股関節は強靭さが必要?(2)

『開発費に関しては、完成後の試用を基に算出する形式を提示します。それ以外の条件を了承し情報提供を続ける形にいたしますが、よろしいでしょうか?』

「それで進めるの」

 ファトラの了解を受けて話を続けます。

「しかし、軍が目を付けましたか。ぼくは軍用機に造詣が深くないので、どの程度違いがあるのか分かりませんね」

「ギナも詳しくないの。似たような機体が運用されていないのだけ調べたの」

『面白い話があるぞ、主よ』

 ぼくの人工知能アテンドの声に興味深げな色が混じっています。

「なんです?」

『この件に関して軍内部に要員の存在が確認できる。開発ネーム「ヒュノス」の検証を担うチームらしい』


 なるほど『人を象るものヒュノス』ですか。我々人類ヒュノーを模した機械なのですから、この命名も解らなくはありません。ですが、検証チームを立ち上げるほど注視されていますか。もっとも公表されている部署ではないでしょうが。


「ラノス、深く潜りましたね?」

『少々な。許せ、主の身にも及ぶことだ』

「相手が悪いです。今後は加減しておいてください。あまりに不利益が発生するようなら自分で動きますから」

『全力でサポートする』


 ことがことだけに釘を刺しておきます。逆に勘繰ったこと自体が相手を刺激してしまう可能性もあるので。

 ぼく自身も少し軍関連を勉強しておく必要がありそうですね。本業のネタにはなるでしょうから損はありません。


「外野は気にせず、ギナは好きなことだけをするの」

 彼女は割り切った面持ちです。

「ええ、そうでなくては満足のできる物はできないでしょうからね。ぼくたちはぼくたちで行きましょう」

「ギナのチームのほうが優秀なの」

 気合は削がれていないようです。

「その意気です。それで今日はどこでしょう? 足ですか?」

「その前に腰から股関節にかけてを詰めないといけないの」

『想像しにくいかもしれませんが重要なパーツの一つであります』

 ファトラも賛同しています。


 ふむ、股関節。地味なようで、確かに可動域の広い場所ではありますよね。

 歩行や走行をするのですから前後に大きく旋回します。後ろにはそれほどではありませんが、前にはかなり高い位置まで上がる構造になっていますね。確かにこれを機構に落としこむのは難しく感じます。

 それはぼくだからであって、ギナにはそんなに難しいとは思えないんですが。側方にも広い可動域を持たせなければいけないとしても。


「超電導モーターとシリンダの組み合わせで何とかなりませんか?」

「可動域を確保するだけなら十分なの。旋回はモーターじゃなく、レリ発案の円形シリンダを応用して複層構造にする予定なの」

『表示します』

 3Dモデルは回転軸を囲むように三重の円形シリンダを配置して回転力を強化しているようです。


 自慢げに張ったギナの胸がふるんと揺れました。

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