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「それでも、ずっと休まずに学校に来てくれましたね」

 突然何を言い出すんだろう。マコトくんは、思わず体を硬くしました。

 先生は、つぶやくように次の言葉を絞り出しました。


「これまでマコトくんひとりの授業を続けてきましたが、それも難しくなってしまいました。今日が最後の授業です」


 先生の声が遠くの方から響いてくるような気がします。

 言葉の意味はわかります。でも頭が追いついていきません。どう思い、感じたらいいのか、戸惑うしかありません。

 大人たちがざわつき出しました。マコトくんが初めてこのことを知らされたのを気にしているようです。

「いきなりで驚いたことでしょう。先生から、今日まで伏せておきたいと強く推しました。最後の日まで、ふだんどおりに授業する方が、マコトくんにとってはよいのではないか、と思ったからです」

 先生の口調はいつもと変わらずにやさしいのですが、そこかしこに、先生自身も悲しくて叫びだすんじゃないかというような響きがあって、マコトくんは心配になりました。

 ざわめきながらひそひそ話していた大人たちの中から、声があがりました。


「最後の日になってから初めて伝えるなんて、ショックが強すぎるのではないですか」

 キムラ先生は、その大人をにらみつけました。

 ふだんの先生からは想像もできないくらい険しい表情です。

 発言した大人は黙りました。でも、他の大人たちは騒がしくしています。

 先生は眉を曇らせました。

「ここにおいでの皆さんは、そろそろ授業を始めてほしいようですね」

 それから天井を仰いで大きくうなずき、何かを決意したようにマコトくんを見ました。

「それでは、予定を変えて、社会科の特別授業を始めましょう」

 何人かの大人たちが、手に持った紙をちらちら見ながら首をひねっている様子が見えます。

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