飛べないとダメ?(1)
新刊の売れ行きは上々だそうです。担当編集さんが教えてくれました。
もっともフィクション小説ではなく経済関連の書籍なので初動は重要視されていません。どちらかといえば長期にじわじわと売れたほうが出版社さんも嬉しいでしょう。
すぐに印税は入ってきませんが計算ができるので懐に心配はありません。今日はお高めのお菓子を携えて研究所にやってきました。笑顔で頬に詰めこんでいるギナを見られるなら安いものでしょう。
「おいしいの~」
「喜んでもらえたなら甲斐があります」
お茶をすすりつつ彼女を眺めます。
『本業のほうも順調なようでなによりです、レリ様』
「何も言ってませんよ」
『
「ファトラには敵いませんね」
新刊の売れ行きを話すとギナも我が事のように喜んでくれます。ですが、しばらくすると表情が曇りました。
「良いことなの。でも、あまり売れると忙しくなってしまうの」
「小説のほうならともかく、ビジネス書関連はそうポンポンと出せるものではありません。語りつくされた分野に一石を投じるようなネタなど、そうは転がっていませんから」
他の人の著作も眺めながら閃きが浮いてこないと話になりません。
「どんどん出してガンガン儲けている人の話も聞くの」
「そういう方もいらっしゃいますね。でも、正直中身は薄いんです。同じことを何度も書き方を変えて出版していたりもするので。ぼくはそういった言葉の詐術的な技法は好きではありません」
『レリ様のその方針が著作にも表れて売れ行きに反映されているのでしょう』
ファトラに持ち上げられます。
「商業的にはぼくのほうが劣っているといえますよ?」
「売れるのはレリのファンがいるっていうことなの。やり方を変えるときっと寂しがっちゃうの」
『ギナ殿、心配せずとも
自分の
「書けなくなってもギナの助手の道があるので自信を持つの」
『レリ様の視点と着想があれば、こちらのほうがより良い収入をお約束できるかと思われます』
「なんに自信を持てばいいんですか。一応は筆を折りたくはないんですけどね」
笑顔で言われても困ります。
「地道にやっていくんでいいんです。それより残っているのは推進機の話でしょう?」
「なのなの。ギナのロボットが羽ばたく時なの」
『どうなさいますか? 幾つか挙がった試案の検証から始めますか?』
既に片足を突っこんでいるというツッコミは無しの方向で。
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