3-02

 そこは、難攻不落の《城塞都市ガイア》――常時、魔物が湧き出す北の地から、人類領域を守るために造られた、防衛における最重要拠点。

 魔物達の攻撃を防ぐため、建てられた城壁は長大にして堅牢堅固。これまで一度たりとて破られた事はなく、最前線だけあって兵士・傭兵は屈強だった。


 けれど今、そんな不抜の城塞都市が――《魔軍》からの攻撃を受けているのだ。

 しかも相手は、ただの魔物ではない。いかにも屈強な傭兵の一人が、恐怖を叫ぶ。


「ひ……ひいいいい!? な、何だこの巨人共はァ……何でこんなにいやがるんだァ!?」


 それは、高く造り上げられた城壁にも匹敵する、《巨人ジャイアント》の――しかも大軍だった。一体二体ではない、数十体もの群れをなし、城塞都市を襲っている。

 本来、巨人は群れを成さない習性で、わざわざ小さな人間を獲物として見ない。だがどうやら《魔軍》には、そんな常識など通じないようだ。


 兵士や傭兵達の中には、果敢に応戦している者もいるが、《巨人》の大軍を前にしては、陥落も時間の問題だろう。

 ナクトの左腕側で、リーンが状況を整理するように言葉を紡ぐ。


「《城塞都市ガイア》からの急報は、《死の山》に遮られているから、すぐには南側へ届きませんわね……そしてタイミングから見て、《水の神都》が陥落していれば、死霊の大群が北上して、城塞都市を挟み撃ちにしていたのかも……そうなれば、今こうして抵抗している光景もなく、そのまま人類は敗北の一途を辿っていたかもしれませんわ」


 つまりナクトの言う通り、急いで《城塞都市ガイア》へ向かったのは、正解だった。

 そして到着した今、やるべき事は明白と、ナクトは巨人達の群れを見据えた。


「とりあえず、降りていくか――《世界大旋風ワールド・タイフーン》――!」

『ウオオオオオオン……ウォン?』


 とりあえず、降りていく――その身に纏わせた風を巨大化させ、刃に変えながら周囲へ広げ――暴れまわる巨人達を切り裂き、吹き飛ばしながら――!


『ウオ。……ウ、ウオッ、ウッ――ウソオオオオオン!?』


《城塞都市》の兵士に襲い掛かっていた巨人達の巨躯が、ひっくり返され、吹き飛ばされ、彼方此方へと転がっていく。


 とりあえずの着地で多くの巨人達を薙ぎ倒したナクトは、レナリアとリーンをゆっくりと地に下ろした。


「到着、っと。二人とも、足元に気をつけろよ」

「は、はいっ。ありがとうございます、ナクト師匠っ」

「感謝いたします♪ はあ~、ナクト様のエスコート……癖になりそうですわ♪」


 派手な到着に反して、傷一つない《姫騎士》と《女教皇》。

 人類にとって最高峰の知名度を持つ二人の到着に、周囲の兵士達の反応は。


「な、なんだ、今の嵐……え? ……あ、あれ……《光冠の姫騎士プリンセス・ナイト・ティアラ》様じゃねぇか!?」

「ま、マジじゃねぇか! だいぶ前に、視察にいらっしゃった時、遠目に見て以来だぞ! じゃあ、今の……俺達を助けに来てくだすったんじゃねぇか!?」

「ちょ、待てよ! もう一人、あ、あの人って……《水神の女教皇》リーン様じゃ!? 水上都市で傭兵やってた時、祭りン時に一度だけ見たことが……」

「ヤベエ……すげえことが起こってんじゃねぇか、コレ……!?」


「《姫騎士》様、《女教皇》様、バンザ――……ってギャアアアア!?」


 いつものノリになりかけた、直前――猛る巨人一体の足踏みにより、文字通り蹴散らされる兵士達。当然だ、〝とりあえず〟で倒した巨人は全体のほんの一部で、まだまだ敵の戦力は健在なのだから。


 そもそも、戦力が違いすぎる。あまりにも巨大な敵を相手に、屈強な最前線の兵士達といえど士気は低く、このままでは全滅必至――

 と、その時、リーンが上品ながら明朗に通る声を、周囲へと放つ。


「《城塞都市ガイア》の、勇猛なる戦士達よ――今は一度、お退きなさい」

「!? え……《女教皇》、様?」


「このまま正面からまともに戦い続けても、消耗するだけです。あの巨大な敵を打ち倒すために、準備を整えてください。弓を、弩を――出来る限り、強い〝装備〟を」

「は、はいっ! あ、しかし、奴らを放っておいては、城壁が破壊されてっ……」


 兵士が危惧を口にすると、リーンは簡潔に、首を横に振る。


「……いいえ、それは大丈夫です。そうでしょう……レナリアちゃん?」

「! リーンさん……はいっ! その通りですよ、戦士の皆さん!」


 微笑むリーンに促され、すう、とレナリアがと大きく息を吸い――《光神の姫冠》から、光剣を抜き放つ。


「《魔軍》は――私達が、食い止めます! 私達を信じて、行きなさい――!」


 レナリアの咆哮一発、びくっ、と痙攣する勢いで立ち上がった兵士達が、目つきを高揚で昂らせながら、足並みを揃えて退却していく。


「《姫騎士》様、《女教皇》様……任せてくだせェ! お前ら、いったん戻るぞォ!」

「今持ってる武器なんざ捨てて、急げェ! ありったけの矢ァ持ってくんぞォ!」

「「「おおおーーーーっ!」」」


 最前線の屈強な兵士達が、文句も言わずに従っている。

 これは、《光冠の姫騎士》と《水神の女教皇》の名声に依るものだけではない――間違いなく、レナリアとリーン自身の有する、人徳と才能が成せる業だ。


 一先ずの指示を出し終えたリーンが、冷静に態勢を整えようとする。


「これでよし、ですわね。さて、相手は巨大な巨人さん。慎重に対応を――」


「喰らいなさい! 《光剣レディ・ブレイド》! てえええええいっ!」

「えっ。……れ、レナリアちゃん!? 待ってください~っ!?」


 気持ちが昂り過ぎてしまったのか、己の数倍は優にあろうという巨人を相手に、レナリアが斬りかかっていく。

 そして勢いよく振り下ろした光の刃が、巨人の足を、一撃のもとに斬り裂き――!


「てええええい………ふゃんっ」

『イテッ』


 ……ぼかっ、と叩いた脛を、巨人は軽くさすっていた。

 一方、レナリアは叩いた反動で尻餅をついていたが――叩かれて(そこそこの)怒りに燃える巨人に、狙われてしまう。


「あ、あいたた……はっ!? し、しまっ――」

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