第14話

 斧研の声が届いているのは、前年度含む生徒会のメンバーに加えてモンスターを教師分殺した瑞貴と風早、竜堂。

 瑞貴の側にいると決めている聖羅に杏、それから神崎、鬼ケ原両名の一派。

 教師では周防だけだ。


「斧研先輩……?」


 真宮が恐々と名を呼ぶと、斧研は苦笑する。


「大丈夫だって。ちゃんと確かめたから。それに絶対これは取っておいた方が良い。あると無いとじゃ大違い。だからここにいる皆に見て欲しいと思ったんだよ……僕の見間違いであって欲しいって願望込みだけど」


 暗い表情になった斧研に嫌な予感がしつつ、聞こえていた全員は言われた通りにしようと『ステータス』を覗き込み、視線だけで色々動かせるらしいと把握した後、スキル欄にある『説明』を取る事にしたのだが……



「ねえねえ、アッス―。レベルアップって確かに聞いたのに私レベル1なんだけど。後、ポイント1000だよね。それで『説明』取るのに200って何? 高過ぎ。絶対おかしいって」


 芽依咲は頬を膨らませて斧研に異議を伝える。


「でも職業とは別にスキルが取れるんだから。職業にポイントを振っても良いみたいだけど。『転職』とかね。でもまずは他の何も取らないで『説明』を選ぶべき。高いけど取って損は無いよ。ポイント相応だと思う。それにね、何度も言うけど、”情報”は大事だよ。本当にね」


 斧研はどうにか苦笑しながら珍しく熱を帯びた口調で答える。



 斧研の常ならざる様子に皆が危機感を憶えた。

 どうやら余程の事があるらしい。



 瑞貴は『説明』を取る前に自分の『ステータス』を確認してみる。

 フラットな状態を確かめてから『説明』と見比べようとしたのだ。

 大体のその場に居たメンバーは同じ行動を取っているのを感じながら、先程より細かく『ステータス』を見る瑞貴。



 何度見ても職業は『暗殺者』となっているし、その脇に小さく、それこそ見つけるのが困難な程の米粒よりも小さな文字で”(仮)”となっているのだ。

 しかも黒い文字で。

 それ以外ではどうやら”筋力”や”体力”、”HP”や”ラック”だったりといった基本的な自分に関するデータ的なモノは影も形も無い。

 職業以外は星型のアイコンがあり、それに視線をやるとスキルと言われるものがズラズラと無数に並んでいる。

 どうやらスキル表という物らしく、上部に現在の所持ポイント、スキルの横には必要ポイントが記載されていた。



 スキルを一つ一つどんなに見ても、まったく効果が分からない。

 ヘルプの様なものさえ見当たらないのだ。

 職業、星型のアイコン、スキル表の文字は白で統一されていて、斧研の言う色分けは今の段階では分からない。



 瑞貴の職業は『暗殺者』でレベルは4となっていた。

 所持しているポイントは1400。

 これは瑞貴が多く殺したからなのだろうか……?

 それとも介助だとしても殺したと言えば殺したからだとでも?



『説明』を取ってみれば、その疑問も解消されるかもしれない。



 そう独り言ちてから、スキル表から『説明』を選択し取得した後、スキル表を見てみると今まで白一色だったのとは違い、赤くなっている箇所がほぼ全てであるのに気が付いた。。

 赤くなっている箇所には”奪取”や”コピー”、”鍛冶”と”錬金術”、”鑑定”や”識別”、”窃盗”といった有名なスキル類、”筋力アップ””魔力アップ””素早さアップ”といった素の能力のアップ系全て、”英雄の素質”と”ヒロインの素質”といった素質系全般、”魔法”、”時空魔法”等の魔法類全て、”魅了”に”千里眼”や”予知眼”といった眼に関するモノ、”経験値2倍””魔力消費軽減2倍”といった系統、”吸血鬼”や”鬼”、”ワーウルフ”や”エルフ”といった種族と思しきもの、”錬金術師”に”アサシン”、”勇者”と”英雄”、”救世主”に”聖女”といったメジャーな職業群を示す文字。

 ……”窃盗”や”鬼”、”救世主”は一般的かと言われると悩むが、誰かが願ったのかもしれない。



 スキル表から試しに白い文字の『説明』を見るとただ一言。


(安全)


 それだけが書いてある。

 他には何もない。



 瑞貴は考えて、『説明』の文字の横に目を凝らす。

 すると黒く小さな小さな小さなミジンコの様な小さい文字が見えてきた。


(レベルを上げますか? 消費ポイントは400)


 眩暈がしてきた瑞貴である。

 レベルを上げるのを保留してから、赤い文字の”奪取”を見るとこれまた一言だけ書いてある。


(危険)


 それを目にしてから、瑞貴は自分の職業が書いてあった場所をもう一度見てみる事にした。

 するとどうだろう、『塔の攻略競争について 入門編』という文字が、職業の書かれた文字の下の何も書かれてはいなかった場所に出現していたのだ。



 その項目へと視線を強くやれば、何やら文字が羅列されていく。



 書かれた所を見た瑞貴は思わず顔を顰めたくなる。


(1、同じセーフティーゾーンからゲームスタートした存在は同じチームとなります)

(2、このゲームはチーム戦です)

(3、各階層を先に制覇したチーム順に多くポイントが付与されます)


 それ以外は何も文字は出てこない。

 ならばと『暗殺者』の所を強く見ればやはり文字が現れた。


(速い・跳べる)


 その下に『能力』とあるので、そこを強く視れば更に文字が出てくる。


(センサー)


 他には何も書かれてはいない。



 そこまで見終えてから瑞貴は斧研へと声をかけようとした時だ。


「斧研先輩、これは……」


 真宮が掠れた声で呼ぶと斧研も肯く。


「皆ちゃんと『説明』取ったね。レベル1でも『塔の攻略競争について 入門編』は視れたでしょ」


 逢坂が心配そうな声を上げる。


「斧研先輩、この情報は全員に一刻も早く伝えるべきでは?」


「そうですよ先輩。ポイントを下手なものに振ってしまってからでは取り返しがつきません」


「私もそう思いました。これがチーム戦であるのならば余計に」


 続けて雪音と真宮も声を上げる。

 二人の言葉に生徒会のメンバーが肯き瑞貴を始め声が聞こえている全員も注視する中、斧研は重く暗いため息を吐くと、どこか自嘲した笑みを浮かべる。


「それはね、『説明』をレベル2にしてからもう一度考えた方が良いと思うよ」


 いつもは穏やかではあるが明るくもある斧研のいつもとは明らかに違う様子に全員首を傾げる。


「アッス―、『説明』をさ、レベル2にしたらほとんどなんにも取れなくなっちゃうよ。不味くない?」


 芽依咲が皆思っていただろう疑問を口にする。


「たぶん、それが”罠”なんだよ。ポイントなんてのは『説明』の為以外あまり意味は無いと思う。予想だけど、序盤は『説明』にポイントは使った方が良い気がする」


 斧研は暗い表情のまま、それでもこれ以上は無い程真摯な眼差しで告げる言葉はとても重かった。

 だからかもしれない。

 皆がそれぞれ『説明』のレベルを上げたのは。

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