ユニオン・ジョイニング

また3話投稿してあるよ!


★★★★★★★★★★★★


・俺(リュウ)


「リュウ、ここが傭兵組合だ。賑わっているだろ?」


「そうだな。随分と人はいるが……思ってたより男女問わずなんだな」


「まあそうだな。兵士と違って使うのは船だからな。度胸ある奴がなる仕事だわな」


 俺たちが来ているのはさっきまでいた本庁から戻ってドックのある階層。ここも広く、船のあるさっき降り立った場所から位置的には下になって、そこには関税とかを抜けた商品が並んだりする商店街みたいになっている。そこの一角にあるのが傭兵組合っていう施設なのだ。


「登録は簡単だ。金も要らない。登録したいって気概と簡単なテストだけだ。戻ってきたら美味い店紹介してやる。気張らずに行ってこい!」


 オッサンに背中をバシバシ叩かれながら俺とメーデンは傭兵組合の門を潜る。


 俺たちが入ったことで組合内は少しだけざわめきが収まった。ふむ、テンプレか?

 しかしすぐに元に戻る。どうやら見た目だけで舐めてくるみたいなテンプレは無いようだ。まあそうだよな。若いと思ったら自分よりも年齢も実力も経験も上とかありそうだし。

 特に何も起こらずカウンターまでたどり着くと、すぐに対応の人が出てくる。


「らっしゃい、見ねえ顔だな。登録か?」


 出てきたのはスキンヘッドにサングラス、目の辺りに傷があり、スーツに見える服は黒い革のジャケットという見るからにヤバそうな見た目のオッサン。マフィア○田か?


「ああ。さすがにそろそろ手を出そうかと思ってね」


「そうか。なら船名とあんたの身分証見せな。こっち側で新たに船の識別番号を発行しなきゃならねえ」


「あいよ」


 俺はタメ口で接する。これも一種の処世術だ。傭兵みたいな連中があつまる場所で敬語なんて使ってたら舐められる、だそうだ。


「なるほど、300メートル駆逐級宇宙船グウィバーか。いい船じゃないか」


「そりゃどうも」


 俺はさっき貰ったばかりの身分証を見せながら色々と答えていく。


「そういや、あんたは今まで何をやってたんだ?」


「ちょっとばかし細々と商人ごっこをね……ま、ある程度金も溜まったから転職ってとこだ」


 俺がここに来るまでにオッサンと考えたカバーストーリーだ。さすがにコールドスリープ明けと言うことをばらすと面倒なことになりかねないって事で元々別の仕事をしていたが、傭兵に転職する……ってことにしてある。メーデンはその相棒って感じだな。


「俺たちゃ、特に誰も拒まねえ。船はあるんだろ?なら登録はしてやる。が、艦長兼操舵士のあんたにゃテストを受けてもらうぞ」


 なるほど。俺はどうやら艦長と操舵士を兼任している扱いになるらしい。となるとメーデンはどう扱われるんだろうか。マスコットか?


「テスト?なんか聞いたな」


「こっちもあんたにどんな依頼回しゃ良いのか分からんからなその基準にでもさせてもらう。こっちだ」


 オッサンは手元のタブレットを操作しながら俺たちを奥に案内する。


「あんたがパイロットだろう?ならばここのシュミレーターで実力を測らせてもらう。いいな?」


「ああ。問題ない」


 戦闘はアステールに任せていたとはいえ、操作方法なんかは頭に叩き込まれている。なんとか傭兵にはなれるだろう。


「これだ。こいつらに乗ってやってもらう」


 シュミレーターは思ったよりも大きく直径2メートルくらい。それが何台か設置されているから部屋もかなり大きい。

 中を覗いてみるとそれぞれ少しずつ内装が違っていて、まるで戦闘機みたいなコックピットからクルーザーみたいなもの、グウィバーと似たタイプのものといくつもある。

 俺は当然グウィバーに似たタイプのものに乗り込む。


「テストの内容は簡単だ。敵が襲ってくるから倒せるだけ倒せ。それだけだ。制限時間は最大で三十分。乗り込んで、起動させたらスタートだ。いいな?」


「おう」


 シミュレーターの扉が閉まる。かなり薄暗いな。

 メーデンはこっちを心配そうに見ている。安心させてやりたいが、今はこっちだ。さて、試験内容はわかっているが、ただ敵が襲ってくるのを倒すだけでいいのか?モニタリングしているんだろうし、何か評価点でもあるのかね。


『よし、今からあんたの船とテストのデータを同期させる』


「同期?テスト用の機体とかじゃ無いのか?」


『そりゃあデフォルトのデータで好成績を出せるのはいい事だが、最終的には自分の船だ。その船で好成績を出せなきゃ死ぬだけだ。だからこうして最初から慣れた船での戦闘をやってもらうのさ。……っと同期は終わりだ』


「了解」


 計器を見るとどうやら既にエンジンは起動した状態。あとはスラスターに点火すれば動くな。


『ところで、なんだこの船は。エンジン出力は軽巡並、それもハイエンドクラス。武装に関しちゃ重巡クラスの出力じゃねえか。駆逐級って言われて目の前にデータがなきゃ笑って済ますレベルだぞ。それになんだ電磁投射砲って。ただの産廃だぞ?』


 その評価は良い方に向いてるって事でいいのか?あと電磁投射砲をバカにするのは許さん。これはロマンだ。

 

『ま、まあ扱えるってならいい。それじゃあテストを開始する。船を起動しろ』


 その声に従い、スラスターなどに火を入れる。同時にコックピット内も明るくなり、計器の数値も上がる。


 エンジン出力はどうやら最高値に。脳内にインプットされた知識に従ってコンデンサや武装への回路をオンラインにし、レーダーを起動する。

 そこまで操作したら目の前に外の光景の代わりに宇宙空間が映し出された。

 めちゃくちゃリアルだな。さっきまで宇宙空間に居たけど、そこで見た光景と全く差異がない。


『所属不明艦船三隻レーダー範囲内出現』


 アステールとは違う電子音声。たった数日だけど聞き慣れて違和感あるもんだな。


「出力上昇、両舷微速」


 スロットルを操作すると、微かな振動と共に船が少しずつ動き出す。

 すごい技術だな。最高峰シュミレーターでもここまで細かなものは再現出来ないだろう。でも擬似重力とかそんなのが存在するんだ。これくらいは簡単に作れるものなんだろうな。


「全武装チャージ開始」


 武装のチャージが開始されると同時に敵艦にも動きがある。ノロノロとこちらに艦首を向け砲撃の用意をしているようだ。


 俺はそんなに余裕は与えず、船の側面に配置された重レーザー砲を発射する。レーザーは距離によって減衰はしないから特に障害物が無い射程圏内であれば確実に当たる。


 三隻の敵艦は即座に爆発四散。

 同時に新たに敵艦が出現。数は四隻。


 なるほど、こういうタイプか。


「スラスター出力巡航速度。主砲照準自動追尾開始」


 外を流れるデブリなどの速度が上がった事から船の速度が上昇したのが感じられる。


「なあさすがに相手の船遅すぎないか?」


『勘弁してくれ。普通の駆逐級は重レーザー砲なんて積んでないんだ。そもそも相手の射程圏外だ』


「なるほどな」


 このままだとアウトレレンジからの一方的な殲滅になるが……それはそれで面白いな。


 主砲が減衰せず確実に当たる距離に敵艦が入った。

自動追尾させていたから後は発射させるだけだ。


 船の速度も攻撃出力もこちらが上。前方に配置された主砲を発射させた瞬間青白い光線によって相手は一つの主砲につき一隻、爆発四散する。

 俺は船を回頭させることなく主砲の再チャージを開始。多分そろそろ次の敵が出てくるから……


『所属不明艦船五隻出現。全艦射程圏内』


 その音声が聞こえると、すぐさまチャージが完了している後部の主砲を敵艦に向け、重レーザー砲と合わせて発射する。


「レーダーから敵艦は消失……」


 アステールと違って細かく情報はくれないか。なんか寂しさもあるな。


『あー、これでテストは終了だ。損害は……ってまあ無いわな。全て射程圏外からの砲撃だし』


「で結果は?合格か?」


『ああ。言いたいことは無くはないが……それも戦い方だ。文句無しの合格だ。これで晴れて傭兵さ』


 よし、なんかテストは問題なくパスしたみたいだ。ふぅー、これで一段落だな。無職は避けられた。


『シミュレーターから出たらさっきのカウンターに戻ってきてくれ。傭兵の証を渡す』


 傭兵の証ね。相手の射程外から撃っただけだもの。なんか手応え無いというか……


 スーパーカーのドアみたいな感じで上に開いたシミュレーターから降りると、メーデンが腰に抱きついてくる。お腹に柔らかいものが当たるが……これは水袋だ。


「メーデン、どうした?」


「リュウ、すごい。驚いてた」


「ははっ、心配せずとも大丈夫さ。言ったろ?」


「うん。心配しなかった」


「そりゃなにより。よし、傭兵の証とやらを貰いに行こう」


 俺は彼女の手を引き、さっきのカウンターに戻る。カウンターではすでにさっきよオッサンが待っていた。


「やっと来たか。早速だが、こいつを渡しておこう」


 そう言って渡されたのは二人分のドッグタグ。


「そいつにはチップが埋め込まれていて、傭兵組合関連の施設だとか、必要に応じた身分証明が出来るようになっている。無くすなよ?」


「当たり前だ。……これで終わりか?」


「ああ。規約やら細けーのはあるが、どうせ読まねえだろ?」


「まあな。生死に関わらなきゃ読まん」


「俺も読まん。なんなら内容すら覚えてねえよ。ま、これであんたらも傭兵組合の一員さ。せいぜい、くたばらんようにしてくれや。仮にも傭兵組合の看板背負ってんだからよ」


「あいよ。死なんようにやってくるわ」


「はっはっはっ、そういう奴ほど長生きするからな。期待しとくぜ」


 そう言ってくるオッサンを背に俺たちは傭兵組合を立ち去る。相変わらず立ち去る時には一瞬ざわめきが収まったが、それも気にする程じゃない。


 傭兵組合の外ではまたオッサンが待っている。こっちは整備士の方だ。


「戻ってきたか。その分だと傭兵にゃなったようだな」


「おう、無事な」


「よーし、ならば俺がうまい店を紹介してやる!祝いだ祝い!」


「あー、オッサン。とりあえず船に戻って話さなくていいのか?」


「うん?あー、忘れてたわ。どうする?一旦戻るか?」


 そうだな……多分今の俺なら身分もしっかりしてるから船の中のレアメタル売れるんだよな……


「とりあえず船で少しやりたいことがあるから一旦戻るわ。そのついでにオッサンの話を聞こう」


「わかった。ま、とくに深い話じゃねえからな」


 そうは言っても怪しさってのは残るんだがな。でもこのオッサン、裏とかなさそうな気がしてきた……これも戦略か?


 そんなことを考え、俺たちは船へと戻るのだった。





「ほほー、粗製レアメタルインゴットだけで200万メル。宇宙海賊だかから奪っただけで金になるもんだな」


 メルってのかこの宇宙での金銭単位だ。100メルもあれば一般人の一食分にはなるらしい。まあそれも目安だが。


「そりゃそうさ。レアメタルはそれなりの貴重品。宙賊が精錬して作った粗製インゴットでも価値はある」


『はい。先程売却したインゴットの主成分であるコバルトはこのコロニーでは不足していたようで、かなりの高値で取引されています。粗製とありましたが、十分かと』


「そうだなぁ……」


 船に戻る最中にアステールに船の中のレアメタルを売却を頼んでおいたら、戻る頃には既に運び出された後だった。アステールが管理する船のコンピュータに入金されていたから取引はされたのだろう。

 そうそう、オッサンにもアステールは紹介してある。駆逐級の宇宙船に搭載されているAIって事で驚いていたが、アステールレベルのAIは普通にあるものだからと、すぐに慣れていた。


「じゃあ次はオッサンだ。整備って言っても具体的にどんなのだ?」


「基本は装甲板の張り替えやエンジンやスラスターなんかのメンテナンス。あとは武装システムのメンテか。普通は分けるが、俺はフルフレームだから一通りはこなせるな」


「フルフレームってそういう事か。統括ってイメージか?」


「そうなるな。代わりに超専門的技術、例えば1からのエンジン組み上げとかは出来ねえ。バラして組み直すくらいはできるがな。あとは指示くらいか」


 本当に全般的な整備士なんだな。車とかだと一通りこなせてエンジン組み上げも出来ます!みたいな人居るけど、宇宙船クラスだと一通りこなせても細部までは出来ないってのら普通なのかもしれない。


「まあそれでも普通以上の事はできるつもりさ……っと、本題だ。さっきチラリと見たくらいだが、戦闘してきたな?装甲板に傷が付いていた」


「ああ。ここに来る前に宇宙……宙賊に襲われてな。返り討ちにしたが、何発か食らった」


「そうみたいだな。えっとアステールって言ったか。その戦闘のログってのは残ってるか?場合によっちゃ装甲板の整備にも関わる」


 うーん、なんかオッサンが整備すること前提になってるけど、まあいいか。

 アステールも素直に提示しているし。


「相手は旧式の陽電子砲か。それも20年くらい前のモデルじゃねえか。それに対してこっちは出力だけなら最新式の一つ型落ちくらいか?どうやらエンジン出力が上がりきってなかったみたいだが、それでも十分すぎたな」


 アステールが表示するデータと照らし合わせて見ているみたいだけど、よくそこまでわかるな。さすが専門職って感じだな。これから出会う整備士みんなオッサンみたいな人なら嬉しいぜ。


「この船はかなり特殊だと思うんだが、そこはどうなんだ?」


「確かに特殊っちゃ特殊だ。だが基本構造は対して変わらんからな。それに拡張性もあるから整備もしやすい」


 オッサンは先の戦闘映像のログを見ながら話す。


「基本構造か……というか、拡張性ってなんだ?」


「気づいてなかったのか?考えても見ろ。それにこの艦船データ。300メートル駆逐級宇宙船。見るからに戦闘用の船だってのに主砲が前方に四基、後方二基。物理魚雷発射管が前後合わせて計四門。重レーザー砲が四門に副砲が計四十基。さらに電磁投射砲が二基……と、まあ出力だけなら十分だが、300メートルなら駆逐級と言わずとも、もう二基は主砲が増やせる。副砲もな。強力なシールドを張っている相手には物理攻撃手段は使えるから魚雷はともかく電磁投射砲は正解だ。ところで、この艦砲の詳細なデータはあるか?」


『はい。こちらになります』


 オッサンの前に新たにもう一枚ウインドウが表示される。


「主砲が30、重レーザーのレンズ径が28……副砲は全て20か。電磁投射砲が30と。まあここら辺はまだまともか」


 単位はcmなのかな。でも俺の記憶通りならば間違っていない。


「まとも?まともじゃないやつもあるのか?」


「何年か前に見た傭兵はよ、要塞級宇宙船に馬鹿みてえにデカい主砲積んで戦ってんだ。口径だけでいくつあったか……とにかくデカかった。こりゃ要塞級じゃないと搭載できねえってくらいにはな」


 要塞級か。コロニーに入る時に見かけたあれだろうか?数千メートルはあったもんな、あの船。


「要塞級か。そんなデカい船は要らねえなぁ……」


「整備する方としても大変よ。なんせデカいから終わらねえ。まあ要塞級なんて運用するのはほとんどが軍さ。ごくごく稀な傭兵を除けばな。っと、話が逸れたな。俺が整備するとして、色々と契約は必要だろう」


「そうだな。まずは報酬からだが、俺は相場がわからん。とりあえずオッサンを信用するが、どれくらいなんだ?」


「そうだな、駆逐級で装甲板程度なら十万ってとこか。エンジン出力とかも含むなら高くつくがな」


「なるほど……アステール」


『はい。市場相場と比較しても特に暴利ということは無いかと』


 そうか。警戒も大事だけど、人を信じるのも良いかもな……


「だそうだ。オッサン、今日会ったばかりでどうかと思うが、あんたの腕信用する。頼んだ」


「へへっ、任せな。この宇宙をいくらでも行けるように整備してやんよ」


 俺とオッサンはガッシリと握手をし、置いてけぼりなメーデンを横に笑うのだった。





 翌日、俺はオッサンの紹介で武器を買いに来ていた。名前が「Morgan's shop」だ。多分ガンズショップと掛けてるんじゃないかと予想してる。看板は古めかしいネオンでそれっぽさは出ているが、店内は至って普通でショーケースがいくつも立ち並んで、その中に銃が並べられている。

 こんな宇宙で携行武器が必要なのかと言われたらそれまでなのだが、実際結構売っている。聞いた話だと、未開拓惑星に降りて調査を行う傭兵も居るようなので、それも含めて売っているのだろう。

 ちなみに、船に搭載する武装なんかはまた別で店がある。船にもブランドがあるのだ。


「ふむふむ、携帯するからハンドガンにアサルトライフル、サブマシンガン辺りが無難か……針銃ニードルガンにリボルバーは無いのか」


 目の前にはガラス越しにディスプレイされた銃たち。地球みたいに黒いプラスチックとかの色だけじゃなくかなりカラフルだ。それに面白い形が多い。

 例えばアサルトライフル。イメージしやすいのはAK47みたいな見た目だが、ここでは真っ赤な楽器ケースそのものみたいな物がある。アサルトライフルサイズではあるけど、地球基準で考えてしまうからこの楽器ケースはネタ武器にしか見えないのだ。


 他にもミニガンや固定機銃、さらにはターレットなんてのも売ってるのだけど今の俺達には不要だ。


 ただ、どうしてもオレの目を引き付けてやまない物がある。

 それは、


「れ、レーザーガンだと……!」


 レーザーガン。別名光線銃。

 SFなんかじゃお馴染みの光線を発射する銃で大きさは様々。拳銃サイズからバズーカみたいなものまでバリエーションたっぷりだ。

 実弾銃よりも高威力な場合が多く、また光線だから避けられない。さらに真っ直ぐ進むから狙えば当たる。ただし、電子シールドなんかで防がれることがある。

 目の前にあるのは不思議パワーで発射するような物じゃなくて、カートリッジ式の物だ。マガジンの代わりに装填するタイプらしい。さらには腕そのものに嵌める大口径タイプのレーザーガン。


「くっ……宇宙戦艦○マトの拳銃もいいが、C○BRAも捨て難い……」


 拳銃タイプの物はカートリッジの値が安く、初心者にも扱い易いらしい。それにカスタマイズもやりやすく、自分好みにできる。代わりに威力は控えめのようだ。

 腕に嵌めるタイプはその威力に見合ったカートリッジを使うからかそれなりに値が張るが、腕に直接嵌めるから直感的に撃ちやすいという利点がある。あとかっこいい。オトコという名のものがたりが出来そうだ。


 つまりどっちもどっちで、決めるとしたら値段になるんだよな。


 っと、レーザーガンにする前提になっていたが、実弾銃にも利点はある。まずは電子シールドで防がれない事が一つ。威力はレーザーガンに劣るが、物によるが弾の連射速度や値段などでの優位性がある。

 例えばレーザーガンとハンドガンの最低クラスでそれぞれ比べると弾代とか威力で比べるとレーザーガンが上を行くのだけど、これがそれなりのランクの物になるとなんとも言えなくなる。それに先の未開拓惑星の調査だとレーザーなどの光学兵器が効かない相手も居るようで、実弾銃にもまだまだ活躍の機会はあるのだ──っと色々言ったが、つまるところ悩んでいる。


「AR-12かこの12式拳銃か……悩む」


 とりあえず最初は使い勝手のいいハンドガンタイプからってことで初心者向けでありながら、今なお根強い人気を誇るベストセラーの二丁のどちらかにしようとしているわけだ。ベストセラーってのは重要だ。当然ながら万人に扱いやすく、保証もしっかりしてるし何よりパーツが手に入りやすい。壊れた時に誰も直せませんじゃ問題だからな。別にオーダーメイドとか、マイナーな会社の物を否定するわけじゃないけど、小市民でこの宇宙世界では初心者な俺は出来れば簡単なものが良い。地球でもそうだったからな。

 ちなみにこの二丁に共通する12という数字は言わばこの銃を作る会社の傑作と呼べるものに付けられる数字のようで、アサルトライフルやランチャーにも12の数字が付いているものがある。総じて値段が高いけど。ここからカスタムしていくとαとかβと文字が加えられていくこともあるようだ。だからカスタムショップとか行くと、12αなんてのも見かけるそうな。うーむ、難しい。


 正直言って両方欲しいけど、さすがに二丁拳銃なんてしないよ。ロマンだし、なんか陳列されてる物見てると、自動装填装置とかあってマジで二丁拳銃出来そうだけど。


 他にも、値が上の物を見ていくと、ロマンある銃そのものに電子シールド発生装置を搭載したゲテモノやビーム剣もどきが売られている。奥の少し暗いエリアに行くほど少々ロマン溢れる物が増えていくようだ。


「これは……C○BRAじゃなくてロッ○マンじゃないか。形が明らかに狙ってるな。……いつか買ってみたいな」


 手持ちが200万くらいあるとは言え、食料とかそう言うのを買っていくとすぐに無くなるだろう。携行武器は必須じゃないから、最悪無くても良いのだ。あ、メーデンのは買うけどな。万一のために。


 すると、ちょいちょいと袖が引っ張られる。


「お、メーデンか。どうした?欲しいの見つかったか?」


「うん。こっち」


 彼女に腕を引かれて奥のゲテm……ロマンエリアから出て、明るい場所に戻ってくる。


 ショーケースが並ぶ店内を少し歩き、メーデンが連れてきたのは小型の拳銃みたいな銃が並ぶエリア。


「これ」


 彼女が指さしたのは箱型の拳銃。分類はテーザーガン。アメリカの警察とかが持っている発砲型スタンガンと同じタイプだ。護身用にしか使えないが、確かに彼女にはちょうどいいかもしれない。


「試し撃ちができるのか。メーデン、やってみたらどうだ?」


「そうする」


 トコトコとメーデンは店員に話しかけ、このテーザーガンの試し撃ちを出来るように取り付けてきた。


「それじゃあやってくる」


「おう、行ってらっしゃい」


 店員が彼女の選んだテーザーガンをショーケースから取り出して、メーデンを店の奥へ案内した。


 似たようなテーザーガンの説明を読んでいると、俺の知っている物とはやはり違うようだ。銃本体から電極が伸びるのではなくて、ワイヤーは発射するが、相手の拘束を目的としたワイヤーを発射して、ワイヤーに装着された小型の装置から電流が流れ、拘束と同時に痺れさせる効果もある。民間モデルでも十分だが、軍用モデルとなると、サイボーグすらも一撃らしい。射程も三十メートル前後とかなりの物だ。


 メーデンの護身用以外にも予備でもう一丁買っても良いかもな。でもワイヤーとかの弾代が掛かるんだよな……本体はともかく、五発入のマガジンで五万。安いものでも一発千メル。食費より高い弾丸ってなんだよって感じだけど、普通の実弾は十メル程度なので、テーザーガンの弾が如何に高いかが分かる。殺さず、拘束するって言う点では優秀なのだろうが。

 だからテーザーガンの説明にも「お子さんの防犯のために!」と書いてある。つまり子供でも扱えるってことだ。殺さずにトラウマになることも無い親切設計か。


「でもやっぱレーザーガン欲しいな……」


 今更であるが、俺はロマン信者だ。お菓子の筒を腕に嵌めてロック○ンと真似をし、ロボゲーなら産廃とも呼べるロマン武器を使った。そして目の前にはSFの産物が実際に存在する。ならば使わずしてどうするか!


「とりあえず他に何かいい物は……」


 またブラブラとさっきのロマンエリアまで戻ってきた訳だが、ここは見てるとゲテモノも多いが、値が安く、さらにちゃんとしたものまで売られている。表面だけで選ぶか、中身まで注視するかどうかってことだろうか。


 掘り出し物なんてのがあったら嬉しいのだけど。安定志向も良いけれどな。


 そんなことを考えながらメーデンの試し撃ちが終わるのを待っていると、


「うん?これは……」


 俺はショーケースの中に入れられた一つの銃に目がいった。色は赤と黒と周りのサイケデリックな色合いの数々に比べたら地味な方。形はP90みたいなのだが、銃そのものが分厚く銃口部分は細くなっていなくてまるで拳銃を彷彿とさせるデザインだ。

 サイトは無く、簡易的なレーザーポインタが付けられている。

 マガジンは銃身に対し平行では無くてグリップの真上から数センチ程後ろ側にアサルトライフルのような箱型のマガジンが装着されている。そのマガジンは2つの大型マガジンが結合されて纏めて装着されているのだ。それも、銃本体の中に埋め込まれる形で装着するから見た目よりもかなり装弾数は多い。

 加えて、P90よりも全体的に短いのだ。肩に当てて両手で持ったらなんか窮屈に感じそうだな。

 でも……


 まさにロマン武器と言うべき代物だ。

 作った人は何を思ったのか。

 是非とも会って話してみたい。


 その前に値札が見たいが。


「こ、これだ……」


 もはやさっき見ていたハンドガンなんて気にならなくなった。目の前のこいつ以外無いとすら思っていた。ついさっきまでリボルバーを求めていたが、今これを目の前にしたとなるともはやこれが堂々の一位へと躍り出る。


 なんだろう、一目惚れってやつなのか。これが。


「おや、それに目をつけるかい」


 目を離せなくなっていると、真横からしわがれた女性の声がする。

 そちらを向くと、車椅子に乗ったかなり高齢の老女が居た。


「もう何年も売れていないからその値段さ。買ってくれるなら値引きもしてあげられるよ」


「えっと……あなたは?」


「あたしゃこの店の先代さ。普段はこうして奥に引っ込んどるが、たまにあんたみたいなのが来る。その様子を見るのが楽しいのさ」


「そうか。じゃあとりあえずこれの値段がを教えてくれ。それによっては買ってもいい」


 教えてはくれるのか?たまにあるんだよな、ショーケースの中で商品と一緒に並んで明らかに売り物なのに、「それは非売品です」って言う人。もう少しわかりやすく配置して欲しいわ。


「銃職人ミハイル・アイアンウィール作、銘をヴィテスタと言う。彼の生前最後の傑作さ」


「生前?つまりこの職人はもう?」


「15年前に死んだよ。私にそれを納品した直後にね」


 納品……なんだろ、これを預けたとかじゃなくて店と職人の納品……かなりドライですね?


「結局いくらで売るべきかわからんからこっちに入れてるがね。まああいつの製作理念からしてだいたい十万ってところかね」


「十万!?そんなに安くて良いのか?」


 だって俺がいるこのエリアは普通に百万メルとかのオンパレードだ。その中で十万だと?


「あいつは既製品の部品だけを組み合わせ使って自分の作品を作り上げるのさ。仮に自分が死んだ後もメンテナンスが出来るようにってね。非合法イリーガルギリギリだがね」


 銃は当然消耗品。メンテナンスだって必要だ。しかし銃職人オリジナルの物はその職人にメンテナンスしてもらう必要がある。だから俺もメンテナンスや保証とかのある大手の銃を買おうとしていたのだけど。


「どうするんだい。買うなら弾とか安くしとくよ。それに、お嬢さんは待ちくたびれとる」


「え、試し撃ちそんなに早く終わったのか?」


 というか、この人はメーデンと会ったのか。


「あの子は腕がいい。あの歳であそこまで撃てるなら、成長したらちゃんとした物を与えた方がいいよ。あの才能は眠らせておくに惜しい」


「そうか……分かった。買わせてもらうよ。値段は十万メルだったか?」


 通過というのはもはや全て電子化されている。腕輪型のデバイスで一括払いできるのだ。


「そう言うと思って用意しておいたさ。ほら、この箱持って向こうで待ってな」


 そう言われ、老女がいつの間にか持っていた赤と黒のアタッシュケースみたいなのを渡され、俺は明るい方の店舗へと押しやられるのだった。



 なんだろう。やけに分厚いんだよな。このケース……

 はあ、とりあえず待ってるか。

 

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