腕は複雑かも?(5)

『たとえフレームを動力軸スピンドルに見立ててモーター駆動させようとしても、回転機構を組みこんだだけでフレームの強度は大きく減退いたします』

 ファトラがフレームそのものに駆動力を付与する機構も否定します。


 拳に対する正面からの衝撃にモーターは耐えられません。フレームも回転などの機構を組みこめば強度を犠牲にしなくてはならなくなります。

 では、実際に人体は拳への衝撃にどうやって耐えているのでしょう? ぼくは自分の腕をまじまじと眺めてみました。


「前腕って骨が二本ありますよね?」

 触れてみて気付きます。

『その二本がクロスするように動くことで捻じれに対応しているのであるぞ、主』

「そうですね、ラノス。それならこれと同じフレーム構造にしたほうが強度は上がるんじゃないですか?」

「もちろん考えたの。骨のたわみに強い性質とか色々あるけど、構造としては総じて強度を上げられるの」

 ギナも同意します。

「考えたっていうことは問題点が?」

『フレーム構造そのものには問題はございません。ただし、駆動する機構が組めないのです。なにせ筋肉は湾曲にも耐えますので』

「あ!」


 確かに筋肉は骨に合わせて形状を変化させつつも伸縮する能力を維持しています。しかし、駆動シリンダは直線のストローク駆動しかさせることができません。


『それを踏まえて湾曲型シリンダの開発に着手しておりました』

 予備作業でそんな話も出ていましたね。

「それなら解消しているんじゃないですか?」

『開発は頓挫しております。駆動させるのは難しくはないのですが、湾曲構造は衝撃への耐性があまりに低いと判明しております』

「あらら」

 落とし穴があったようです。


 ギナが悩んでいたのはこの点なのでしょう。フレーム形状は維持しつつ、駆動させる手段に困っているんですね。


「外付けで回転する駆動機が必要なんですね?」

「なのなの」

 期待の目で見られています。

「駆動力からしてジェルシリンダが理想的。それなら回転するシリンダを作れないものなのですか?」

「回転するの!?」


 ぼくは操作円環バーゲを介してイメージを転送します。環状のガイドレールに沿うリングシリンダです。これを二段重ねにすればどちらの方向にも180°までは回転するはずですが。


『強度計算を行います』

 ファトラがすぐに確認を始めます。

『気密構造などに詰めが必要ですが、駆動力、強度ともに実現可能です』

「すごいの! これならあまりスペースを使わなくてすむの!」

「はいはい、その分フレームの強度に振り分けて、殴る時の腕力を強化できるんですね?」

「なのー!」

 ギナは喜んで抱き付いてきます。


 どうやらぼくは格闘できるロボット開発の共犯者になりつつあるようですね。

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