第5話 メイドと部活選び。
体育館にて、今日は部活動紹介。入部自体は強制ではないが、担任の先生は遠回しにお前らちゃんと入れよと。
「我が高校は入部率九割を誇っている。入っていない人も委員会や生徒会、外部で何かしら活動をしている。入るからには本気でその活動に取り組むように」
との事だ。だったら強制にすりゃあ良いのに。ややこしい事をする。
陽菜から聞いたが、あるにはあるが、ほとんど活動していない部がかなりあるとのこと。
器械体操部が技を見せたり剣道部が模擬戦をしたり何故か柔道部が劇をやったり、野球部が伝統の応援と称して太鼓を打ち鳴らしたり。結構賑やかだ。
「相馬、今時硬派な男と軟派な男、どっちがモテると思う?」
隣に座っていた桐野が深刻そうに話しかけてくる。
「そりゃ、硬派だろう。浮気をされたい女子がいるってのは聞いたことがあるが少数派だろ」
「だよな、軟派な男を目指すならテニス、硬派なら野球かなと」
「今すぐテニスプレイヤーと野球選手に土下座で謝ってこい」
どんな偏見だよ。一瞬、わからなくもないとも思ったけどさ。それ目的でわざわざやる奴っているのか? 下手くそならモテる以前の問題になるし。
「モテるなら軽音部かなとも思ったが女子はスポーツを全力でやる男に惚れるものだろ?」
「そうなのか? そんなちょろいものか? 音楽ができる男子もそこそこモテると思うぞ、ピアノとかヴァイオリンとかギターとか」
「あぁ、俺まず楽譜読めねぇから」
「あぁ……。というか、彼女作るために部活やるのかよ」
「高校生何てみんな彼氏やら彼女やら欲しいと思うものだろ」
「そうなのか」
どうやら僕は、高校生という括りには入っていないらしい。
「まぁ、そんな訳で、一人じゃ不安だからお前も来てくれ」
「やだよ」
「そう言わずにさ、お前だって朝野さんや布良さんと付き合うつもりとかないだろどうせ、あんなに仲良いのにそんな雰囲気微塵も感じられねぇ。あんな美少女幼馴染いるのに手も繋いだ事無いってか、悟りでも開いているのか? 爆発しろっ!」
出会って一か月も経って無いってのに、手を出せと言う桐野。普通の高校生ってこんなものなのか? いや、その事は言わないけど。
そこまで盛ってない。むしろ盛っている僕とか想像するだけで怖い。
まぁ、でも、少しくらい見に行っても良いか。全く見ないで決めるのもあれだし。
「わかったわかった、OK、見に行こう。見に行くだけだぞ」
「さすが我が友よ。共に甲子園を目指そうじゃないか」
この学校、県内では弱小校として有名なのだが。
「わかりました、相馬君。では同行させていただきます」
「いや、先帰ってて良いよ」
そんな会話がなされたその日の放課後、部活見学に行くから先に帰っててと言う旨を伝えたら陽菜は同行すると言う。
「いえ、相馬君が運動部に入るなら私としてはそこにマネージャーとして所属したいと思うので」
「じゃあ、文化部なら?」
「私も同じ部に」
「委員会や生徒会」
「一緒に入ります」
仕事に手を抜くつもりはないとは言っていたがここまでとは。
まぁ、見に行くだけだし、その同行を断る理由もない。
「了解、野球部の見学に行こうと思うのだが」
「承知しました」
「全く覇気が感じられませんね」
グランドに着き、陽菜が一言そう言う。
「聞こえるからやめてくれ」
「外の声が聞こえるという事はそれだけ練習にのめり込めていないという事では?」
「相馬、朝野さん、先輩方がこっち見ているから勘弁してくれ」
先輩方の視線がこちらに集中している。陽菜の声は小声でもそれなりに通る声だ。本人が無自覚でも。聞こえる人は聞こえるだろう。
そして部長らしき人がバットを掲げて叫ぶ。
「お前らー! 一年にあんな風に言われて悔しくないのか! 行くぞ、千本ノックだ! 気合い入れろ!」
「「はい!」」
何じゃこりゃ。突然野球部の何かが燃え始めた。
「すげー、さっきまでの練習が嘘のようだ」
桐野も何やら感動しているし。
「ほらそこの一年も、やるぞやるぞ」
「えっ?」
そのままグローブを持たされる。そして僕と桐野は突然グランドに立たされる。陽菜は陽菜でマネージャーに声をかけられているのが見えた。
「おら! 打ってくぞ、一球も後ろに通すな!」
「「はい!」」
そしてそのまま開始される。いや待て、なぜ僕まで。しかし、どこかに立ち去れる雰囲気でも無かった。せめて着替えさせてほしい。
「相馬君! 桐野君! ファイトです!」
陽菜の応援が聞こえるが、正直帰りたい。
飛んでくるボールをひたすら拾い投げ返す。バッターが予告した方向に飛ばず、癖の問題なのか、僕が立たされた方向によく飛んでくる。半分くらいは僕の方に飛んできただろう。
「おらおら!声がちいせぇぞ!もう五百追加だ!」
「「はい!」」
もう嫌だ。しかしカキーンと音は響く。フライか。キャッチして投げ返す。
運動不足では無い。けれど精神の疲れは肉体にも作用するもので、何だかだるい。
しかしここでまた本数増やされてもなぁ。ていうか、おい部長、てめぇだけ水飲むな。僕らにも飲ませろ!
「ラスト―!」
最後の一球はバッターボックスの後方に飛んで行った。
練習が終わり、陽菜のもとへ戻る。僕が近づくと立ち上がりぺこりと一礼するのは、少々大仰過ぎやしないかと思うが、疲れた。
「お疲れ様です。水筒です、中は麦茶です。どうぞ」
「ありがとう。……陽菜、野球部はやめておくよ」
「どうしてですか?」
「坊主にしたくない」
「なるほど、ちなみにそのあまり整っていない髪型にこだわりは?」
「無い、けど坊主はヤダ」
「そうですか」
「俺は、俺はやるぞ」
帰る決断をしながら、麦茶をぐびぐびと飲むその横で、桐野は一人でやる気を燃やしていた。
疲れ果てた体を引きずり帰路に着いた。ワイシャツが汗でべたついて気持ち悪い。
「結局相馬君はどの部に入るのですか?」
「考え中」
「帰宅部と言う選択肢は?」
「あるにはある」
「夏樹さんは生徒会の手伝いをするそうです」
「へぇ、何か似合うね」
「そう思います」
どうしたものかな、部活。どれもピンとこない。
「相馬君」
「ん?」
「悩んでますか?」
「おう」
「出過ぎたことを申し上げてもよろしいでしょうか?」
「うん」
「ゆっくり見つけていくのが良いと思います。慌てて見つける必要はありません」
そう言って、彼女は初めて僕に笑顔を見せた。思わず僕は立ち止まり見惚れた。端から見れば可笑しなものだろう、普段、無表情ばかり見ているからなのか。いや、関係ない。綺麗なものは綺麗だ。
風が吹く、夕日が彼女の顔を照らす。時が止まったような錯覚は、陽菜の顔が無表情に戻り、きょとんと首を傾げた事で解かれた。
「言うほど下手じゃないと思うよ、笑顔」
それが僕がどうにか絞り出した感想だった。
「えっ、今私笑ってました?」
「うん」
「不覚です」
「笑顔でいてよ」
「無理なお話です」
「いつもの無表情より良いと思うよ」
「これが私にとっての普通です」
再び感情が消えた顔。鮮やかな色が落とされ白くなる。
けれど、いつもよりもうつむきがちに歩く陽菜。僕もいつのまにか後ろ歩きが得意になったものだと思う。
そうだね、ゆっくり探そう、僕のやりたい事。
「決めたよ陽菜」
「はい」
「しばらく帰宅部するよ」
「そうですか、なら私も帰宅部にします」
「陽菜のやりたいことしたらいいのに」
「私の仕事はあくまでも、ご主人様の日常のお手伝いですから」
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