第3話 不審者発見隊

 「君は、真理ってあると思うかね」


 この不審者は、どうやら天から何かを受け取っているらしい。こんばんは!と元気いっぱいに、勇気を出して挨拶をしたら…こんな感じだ。まともに会話をする気が無いのかもしれない。唖然として体が少しも動かない。そんな感じだ。体を凍らせてくる術を持った不審者とは、なんと強敵なんだ。


 「あぁ、いや、ごめんね…急に、びっくりしたよね…ごめんよ」


 急に謝りだした。なんだこの不審者は!精一杯回っていると思ったら真理を問いだし、急に謝り始めた。良識があるのか?それとも、ただ頭がおかしいだけか?


 「ここは、夜中だと一目が一切ないと思ってたよ…ごめんね?びっくりしたよね?まわってて…」


 「あ、え?」

 

 不意をつかれた。この不審者、おじさんは自分が不審者である自覚があったのだ。では、何故そんなことを?不審とわかりながら…。


 「な、なんで、回ってるんですか?」


 色々と言葉は喉に上がってきたが、口から出るのは最も簡素化されたものになる。それを普段から実感する。いや、そうとう頑張らないと、言葉を喉からだせなくなってるから…なんで?でも、取り敢えず頑張った!不審者に対して普段なら絶対話さないであろう不審者に対して頑張って質問した!謎の達成感を感じる。


 「あぁ、さっき聞いたよね?真理があるかどうかって」


 勇気を出したことを後悔した。勇気などいらなかった。こんなくだらない勇気はいらない。役に立たない勇気なんていらなかった。好奇心か?好奇心のせいか?好奇心がこんないらない勇気を出させたのか?さすが好奇心!!その好奇心は素晴らしい宗教勧誘を致していただくことを引き当てた!好奇心によって悔い改め、カルマを浄化し上のステージへ行くこと機会を頂けるのだ!素晴らしい!!


 「いや、宗教勧誘ではないから安心してくれ」


 え?ではなんだ?何を考えているんだ?


 「スーフィズムという信仰の仕方があってね、まぁ、イスラーム教の話なんだけど」


 スーフィズム、昔教科書で見た気がする。イスラーム教の一派のうちの一つだ。確か、代数かなんかを発明?したガザーリーとかいうおっさんがはまっていたやつか。


 「それではね、こんな感じに回るんだよ」


 おじさんはくるくるとその場で回った。子供が公園で適当に遊んでいるようだ。近くで見ると気味が悪い光景だ。


 「倒れるまで回るんだ、それで倒れると、神、まぁアッラーを感じるそうなんだ」


 「へ、へぇ…、そうなんですね」


 結局、何が目的なんだ?俗物的なものではないだろう。勧誘でもない。特定の宗教の儀式…ではあるけど、それを信仰してる感じではない。じゃ、何?目的が分からない物ほど不気味な行動は無い。背中に何か冷たい風がしたから通るのを感じた。


 「僕は春樹、いろんな宗教がこの世の真理を説くが、ぼくはそれを自分でいちから感じたいんだ」


 おじさんの言っていることが分からない。取り敢えず、春樹という名前であることは理解した。しんり…?を感じる。薬でもキメているのだろう。だが、それにしてはやけに話が通じているけど…。


 「いや、ごめんよ、そんな顔をして、困らせてしまったね、まぁ、あんまり気にしないでくれと言っても無理な話かもしれないけど…、ところで、こちらから聞くのもなんだけど、こんな時間にこんな所に来て何してたの?」


 この不審者はこちらの動向を探ろうと言うのか。何とも…不審だ。どうしよう、正直に言う必要はないし、そこに住んでますなんて言ったらどうなるか分かったもんじゃない。


 「あ、あ…あの…えっ…」


 言葉がどもる。きっぱりと断るべきなのだが、断る言葉も出てこない。この喉は言葉をこしとる漏斗でもついているのだろう。


 「あー、いや確かに急に知らないあったばっかりの人にそんな事は言えないよね…まぁでもこんな時間にわざわざこの公園に来るなんて何かしらの事情があって家にかえれないんでしょ?」


 確かにそうだ。この公園は道路から長い階段を下った所にあり、周囲よりも下がった地形だ。また、公園自体も非常に大きく自然が豊かなので、わざわざこの公園を通って向かい側に出ようなどとすると非常に時間がかかり、むしろ遠回りとなってしまう。だから、この公園を訪れるものは真に公園に用がある者に限られるのだ。


 「い、い…」


 言葉になってない。口から出たのは言葉の不良品だった。速く、取り換えなきゃ、クレームをいれられる!


 「そうですっ!」


 今度は過剰包装だ。顔に熱が立ち込めるのが分かる。おじさんの顔が恥ずかしくて見えない。


 「あ…ごめんね、喋るのそんなに好きじゃないんだね、僕はもう帰るよ、ごめんね」


 「え」


 おじさんは足早に公園から出ていった。おかげでやっと、ベンチに座って落ち着く事ができた。ありがとう、おじさん。

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