股関節は強靱さが必要?(3)

 3Dモデルまで見せられてしまいましたから話すまでもないと思います。でも、わざわざギナが話題にした以上は完成形ではないのでしょう。


「どの辺が問題なのですか?」

 話しやすいよう笑顔で促します。

「動かすのは簡単なの。でも、今ひとつ強度に満足できないの」

「そんなに強度が必要なのかな?」

『レリ様、基底部にあたる股関節には上半身の重量が全て掛かります』

 代わりにファトラが告げてきます。

「その辺はなんとなく分かるんですけど、反重力機構ティバルグがあれば慮外にしてもかまわないのでは?」

『ギナ様はティバルグ無しでも最低限の行動は可能な構造を求めていらっしゃるのです』

「え、それはちょっと厳しいんじゃないですか?」

 ちょっと驚かされました。


 反重力機構ティバルグの使用は前提条件。それ抜きで駆動可能なロボットを造りたいと考えているのならば、色々と考えなおさねばならない点があるでしょう。

 強度的に駆体はそうとうの重量になるはずです。彼女のことなのでそれを踏まえての発言なのでしょうが。


「難しいから助けてほしいの」

 下がり眉のギナには勝てません。

「分かりました。現状を教えてください」

『設計試案です』

「これですか」

 腰から股関節にかけての3Dモデルを注視します。

『上半身の荷重を支える基底フレームの下に、大腿に繋がる回転軸を設けてあります。足を広げるときに使う駆動構造はこちらに付与されています』

「歩いたり走ったりするための駆動構造は大腿フレームとの接続部側に付けられているんですね?」

『肩と同じく強固な接合が困難です。ですので十分な補強を施してあります』


 フレーム構造そのものはこれで確定のようです。計算通りの強度は確保されているのでしょう。つまりは駆動系に必要な強度を持たせるのが難しいという意味です。


『回転軸に駆動板があり、その先に積層円形シリンダを設置いたします。基底フレームの軸受けから駆動板へと放射状にストレートシリンダを接続。大腿部の開脚駆動を制御いたします』

 歩行用の駆動系の内側に開脚用の駆動系が設けられています。

「ぼくにはそのままで動きそうだとしか思えないんですけど?」

「問題点があるの」

『ギナ様がおっしゃっているのは放射状のストレートシリンダです』

 点滅を始めました。

『この構造は垂直方向からの衝撃に弱い性質を持っています』

「走ったりするのは負荷が掛かりすぎるんですね?」

「違うの。蹴れないの」

 おや、幻聴でしょうか?

「はい?」

「キックの衝撃に弱いの」

「今度は蹴りたいんですか!」


 予想外の方向の問題点でした。

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