股関節は強靭さが必要?(1)

「ロボットのこと、どこかで話した、レリ?」

 唐突に幼馴染のギナに言われました。


 時間にゆとりができたので、こまめにギナ・ファナトラ機械工学研究所に通っています。そんなある日のことでした。


「特に公言はしていません。ロボット開発の件は極秘でしたか?」

 言いふらした覚えなどありません。

「別に秘密ではないの。でも売り出す気もなかったの」

「口振りからして引き合いがあったということですね」

 ぼくは理解しました。


 記憶を探ります。ギナとの交友は周知の事実ですので、彼女に関して質問を受けることも多々あります。もちろん権利の侵害を受けかねない質問には答えたりしません。ですが、自由に研究の日々を過ごしているくらいは伝えます。


「あー、あれですかね……?」

 ひとつ引っ掛かりました。

「言ったの?」

「担当編集さんが、最近は君が何をしているか訊かれたんです。その時にロボットを造っているとは話しました。懇意にしてる技術部門の記者が話題を探しているのだと言われましたので。ありふれた研究開発ですとは言い添えておいたのですが」

「きっとそれなの」

 まさか食いついてくるとは。

「どこからの引き合いだったんですか?」

「軍の研究部門なの。秘匿を条件に情報開示を求められたの」

「それはまた断りづらいところから……」


 民間ならいくらでも突っぱねられます。ギナも押しに弱いわけではありませんし、そもそもファトラが取り次ぎさえしないでしょう。しかし、相手が政府機関ともなると人工知能アテンドが判断を下すことはできません。


「何とかしましょう。政府に働きかけて黙らせるくらいはできます。興味が失せるには時間がかかるでしょうが」

「できるの?」

「ぼくに責任があります。持ちうる限りのコネクションを駆使しますよ」

「無理しなくていいの。難しい条件の提示はないの」

 ぼくが立場を悪くするのを気遣ってくれているのでしょう。

「どんな条件です、ファトラ?」

『第一に期限が設けられておりません。第二に仕様を要求されておりません。第三に用途を制限されておりません。第四に受託した場合の開発費の提供が約束されております』

「依頼としては破格ですね」


 軍の上のほうにはギナの性格を把握している人物がいるようです。その方が無茶な条件提示を禁じたのでしょう。自由にさせたほうがより良い結果を得られると。


「お金に困っているわけではありません。つまらない横槍が入るのは面白くないでしょうから断ってもかまわないと思います」

「レリがそうしろって言うなら断るの。でも、ギナの造ったロボットがどれくらいの実用性がある機械にできあがるかは興味があるの」

「そこは外部の比較対象がないと検証できない部分ですもんね。軍用ロボットの仕様を寄越せとも言えませんし。では、開発費の件は保留にして情報提供だけ進めてもいいんじゃないですか?」


 ぼくの提案に彼女はこくこくと頷いています。

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