バイイング・エニシング

 ・俺(リュウ)


 場所は変わって近くの銃器パーツ店。

 ここはアタッチメントとか色々細々した物関連の店だ。


 結局俺はあの銃を買ったし、メーデンもテーザーガンを買った。弾とか含めて占めて30万メル。高い。万が一の命を買うとしたら安いのだろうが。


「……っとこれでどうでしょうか。物はDR-2レーザーポインタ。ここのダイヤルで出力、スイッチで色が変更出来ます」


「ありがとう」


 俺は店員からレーザーポインタを換装したヴィテスタを受け取る。

 薄青色の肌を持つ彼はこの銃を買った店の元店員らしい。あの婆さんとは今も親交があるらしく、あちらが本体の販売ならこちらはカスタムというように棲み分けをしているそうだ。


 銃身の上部のアタッチメントに装着されたレーザーポインタのスイッチを入れる。少し弄ると色は赤と緑の二色。光の強さは出力のようだ。

 そのまま銃を三十メートルくらい先の的に向ける。

 すると店員が不思議そうに話しかけてきた。


「それは片手でも構えられるタイプのハーフ・サブマシンガンと呼ばれる物です。両手では少し構えにくいでしょう?」


「ああ、確かに。少し小さいのかと思っていたけどこれは元から片手用なのか?」


「この銃を見るに、元から小口径弾、この場合だと5.5mm弾を使うことを前提としています。加えてこの大容量弾倉の設置箇所。フレームなどはサブマシンガンの物が元になっているようですが、それもかなり切り詰めたりしている当たり製作者はハンドガンとして扱えることまで想定していたのではないでしょうか」


 なるほど。P90みたいな物を片手で構えるってのに違和感があるが、片手で構えると確かに持ちやすい。グリップまでそのように作られているようだ。


 店員に少し確認し、そのまま引き金を引いてみる。


 パパパパッ


 軽い音が連続し、手にも反動が伝わってくる。反動で銃口が少し持ち上がったところで離す。


「これは……」


「どうですか、片手で扱えるでしょう?」


「ああ。予想以上に反動が軽い。これ火薬だよな?」


「はい。銃内部の反動抑制機構がかなりの良品というのもありますが、構造など含めて全体的に反動を弱める効果を生み出しています」


 よくわからないけど、宇宙世界独自の発明みたいなアレだろうか。

 でもこれは凄い。乗せられてやってしまったが、記憶が正しければ拳銃ですら片手で撃つのは訓練が必要なのに、サブマシンガン初心者の俺がこうして撃てたのだ。なかなかの物である。


 それにレーザーポインタのおかげでとても狙いやすい。エアガンでも光のサイトとかを使うと当てやすくなるし、それの関係もあるんだろうな。


「じゃあもう一度」


 今度は両手で構え、撃ってみる。

 同じくらい連射して感覚こそ両手と片手で変わったが、撃ちやすさは変わらなかった。これは元から片手で撃つことを前庭としなければ作れないのかもしれない。


「ところで、この銃の弾倉とかは普通に売ってるものなのか?」


「はい。こちらの特殊弾倉となります。本来は銃側のスイッチ切り替えでどの弾倉を使用するかを決めるのですが、この銃は銃本体の機構で順に弾倉を消費していくようになっています。代わりに特殊な弾は使えず、全ては同型の弾しか使えませんが」


「まあそんな器用なことはするつもり無いし……だいたいこの弾倉一つで何発くらいですかね」


「弾倉一つで35発、それが二つなので70発丁度ですね。サブマシンガンの弾数としては一般的です。しかし構造も含めてこの弾数を実現しているのですから、銃を扱う者としては一度会って話してみたいですね」


 その人はもう死んでいると教えてあげたいが、それを言うのは無粋と言うやつだろう。俺は銃を構えたりして感覚を掴んでいく。


「リュウ、これなに?」


 さっきから後ろでずっと待っていたメーデンもさすがに飽きてしまったようだ。このヴィテスタを収納するためのアタッシュケースを覗いて、何かを指さしている。それは一体?


「これは……」


「何かわかるのか?」


 近くに来ていた店員にこれの正体がなんなのかを尋ねる。もしも何か問題があるようならばさっきの婆さんに返しに行かなきゃならない。


「いえ特に危険という訳ではありません。ただ、実弾銃のサブマシンガンにこれが一緒に着いてくることに疑問がありまして」


 黒いそれは、なんかマガジンのようにも見えるが、弾を入れる口などはなくケーブルを繋ぐことが出来るコネクタが付いている。


「これはレーザーガンに使われるカートリッジです。基本はエネルギー充填式の中身入れ替え方ですね。ですがこの形、まるでこの銃に装着するような……」


 マガジンのようにバナナ型ではなくて箱型弾倉のような見た目だ。

 とりあえずワンタッチでマガジンを取り外し、そのカートリッジを装着してみる。

 銃本体が変形するなどの変化は無い。だが引き金の上に緑色のランプが点灯している。これはなんだ?


「とりあえずあの的に向けて引き金を引いて貰えませんか?レーザーガンの直撃にも耐えられるようになっていますから」


 俺は頷き、両手で構えて引き金を引く。

 光線銃らしく反動というものはほとんど無く、微かにリンと軽い電子音のような音を残し、青い光を引いて的にあたる。的には焦げあとと貫通痕があった。


「これがレーザーガンか。初めて使うが、こんな感じなんだな」


「弾の直進性は相当のもの。出力までは正確に分かりませんが、継戦能力は高いと思われますね」


「そうか。出力はともかく、これがレーザーガンならそれに関連するものも買わなきゃいけないのか……」


 また痛い出費だ。他にも買わなきゃいけない物が多いのに。


「いえ、カートリッジの充填ケーブルは既にこのケースの中にありますから、あとは予備のカートリッジ程度ですね。私の元上司とはいえ、伝え忘れたのは事実。お安くしておきますよ」


「それはありがたいな」


 結局、この店で買ったのはレーザーポインタと弾丸、予備弾倉にカートリッジ。メーデンのワイヤー弾。合わせて七万メル。まあなんとかこの程度で済んだと思えばいいだろう。

 他にも服とか食料を買わなきゃいけないが、元手が200万メルだから気にしすぎも良くないかな。



 さてと次は衣服だ。俺もメーデンも手持ちは今着ている一張羅だけ。俺はともかく、メーデンのそのピッチリスーツはいただけない。せめてもう少しまともな服にしなければ。


 というわけで訪れたのは調べて評価の高かった服飾店。階層がドックや傭兵組合がある場所から少し下に行き、内殻寄りに位置している。その関係か人が多く、まるで休日のショッピングモールのように賑わっている。まあ居るのは家族連れというよりは武装した傭兵に様々な種族たちなのだが。


 さて、目当ての店は服がたくさん陳列棚されていることに地球の白地に赤の人気服飾店との差は無いけど、違うのは服のデザイン。俺が着ている動きやすいパンツァーヤッケに近いものも多く、男女問わずで軍服に近いデザインの物がかなりの量がある。もちろん普通の服もあってTシャツやズボン、タオルなんかも売ってるから買いだな。



「リュウ、これ欲しい」


「あ、ああ……」


 のんびり色々物色していた時、分かれていたメーデンが何やら見つけたらしい。とくに気にせず着いて行ったが……


 訂正しよう。俺が見ていたのはどうやら表層の部分だけだったらしい。少し奥に行くと店の品の中身はガラリと変わる。

 SFチックなサイバースーツ、青白い線が入っているスク水、ウェットスーツのように薄手な全身タイツ、The パイロットスーツなロマン服、アキバにありそうなメイド服、黒字に白の布が縫い付けられた旧スク……はい、どう見てもアウトな店ですありがとうございました。


「リュウ?」


「あ、悪い悪い。で、何が欲しいんだ?」


「これ」


 口調はそのまま、態度だけ少し興奮したようなメーデンがトコトコ歩いて指さしたのはマネキンに着させられた服だ。マネキン買いってのはあんまりやった事ないが、さすがにこれはちょっと遠慮したいぞ?主に俺が。


「ゴスロリて……メーデン、これでいいのか?」


「うん。可愛い」


 興奮げに目を見開いた彼女が指さしたのは黒を基調とし、赤を所々に配置した少し長いミニスカタイプで黒ニーソのゴスロリである。そもそも陳列してあるのさえリアルで見るとは思わなかったが、まさか本当にあるとは。地球では何度か見たことがあるし、着ている様子も見たことがある。というか身近な人が着ていたからな。今となっては過去のものだし懐かしいとしか言えないが。


 はぁ……でもメーデンが欲しいって言ったんだ。それに安いし……マネキンの足元を見ると値段は二万メル。服としては高いかもしれないが、外着としては使えるだろう。


「あ、いらっしゃいませー」


 すると、奥に居たのか、店員がこちらに気づく。


「この子の服を探してるんだ。本人はこれが欲しいらしいから、他に下着とか普段着として使える物を見繕えるか?俺はそういうのからきしでな……」

「え、マジで……?」

「なんか言ったか?」

「い、いえ。お任せ下さい」

「頼んだ。メーデン、必要な物はちゃんと買えよ。俺は男物の所見てくるから」

「わかった」


 メーデンは頷き、店員の案内に着いていく。

 さてと、俺も何着か買わなきゃな。まともな方向性で。


 そんなわけで男物も見に来たが、案の定男物もやはり方向性はおかしかった。なんだよ燕尾服って。誰が着るんだか……


 とりあえず白、黒、灰色のTシャツは何枚かカゴに入れる。宇宙世界になったとしても買い物にはカゴなのだ。

 ついでに同系色の短パンも。部屋着として使えるからな。


 外着はこの一張羅……って訳にもいかないか。似た感じのをもう一、二着は買うか。


 すると、手首のデバイスに通知が。アステールからのようだ。


『マスター、本コロニーの情報取得終了しました』


「ありがとう。こちらにはまだ送付しなくて大丈夫だ。あ、そうだ。今日のうちに何度か物資が届くはずだ。食料とか衣服、医療品なんかだ。対応してくれるか?」


『了解しました』


 これで船のことはアステールに任せて大丈夫だろう。さっき買った銃とかも既に船に届けて貰えるよう手続きしている。ここは交易で賑わってるコロニーだからか、ドックの船まで買った物を送って貰えるサービスがある。何よりもタダなのだ。これはありがたい。


「お、これは良いな」


 アステールとの通信を終え、店内を歩き回っていた俺が目をつけたのは灰色のズボンに黒のブレザーのような軍服チックな物。イギリスの軍服に近いデザインだな。胸にポケットは無く、ボタンは銀色混じりの黒。金属質だけど触っても冷たくないな。セラミックって言うんだっけ、プラスチックでも無いやつって。


 なんか手持ちの服が偏ってる気もするけど、所詮傭兵。服なんて誰に見せるわけでも無さそうだし。傭兵組合に居たのだって軍服みたいなのからツナギみたいのまで服装は様々だ。特に浮いたりはないだろう。

 あとは気を引き締めるのにも良いかもな。あれだ、モードチェンジみたいな感じ。

 うん、これも買いだ。セットで肌着としてパイロットスーツみたいなのもあったけどそれは無視。


「あとは……」


 とりあえず服はこれでいいとして、後はタオルとかだな。これは普通に白で良いだろう。俺とメーデンの分合わせて八枚もあれば洗濯含めで回せるかな。

 

 他にもパンツとか靴下なんかの下着類をカゴに入れる。


 さて、そろそろメーデンの服選びも終わった頃かな?




「リュウ、終わったよ」


 俺とメーデンは店のレジの前で合流する。後ろの店員も満足気だ。


「丁度よかった。こっちもだ。服はどうなんだ?いい感じか?」


「うん。でも秘密」


 ニコニコしながら嬉しそうに伝えてくる。余程良いのが見つかったんだろうな。


「えっと、彼女の服は終わったんだよな?」


「はい。普段着や下着類など全て含めて三万と二千メルです」


「それじゃあこのカゴとあそこのマネキンの一式を買いたい。あの黒と灰色のやつ」


「わかりました。それでは全て合わせて……五万と四千メルですね」


「これで頼む」


 ブレスレットデバイスを店員が持つ端末に翳す。電子マネーだからこれでOK。


「はい。頂きました。それでは商品はどうしますか?」


「船に届けてくれ。ドックと番号はこれだ」


 デバイスに船の場所などの情報を写し、店員に見せる。


「……はい、了解しました。数時間以内にはお届けが完了します」


「わかった。いい買い物だった。ありがとう」


「うん。いい物」


 あまり減ったように見えない残高を見て、まだまだ買えることにほんの少しの違和感と満足感を覚える。

 今までこんな風に買い物したことは無かったからな。全部某密林で済ませてたし。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 店の入口まで出てきて、お辞儀で見送る店員を背に、次の買い物だ。今度は食料品とか医療品。


 既に物を買う店は目星を付けているからそこに真っ直ぐ向かう。


「リュウ、次は?」


「次は雑貨屋だな。そこで薬とか食べ物を買わなきゃいけない」


「食べ物…!美味しいやつ!」


「そうだな……船には蓄えなかったし、昨日はオッサンに連れられたからな」


 するとメーデンはわかりやすくシュンとなる。まあその反応もわかるのだ。


「美味しく……なかった」


 あれはなぁ……

 店に入った時点でなんか怪しいと思っていたけど、まさか見た目はチーズバーガーで味はくそ苦い青汁なんて思わないじゃない。肉はセロリでパンはクレソンだ。チーズに至ってはとにかく苦いだけのナニカになっていた。正直なとこ記憶から消し去っていた。というか、連れてきた張本人のオッサンもなんか微妙な表情になってたしな。あの顔は自分が思ってたのと違うってやつだった。

 せめて店売りの物はまともな味と祈ろう。



 さてさて到着したのは生活必需品が揃っている雑貨屋。缶詰みたいなのからカロリー○イトみたいな食品、ゼリー状の物にシガレットタイプの栄養剤まで売っている。他にも医薬品や化粧品、両性別にとって必要不可欠なものまで様々だ。


「よしメーデン、さっきも言ったが、必要な物はちゃんと買え。恥ずかしながら俺はあんまり女性が何が必要なのかわからない。食料品なんかは買っておくから、そっちを任せていいか?」


「うん。任せて」


「あと宇宙に出たら場合によっちゃ数ヶ月はコロニーに立ち寄れないかもしれない。それも考慮してな」


「わかったよ」


 メーデンは真剣な顔で頷き、真っ直ぐ店員の方へ向かっていった。

 偉そうなこと言ったけど、正解はそれだろうな。俺もどれ買えばいいかわからないし。


 俺も手っ取り早く近くにいた店員を捕まえて、自分のオーダーを述べる。こうした方が変に戸惑わずに済むだろう。

 しばらく物資の購入を相談して、とりあえず怪我や病気の治療薬の詰まった簡易医療キットを数セットと包帯や殺菌剤なんかの物資に、少し高かったが合法の鎮痛剤を購入。いくら船に乗る傭兵と言っても怪我はするし、すぐに治療出来るとも限らないからな。

……ちなみに、合法と言ったように違法もあるらしい。効果は高く使っている傭兵もいるみたいだがな。副作用があるそうだ。怖くて見れなかったけど……


 あとは食料品。

 プロテインバーみたいな簡単に食べれるものからジャーキーや俺の知っているような宇宙食、さらにはカートリッジに入れられた機械による調理が行われるレトルト食品みたいなのまで一通りあったが、ここは食いやすさなんかを重視してバータイプとゼリータイプ……って言っても船の中だと擬似重力が機能しているとかで普通に物食えるんだよな。ここコロニーだって擬似重力だし。多分駅弁みたいなのあれば食える。……うぅイベリコ豚重食いてえ。豚肉ってないのか?あと米。近いものでもいいんだが……


 と、そこら辺は店員と相談しつつ、人気が高かったり、俺が美味そうだと思ったものをいくつかピックアップして、食料だけなら半年分は持つように購入、既に船に届けて貰えるよう手配もしてある。

 ちなみに、食料品同様飲料水もアステールの手によって手配済みだ。宇宙ってこともあって高かったけどな。雑貨屋には嗜好品としての飲料も売っていたのだけど、試飲出来る訳でもないから安牌で水になった。おいおい、試していきたいところだな。


 俺が店員と購入品の納品数などについて話していると、メーデンが戻ってきた。店員も一緒だ。


「ふふっ、なかなかいい子じゃない。あなた、大切になさい?」


「あ、はい。……メーデン、何かあったか?」


「わからない。でも悪いことじゃない」


 その店員はニヤニヤしながら手元のタブレットを操作している。メーデンもニヤニヤしている。

 ふむ……ならそういうことにしておこう。


「あー、一応聞いておくが、彼女の身体に影響って言うかヤバイ効果は無いんだろうな?」


「それは保証するわ。そうでなきゃこんな所で売らないもの。毎月のものとかを軽くする薬よ。もちろん合法。」


「同じ女性が言うんだ。信頼するよ」


 人によっては度合いは違うらしいが、少なくとも俺の幼なじみもとい従姉妹は毎月寝込む程だった。中学生だった当時の俺はあまり理解してなかった部分もあって、色々言ったりしてたが……今思えばデリカシー無かったな。というか、最低だ。まさか千年以上経って思い出すとは。高校卒業以来疎遠だったから彼女らの事は覚えてはいるが、忘れていた事だ。


「それじゃあさっきの手続き通りに」


「ご購入、ありがとうございました。本日中にお届けします」


「頼んだ」


 これで帰る頃には服とかも一緒に船にあるって訳だな。本当に便利だよ。


 なんだか嬉しそうなメーデンを連れて次に訪れたのは電化製品を売っている店。ここでは俺が持っているようなブレスレットデバイスなんかが売っている。


「ここでも色々買わなきゃいけないが、とりあえずは治療ポッドだな」


「治療ポッド?」


「俺もよく知らないんだが……なんかポッドに入ると傷とかの治療をやってくれるらしい。メディカルチェックなんかも出来るらしいから傭兵には人気ってあったな」


 調べた限りだと、そのポッドは俺たちが入っていたコールドスリープポッドにそっくりだ。ただ、前面がガラス張りで外も見えるそう。サンプル映像では中に何か液体を入れていたけど、あれが治療の要なのかな。


 そんなことを考えながら俺たちはそのポッドが売っている場所に着く。


 まるで冷蔵庫とか洗濯機を売る感じで治療ポッドが並んでいる。どれが良いとかわからないが、パソコンみたいに横にあるスペックなんかを参考にすれば良いか。


「うーん、これは機能が優秀だけどデカいな……」


「これは小さい。スペース取らないって。でも効果は少し低いかも」


「それは……あれだな、傭兵って言うよりは貿易商が日々の体調管理に使うんだと思うぞ?」


「あ、ほんとだ」


 メーデンが見ている物には「商人御用達」とデカデカと書いてあった。やっぱり、治療というよりは日々の健康管理に機能が重視されている。

 俺が見ていたものは機能とか諸々が最高級のものだけどなんせデカい。メーデンの物が一般的な冷蔵庫だとしたらこっちは業務用冷蔵庫くらいのデカさがある。俺が欲しいのはその中間くらいなんだが……


「あ、これなんて良いんじゃないか?」


 俺が指さしたのは中堅企業の中堅な人気のポッド。とんでもなく売れ続けている訳でもないが根強い人気があるそうだ。


「……よく、わからない」


「はははっ、俺はこれでいいかと思ってるんだけど、どうだ?」


「リュウが良いなら私も良い」


 オレが選んだのは値段は三十万メルとポッドとしては平均程度、機能としては特殊液体による治療機能、健康診断機能と変な機能こそ無いが、その二つがかなり優秀だ。エネルギー消費もそこまで多いわけじゃ無いし。


 店員を呼んで、ポッドの購入手続きをする。合わせて使用する医療用特殊液体もセットで付いてきた。これは治療の為に使用し、浄化を繰り返して何度か使用出来るそうだが、さすがに限度がある。その時は新たに購入しなければならないが、ポッドに使用される医療用特殊液体はほぼ共通だからどこのコロニーでも売っているそうだ。とりあえず交換用も含めて三パック購入した。液体のパックはまるでウォーターサーバーのタンクをデカくした感じだな。


 また店舗の中を移動して今度は情報端末を販売しているエリアに向かう。


「メーデンの端末とタブレットか何か欲しいな。最優先はメーデンのだけど」


「私の?」


「さすがにメーデンにも端末は必要だからな。俺の持ってるようなブレスレット型以外にも結構種類あるみたいだぞ?」


「楽しみ」


 端末エリアはかなり広く、その需要の高さを物語っている。

 俺が持っているようなブレスレットデバイスから見慣れたスマホ型、そもそもデバイスなんて形ではなくアプリという形の物もあった。店内にこの前見かけたサイボーグ……いや機械生命体ってのも居るらしいし、その類かもしれないが、そういった人達に使われる物のようだ。


「どれがいい?消耗品とはいえ長持ちするからな。好きなの選んでな」


「好きなの?」


「そうだ。さっきの服とかと同じ感覚で選んでいいぞ」


「うん……!」


 おお、目がクワッと開いた。そういえば服の時も似たような目してたな。彼女はそういう所があるらしい。


 さてさて、メーデンが選んでいる間に俺も船のデータベースと直結させるタブレットなんかの購入を考える。ブレスレットデバイスでも出来なくはないのだけど、タブレットみたいな大画面だと見やすい。特に複数人だとな。

 あ、よく映画とかで見るホログラムの画面ってのも存在してるぞ?でもあれって慣れるまで大変みたいだ。画面としては機能するけど、実体が無いからすり抜けるし、たまにどこ操作したかわからなくなったりするそうな。軍用のハイスペックな機材を使ったホログラムデバイスならばそれなりに使えるらしいけど、俺は普通のブレスレットデバイスのホログラム機能で十分だ。


「これは……メガネ型のデバイスか。なになに?」


 ──腕輪端末ブレスレットデバイスなどの他端末との同期による併用や船舶総合制御システムなどと同期させた使用が前提となっております。

 仮想視界機能を利用し、常に船舶状況などを把握出来ます。視線感知システムにより、手などの感覚器を介さずとも、仮想視界の中に表示された機能を操作できます。


 なるほど。つまり補助のデバイスってことか。視線で色々制御出来るってのは凄いけど俺にはアステールが居るからな……いや、そうか。発声ではなくて視線だけで欲しい機能を呼び出せるならそれは強みか。視界内に表示する機能は設定出来るみたいだし……これは候補だな。


 他にもっと無いのかな?なんというか、おお!って言いたくなるようなやつ。SF世界だしそれくらい期待してもいいよね?


 すると、近くをウロウロしていたメーデンがなにか見つけたようで、少し興奮してねいる。やっぱり、見るもの全てが新しいみたいな感じだな。なんというか、子供らしい?


「リュウ、これ……!」


 ピョンピョンしながら棚の上の物を指さしていた。

 その棚はちょっと珍しいもの、つまり俺が求めていた物があるような棚だった。

 その中で彼女が指さしていたのは、


「手袋型……甲の部分に小型デバイスを仕込んでいるのか」


 黒革みたいな素材に手の甲に一センチ四方くらいのチップと近くにホログラム用の小型レンズが付けられている。横のスペック情報によると機能としては俺のブレスレットデバイスに近く、性能は同程度。型番も数年前の物で、かなり新しい。と言うよりも俺のブレスレットデバイスのスペックが性能的にはこれらの傑作に当たるレベルだそう。そのモデルはかなりの長期間人気でこの手袋デバイスはその新型に当たるようだ。アステール製作のこのブレスレットデバイスはどこの会社のものでもないが、陳列されている物と比べてみてもおとるという事は無さそうだ。


「ねえリュウ、そういえばなんで私の分も必要?」


「うん?あれ、メーデンはあんまりそういうの使わないタイプ?」


「違う。使い道。リュウのがあるよ?」


 ああそういうことか。


「俺のはあるけど、メーデンのが無いと連絡取れないだろ?」


「私離れないよ?ずっと一緒」


 彼女は右腕にギュッとしがみついてくる。


「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどな?でもやっぱプライバシーとかあるからさ」


「うーん……わかった。リュウ、これにする」


 なんか不満げだけど……必要な物だから我慢してもらうしかない。でもこの手袋デバイスが気に入ったみたいだし、適当なタブレットとさっきのメガネ型デバイスを合わせて購入。

 占めて五万メル也。やはり高いが、性能にあっているだろう。


「どう、似合う?」


 メーデンは自分のメガネ型デバイスと手袋デバイスを身に着けて嬉しそう。彼女の白い服に黒い手袋は少し浮いているが、何故か統一感があって良い。


「似合ってるぞ。大切にしてくれよな」


「うん!」


「よし、あとは……うん、次で最後だな」


 たった今購入した端末はそのまま持っていく。既にブレスレットデバイスとかとは初期設定の時に同期済みだからな。もう目の前にはこのコロニーのマップが存在している。もう一々マップを開いたりする必要が無いのだ。



 訪れたのは近くの家電エリア。

 ここで買うのは俺がさっき購入した食料品をより美味くする、または素材から美味くするものだ。


「リュウ、いいの、買お?」


「そりゃ当然だ。飯は全ての要だ。風呂とかの設備も整えたいけど、それは明日以降だな。もう時間遅いしな」


 ブレスレットデバイスに表示された時間は17:50。だいぶ時間かかったな。


「会社はこの三社のどれかだな」


「よく……わからない」


「俺もだ。とりあえずこの人気NO.1のでいいかな」


 こういうのは人気なものが正解なのだ。銃と同じだ。ベストセラーは強いのである。

 今見ているものはアイアン8って名前の物。アイアンシリーズっていう製品らしくて、その8代目って事なのだろう。周りと比べても、IHコンロみたいなのとオーブンみたいなのは搭載されているが、どれもこじんまりしている。


「こちらは我社のロングセラー商品であるアイアンシリーズの最新機種となっております。小型化に成功し、他社の機種に比べ、機能こそ少ないですが、その分堅実な性能となっております」


「なるほど。その機能とは?」


「市販のカートリッジを投入し、料理を指定すると自動で調理がなされます」


 自動調理は嬉しいな。でもその機能は当たり前だけど、このアイアンシリーズってのはそれに特化しているのかな?


「また、メンテナンスは搭載された簡易AIによって行われます。保証が基本で三年、オプション追加で永久保証に変更できます。もしも故障した場合、コロニー支社などにお持ち込み頂ければ有料ですが、修理を行わせていただきます。しかし、本製品含めたアイアンシリーズの故障率はこの通り、脅威の低さとなっております」


 店員が示したグラフによると、常に1%以下で、去年の修理持ち込みは全体で1万件以下であるそう。かなり多そうだけど、宇宙規模なら相当の低さなんだろうな。


「なるほどな。それが強みか……このアイアン8はその二種の機能に特化していると考えていいのか?」


「はい。他社製品が搭載している、加工品を用いた自動調理機能が無い代わりに、カートリッジを用いた自動調理機能を強化させて頂いております。それによる機能の単純さからくる堅実性などが我社のアイアンシリーズの一番のポイントとなっております」


「傭兵だからな。設備が堅実なのは嬉しいな」


「ありがとうございます。それでは試食に移りましょう」


 そこからはとても簡単だった。俺がオーブンだと思っていた場所に三十センチ四方のカートリッジを入れ、食べたいものを指定する。後は数分待つだけだ。物によって変わるらしいが当然だな。


「う、うめぇ……カートリッジの中身気になるわぁ……」


「うん……!美味しい」


 食べているのはナゲット。

 ジャンクフードだが、このコロニーに来て確実に一番美味いものだ。見た目と味が一致している。テレレッて言う音と共にポテトが揚がる音が聞こえてくる……


「この中型カートリッジ一つで平均して二人前30食分となっております。この機種ですと、特大サイズまでご利用頂けます。」


「なるほどなるほど。メーデン、これは買おうと思うがどうだ?」


「うん。これは絶対必要……!」


「だよな」


「ありがとうございます。ではこちらの商品、通常価格は5万メルですが、カートリッジをご購入頂ければサービスとして中型カートリッジ一つとオプションでの永久保証への加入料金を三割引きとさせていただきます」


 わーお、こりゃ凄い。聞いただけでもめちゃくちゃだな。余程売りたいのか?いや買うけども。


「わかった。これと特大サイズカートリッジをとりあえず五セット買おう。あとはオプションで永久保証を付けて欲しい。これでいくらになる?」


「ありがとうございます!そうですね……はい、全てで九万と六千メルとなります」


 よし。決定だ。

 俺はその後追加で少々電化製品を購入し、全て即金で支払った。

 ポッドから始まり、デバイス等諸々購入したが、俺の船の過ごしやすさを上げるためなら金は厭わない。船の居住環境だけなら傭兵になったばかりの人間とは思えない高級品ばかりだ。

 ここまでやっても未だに百万メル以上が残っているのだ。まったく、金があるのはいい事である。


「さてと……今日のうちには全部届くだろうし、明日の朝にはもう美味い飯が食えるな」


「うん。楽しみ」


 俺たちは明日の朝食を楽しみにしながら途中の屋台で買った栄養価の高い甘めのシェイクみたいなのを啜りつつ船へと戻っていくのだった。



★★★★★★★★★★★


もう1話投稿してあるよ!

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