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「さて、マコトくんは、今暮らしているこの島のことを知っていますか」

 先生が急に訊いてきたので、マコトくんはどぎまぎしてしまいました。

 この島のこと……といっても学校で習ったこと以外はわかりません。

 瀬戸内海の小島で、三百人くらいの人が住んでいて、畑を耕したり、魚を獲ったり、道具や品物を作ったりして暮らしている。

 その程度しか覚えていません。

「これまで禁じられていたのですが、今日は、やっぱり伝えなくてはいけません」

 マコトくんの表情を見ながら、先生は、かみくだくように言葉を重ねました。

「この島は、特別指定保護地区、サンクチュアリと呼ばれています」

 ちょっと言葉が難しい。マコトくんは眉をしかめました。

「ああそうか、もう少し詳しくお話しした方がいいですね」

 メガネをちょっと上げて、先生は話を続けました。

「守るべきものを保護する場所として、特別に選ばれた場所です」

 マコトくんは、眉をしかめて首をひねりました。

「守られているものはたくさんあります。何よりまず、動物や植物などの自然です」

 先生に言われて、通学路で見てきた景色を思い出しました。

「今朝のマコトくんの話に出てきた小川のヒラブナも、ヒバリも、柴犬のコロも、それからツクシも、保護されるためにこの島に集められてきました。大人たちが、いくつもの山と森と川を回って、注意深く検査して、よく吟味された環境の下で育てられています」

 魚や虫を獲ったり、草や花や枝を踏んだりつみ取ったりしてはいけないと大人が言うのは、そのためだったんだ。マコトくんは思いました。

「それだけではありません」

 汗をかいたのか、先生はポケットからハンカチを出して、メガネを外すと額を拭きました。

「この島の建物と街並み。すべて外から移してきたものです」

 今度はにわかには信じられません。すいぶんと大掛かりな話です。

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