足は飾り?(4)

「くすぐったいの!」

「いや、靴を脱ぐから触って観察してもいいんだとばかり。じゃあ、もっと力を抜いて触りますね?」

「にゃにゃー、なのっ! 余計にくすぐったいの!」

 また頭を叩かれました。

「レリが脱ぐの! 観察はギナがするの」

「そのほうがぼくの頭への負荷が少なくてすみそうですね」


 彼女の小さな手がぼくの足をまさぐり始めます。確かにくすぐったいですが、柔らかくてすべすべの指が足の甲を這うのは心地よくも感じます。

 ギナの緑の髪に覆われた頭が足元に屈みこんでいるのは少々背徳的な印象もあります。が、それよりも愛しさが勝って思わず撫でてしまいました。


「なんで撫でるの?」

「いえ、なんとなく。すみません」

「いいの」

 彼女の頬が少し赤らんでいます。

「踵の骨は独立してるの。でも独立して可動する構造にはなっていないの」

「ええ、どんなに意識しても踵だけ動かすのは無理ですね」

「可動しないのに足の裏の筋肉はしっかりと付いているの。クッションの役目をしているの」

 初めて知る事実です。

『接地の衝撃から足全体を保護しているとされています。また、踵から爪先にかけての筋肉群はアーチを形成しており、これも衝撃緩和に有効な働きをしております』

「なんでもないように見えて大切な働きをしているんですねぇ」


 人体の神秘に触れた感覚。ギナとロボット開発をしていなければ知ることもなかったでしょう。


「分かってきたの」

 ぼくの足に触れながら彼女は言います。

「重要なのはこのアーチ構造なの。アーチを拡大して反映するにはやっぱり爪先と踵は独立して可動しないといけないの。人体とは異なる構造にしないと足首への衝撃は防げないの」

『ギナ様のイメージをモデル化いたします』

 ファトラも計算を始めます。


 長円の一部が切り出されたような爪先が現れます。蹄みたいな円弧を描いています。踵も別個に形成されました。

 爪先と踵のパーツに可動するフレームが斜めに伸ばされ、アーチを模した構造が形成されます。固めるように何本ものシリンダが接続されました。


「これだと接地面が少なすぎませんか?」

 面積当たりにかかる荷重が大きくて部品に負担が増えそうです。

「そのためにシリンダを増設したの。接地部分への負荷はクッションとして働いて吸収してしまうの。それに支持面積が少ないほうがバランス制御がしやすくなるの」

『手首より可動範囲の狭い足首は構造強度を上げやすいのです。衝撃だけ緩和できれば十分に実用可能な機構であるという計算結果が出ました』

仮組かりぐみして実証実験をするの」


 一応の結論らしいです。これでロボットも人の形になりました。ギナは実物の小型化モデルも製作しているようです。


「接触面積が小さいほうが蹴りの威力も増すのー!」

「そこですか」


 もうひと息のところまでやってきました。

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