腕は複雑かも?(4)

「手の部分は構想があったから簡単だったの」

 ギナはそう告げると表情を曇らせます。


 調子よく進んでいるので出番などないと思っていたんですが間違いでしょうか? そもそも、僕のような素人が機構などの設計の参考になる意見など出せるはずがないんですが。


「手首の構造に苦心してるの。今一つ閃かないの」

 手首の構造が彼女を悩ませているみたいです。

『ちなみに手首は、360°どの方向へも曲がらねばなりませんし、手そのものを回転させることも可能でなくてはなりません』

「普段は意識していませんが、言われてみると自由度の高い関節の一つですよね」

『人体でも有数といえるであろう、主よ』

 ファトラの指摘に、ぼくは自分の手首を動かしながら確認していました。

「これは難物ですね」

「曲げるのは難しくないの。ボールジョイントフレームと複数本のジェルシリンダで制御可能なの」

『具体的にはこのような機構となります』

 3Dモデルで示されます。


 前腕のフレーム端に被せるような球形ジョイントで手は繋がっていますね。前腕側から伸ばされた六本のシリンダがボールジョイントへと接続され、それらの圧力制御で自在な方向に手首が曲がる仕組みになっています。


「これで問題無いんじゃないですか?」

 ぼくにはできあがっているように見えます。

「足りないの。手首は軸方向で回転もするの」

「あ、本当だ。180°は回転しますね」

『それらにより手先は複雑な動作を実現します』

 ギナやファトラの言う通り、回転しないとどんな作業もままなりません。

「これこそ簡単なんじゃないですか? だって回転させるのは超電導モーターの最も得意とするところではありませんか」

「手首にモーターは噛ませられないの」

 一言の下に否定されます。


 新しい3Dモデルは一般的な超電導モーターの構造を表しています。外側の円筒をしたケーシングドラムが駆動磁界を発生させ、内部に封じ込めた超電導素材の中子コアを回転させます。回転力は中心軸スピンドルによって動力として出力されるのです。


『ご覧のように動力軸は機構の中心を貫いている構造を持っています』

 手首を回転させるとしたら、フレームそのものに組みこむことになるでしょう。

「何か問題でも?」

「ケーシングドラムとコアは僅かな隙間で浮遊状態になってるの。だから横方向からの衝撃には何とか耐えられるの。軸を固定する補助構造も可能なの」

『出力を高めた強磁界であればなおさら横からの衝撃には強いのです』

 ファトラが補足してくれます。

「でも、軸方向の衝撃には弱いの。コアがずれたり抜けたりしかねないの」

「……つまりは拳に対する衝撃に弱いという意味ですね?」


 単純に超電導モーターの回転動力だと殴ると壊れるとの主張らしいです。

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