五章 コウフラハの父  1 軽い宴

 ヤマトタケルノミコトらの協力による事後処理の結果、敵は一部を除き全滅。その一部は捕虜として牢に放り込まれた。タヲヤメらの領地は、ヤマトタケルノミコトたちが共同で治めることに決まった。

 一方のオオクニヌシ側は戦死者千三百、重軽傷者二千強を数えることになった。







トンカントンカン。トンカントンカン。




 戦闘から一夜明け。

 ヤマトタケルノミコトやカガチノミコトといった協力者やその部下が、各々金づちや鑿を、木材を持ち全壊したオオクニヌシノミコト邸を再建している。

 その再建中の屋敷で、オオクニヌシノミコトらはこれまでに戦死した者を弔う宴を開いていた。勿論屋敷を修理してくれている者達への労いも忘れない。


 そこでは、オオクニヌシノミコトの家族が実に数年振りの再会を果たしていた。

「お久しぶりです、龍造さん」

「オオクニヌシ。元気そうで安心したぞ。それに、アマテラスさんとスサノオ、カスガも元気そうで何よりだ」

「いえいえ、その節は本当にお世話になりましたわ龍造様。お会いできて嬉しいわ」

「様づけはよしてくれアマテラスさん。ムズ痒くてかなわん」

 ふふふとアマテラスは微笑む。

「おじさ~ん、久しぶりです~♪」

「はっはっは。ミコトはいつも元気だな」

「はいです~♪」

 久しぶりの再会を喜ぶのは、何も彼らだけではなかった。


「子龍、元気だった?」

「しーりゅーう、久しぶりぃ!」

「雲長殿お久しぶりです。そして苦しいので取り敢えず離れてください翼徳殿」

 ろくに挨拶できなかった助っ人達であった。彼女達は青龍の要請で献帝より召集され、送り込まれた面々だ。

 その中の一人、夏候惇は龍二の中から出てきていた伏龍にいつかの礼を述べた。

 ついでに、主で親友曹操の伝言を伝えた。彼女に続いて、孫堅代理で周瑜がそれを伝え、孫権はそれに対する品を伏龍に手渡した。彼は礼と共にそれを受け取った。


 ただ、そんな彼女達でも、達子の豹変ぶりには度肝を抜かれたようで、終始唖然としていた。

「何があったの?」

 聞かれてもそんなことを答えられる者は誰もいない。むしろ自分達が知りたいくらいだと思っている。


「子龍、ちょっと説明してくれるかしら?」

「雲長殿。それは、私も同じように知りたいくらいです」

 だから関羽が訊いても戸惑うだけだった。


 それは置いておくとしても、もう一つ変わったことがある。あの青龍がおとぼけ天然の天龍にたじたじだったことである。世の中不思議なものである。

 ふと関羽が視線を移すと知らない男女と龍のような者達が座って談笑してた。直感があの二人は龍二の身内か何かであると伝えていた。

 関羽は彼らの所へ歩いていき、そこに腰を下ろした。

「貴方達の傍にいるそれは龍かしら?」

 いきなり現れた知らない女の質問に、彼らは一瞬戸惑ったが、彼女に悪意がないと見るや「そうだ」と答えた。


「俊介君、この人誰ですぅ?」

「さ、さあ?」

 南雲も知らない人だった。

「つか、アンタ誰?」

 男、藤宮明が代表して彼女に言う。「女性に失礼でしょ! この馬鹿っ!」と戸部萌の拳が明を頬を撃ち抜いた。

 彼女は自分の失態に気づき、姿勢を正した。

「これは失礼。私は姓は関、名は羽、あざなを雲長と申す者。よろしくね」

『・・・・・・はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 南雲達、更に萌と明と彼らの相棒はたっぷりたっぷり空気を吸ってためにためてからから絶叫した。


(まぁそうなるよね~)

 俺達の世界じゃあ、関羽さん筋骨隆々立派な顎髭を蓄えた『美髯公』だしなぁ。そりゃ叫びたくもなるわなぁ。うんうん。

(まあ普通の反応だわな)

(いやはや、何度見ても良い反応じゃ)

(趣味悪っ)

 龍二の脳内ではおよそこんな会話が繰り広げられていた。


「あっ、そうか。お前らにはまだ言ってなかったっけ? 彼女を含め、龍造が呼んで寄越した連中は皆〝別世界〟の人間なんだよ」

 麒麟と破龍はそう説明するが、フリーズした彼らの頭がそれを理解したのはかなり経ってからだった。そりゃそうだ。

 ここで順応が早いのは南雲達だったりする。

「僕は南雲俊介。彼女は僕が龍造さんから借りてる煉龍」

「よろしくですぅ~」

「私は奈良沢貴子。こっちは同じく瞑龍」

「よろしく」

 他の面々も互いに簡単に挨拶を済ませ、続いて張飛や周瑜らとも同じように済ませた。


(アイツらだんだん俺達に似てきたぞ)

(それもまた宿命じゃろ)

(勝手に宿命にすんなや。つか、どんどん無関係な奴を巻き込んでないか俺達?)

(今更だろ? 世の中持ちつ持たれつだ使えるもんは有効的に使わな)

(あ~何だろう今スッゲぇ理不尽なものを感じる)

 龍二はまだ脳内会話から戻って来ない。


 龍造も彼らに倣ってイザナギ達に挨拶する。


 ただここに場の雰囲気を読まず弁えない一団があった。

「・・・・・・お願いします頼むからマジで離れてください」

『「「や~~~だっ」」』

「ええぃうっとおしい離れんか馬鹿者がっ!!」

「バカだから離れませんよ~~だっ」


 現実に強制的に引き戻された龍二と青龍主従だった。世の男諸君がこれを見たら確実に龍二は明日の朝日を拝めぬ身体にされていただろう。


 ゆさゆさ


 呉禁が必死に『お兄ちゃん』を助けようと彼女らを引き離そうとと必死に奮闘している姿がまた可愛い。何かのスイッチが入ったら彼はぬいぐるみのような扱いを受けるだろう。

「あ、あの、龍二さん困ってますよ!?」

 趙香も呉禁の援軍として龍二救出を試みるも無意味だった。〝吸着力〟がハンパない。

 最早定番となったこの茶番劇を何とかしようという輩は誰もいない。もう早速酒を囲んで騒いでいた。


「見せつけてくれちゃって」

「私達がいると言うことは完全に忘れてるわねあれは」

「アツアツだー!」

「龍二さんったら、いつあんなハーレムをつくったのかしら?」

 俺は作った覚えないしむしろ勝手に作られたんだよ。つか誰か助けろこの野郎共。人の不幸を肴に呑んでんじゃねぇぞチクショウテメェら・・・・・・・・・。

 と彼が心の中で思っていたなど知る由もない。

(不幸だっ!)

 とうとう誰かの台詞をパクった。

 誰も彼女達の暴走を止める者がいないので、仕方無く安徳が助けてやることにした。まだ完全に体力が戻っていない為、華奈未が進んで彼の支えになった。

「ほらほら三人共。貴方の龍二に対する想いはよく分かりましたから少し龍二から離れてくれませんか? 龍二も困ってますから」

『え~~~でもぉ』


 ぶぅたれる彼女らにやれやれと告げた。

「貴方達は愛している人を困らせてもよいのですか?」と。

 これには、三人は顔を曇らせながらも素直に離れた。「もっとほっぺたムニムニしたーい」とか「ギュッてしたーい」とか言う願望が耳に入ったが意識して流した。

 龍二は友人に泣いて感謝した。


 一方の天龍はというと、とうとう堪忍袋をブチキレさせた華龍が危うく彼女を釘バットで殺しにかかろうとするのを紅龍や澪龍、曉龍、炮龍、政義、為憲、滿就が必死に止めに入り、落ち着いたところで破龍と伏龍が天龍共々こってり絞った。


「子龍く~ん怖かったよ~っ」

 説教が終わるや趙雲の胸で泣きじゃくる龍の長老。主人はやれやれと嘆息する。

 しっかり教育してやるのが主人の勤めだ。

「天龍殿。貴方はもう少し自分の立場を考えなさい。いつまでもそんな〝子供〟じゃきっといつか後悔しますよ。ね?」

「ん゛~~~分かったよぅ」

 よしよし、と趙雲は彼女の頭を優しく撫でてやる。

「えへへ~」

 笑顔になった。

(何だかんだ言って私もついつい甘やかしてしまうんだよな)

 これが彼女の才能なんだろうなと耽っていると、張飛の怒声が飛んできた。

「子龍! 考え耽ってねぇでこいつを何とかしてくれぇ!」

 その声に気づき振り向くと、こっちに怒髪を立てて鬼の形相の華龍がまさに迫ろうとしていた。

「放せぇ! 殺すっ! あのバカ主を今すぐ殺ぉすッッッ!!!」

「ちょっ、おいおいやばいぞ抑え切れねぇ!」

「頑張れ! 放したらここが惨状になっちまう!」

 眼が血走って暴れているいる華龍に、最早誰の言葉も入らない。やれやれと煽るのは酒の入った神々だったりする。

 あわや〝華龍包囲陣〟が崩れようとしたその時だった。

「やれやれじゃな」

 かれらの事実上のリーダーは顕現するや暴走寸前の彼女にチョップした。

「いてぇな! 誰だゴラァ!!」

華龍こむすめ。お主、誰にそんな口を利いておるのか、分かっておろうなぁ?」

 周りにいた連中を恐怖のドン底にたたき落とすその表情。自慢の銀髪がゆらゆらと風もないのに揺れていた。その怒りを具現化したかのように。



「あっ・・・・・・・・・」

 ───ヤバッ

 やっと正気に戻った華龍は己の失態に気づき顔面が青ざめた。

「さて華龍こむすめや。何か、言うことはないかの?」

「す、すみませんでした!!!」

 華龍は即座にその場で土下座した。それを見て、酔った神は爆笑する。

「黙れそこのバカ《酒屑》共。半殺し状態で簀巻きにして生き埋めにするぞ」

 その顔を見た神も黙った。



「流石は伏龍様。一瞬で収めてしまわれたわ」

「まあ、アイツはこういうの得意だから。つかいつからいた藍実?」

「あら? さっきからずぅーっとわたくしはいましたよ?」


「き、気づかなかった」

「当然でしょうね。龍二君、何か思い耽ってたようだったから」

 否定しない。と彼は言う。

 その時、藍実はチラッとオオクニヌシを見た。

「そろそろ聞いてもよろしいんじゃなくて?」

 何がだ、と龍二は猪口の酒を口に入れる。最初こそ潰れていたが、だんだんと潰れなくなってきた。

「今日はいいんじゃないか?」

 飲み干してから呟くと、藍実はクスリと笑った。

「龍二君がそう言うんなら、それでいいんじゃない? まぁ、貴方の事だから、明日にでも訊くんじゃないかしら」

「さぁ、な」

 微笑む藍実に彼は、ふふんと微笑する。龍二は酒を注いだ。

(おっちゃんとゼウス・・・・・・ねぇ)

 触りだけなら彼はアマテラスやスサノオから聞いたことがあった。

(昔何があったんだろうな)

 まぁいいかと彼は猪口の酒を飲み干した。

「藍実。わりぃけどコイツら頼むわ。俺はそろそろ寝る」

「はい。任されました」

 疲れてスヤスヤ眠る趙香と呉禁を藍実に任せて誰にも気づかれるように部屋を抜けた。

「これからが本番かな」

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