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「面倒見がよくてやさしくて、マコトくんが膝をすりむいたときは、小さなポーチに入っていたバンソウコウを貼ってくれましたね。アスカイくんも、半年前から病気で学校を休んでいたのは覚えているでしょう。つい二週間前、亡くなったと連絡がありました。マコトくんには知らせていませんでしたね」

 キムラ先生の目が宙を泳いでいます。

「ちょうど同じ頃、キザワケイイチくんも亡くなっています。彼はマコトくんがこの学校に来る前から休んでいました。キリュウさんと同じ五年生でした」

 マコトくんは、じっと椅子に座って先生の言葉を聞いています。

「ニキカイトくん。マコトくんとちょうど入れ違いで二年前に学校を去った生徒です。彼は病気ではなかったので、先生も詳しい事情はわかりませんでした」

 先生が自分に向かって話しているのかどうかも、よくわからなくなりました。

「イイオカサダミチくん、コマエダマリナさん、シテンジユミカさん、ナツミヒデオくん、カガイテツロウくん、ノノイレナさん……」


 先生は、廊下の方に目をやりました。

「不思議なものですね。皆があの扉から入る時の姿が、目に浮かびます。先生が受け持った生徒は、全部で十五人でした。それぞれの机の上に花瓶を飾っています」

 そう言いながら、机ひとつひとつに目を移していきます。

 それぞれ色も形も違う花瓶に一本ずつさしてあるマーガレットは、マコトくんも手伝って、一週間前に花壇からつんできたものです。

「マコトくん、いつも花をさすのを手伝ってくれてありがとう」

 先生は、やっとマコトくんの方を見てくれました。よくわからないけれど、なんだか少しほっとしました。

「あれから、この学校の生徒はマコトくんひとりです」

 たしかに、三学期の間は、ずっとキムラ先生とふたりきりの授業だったので、退屈な授業がさらにつまらなく感じるようになりました。


 先生はにっこり笑い、言葉を続けました。

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