

 有り体に言えば面倒だから。

 聞き流しさえすればいいのだ。

 下手に話しかけてまとわりつかれる鬱陶しさと比べたら、左から右へと流しさえすればいいのだから黙って放置。

 それが瑞貴の方針だった。


「ねえ、愛美先輩。『鍛冶師』って何したらいいんでしょうかね……」


 本来は快活な美少女である知花 萌奈ちばな もなは、顔を傾けた事でナチュラルボブの髪を揺らしながら困惑を隠しきれていない。


「……『闇魔法の盗賊』ってどう思いますか先輩……」


 常ならば温容な美顔を誇る少女の坂本 美紅さかもと みくは、顔を顰め受け止め切れていない様だ。


「…………あ、あの……」


 度の入っていな厚ぼったい眼鏡さえ後ろにも前にも長い髪に埋もれて見える、小柄ながらとある有名なテレビから出てくる悪霊さながらの姫野 小鳥ひめの ことりは、丸めた背で更に小さくなりながら、言葉の続きを言う勇気が無かった。

 それでもどうにか口を開いてはみたのだが、視線は彷徨いつい瑞貴を見てしまう。

 ……常日頃から隠れてこっそり見詰め続けたのが瑞貴を目線がいつもとらえる理由だった。


「それで、姫野の職業は?」


 彼女の視線が向いたと同時にタイムラグなく声をかけたが瑞貴には特に含む所も何もない。

 単に視られたから口を開いた。

 ただそれだけ。



 ……それだけでしかないのだが……


「ひゃい! あ、え……あ……せ、『聖女』……です……」


 瑞貴が自分の名前を憶えているとは思わなかった小鳥は、それだけで変な声を出してしまいながら、蚊の鳴くようではあったが言い終える事に成功する。

 彼女は胸が一杯になっていたけれど、瑞貴は一度見たモノは忘れないだけ。

 高等部の全員の名前をサラっと記憶しておいたに過ぎない。

 ……瑠那と氷川と藤原、それから南野以外は瑞貴が瞬間記憶を出来る事を知らないのもあり、色々勘違いされることもしばしば。



 神崎と鬼ケ原にしてみても瑞貴のアレコレはいつもの事なので綺麗にスルーし、有用そうだと顔を見合わせていた。



 そんな微妙な沈黙を切り裂く声は、周囲の者にしてみても聞きなれ過ぎてため息が出る。

 こういう状況ならあいつは必ず叫ぶよな、という暗黙の了解中、美々は瑞貴の腕を無意識に掴みながら小鳥へと詰め寄った。

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