第3話 女子力

快晴の空に、気持ちよく背を伸ばした。

11月中旬の風は、ほどよく冷たい。


イマリは今日も、武具の修行を頑張るんだって修行場に行っている。

私も、これから秘密特訓!…頑張らねば。



「お母さぁん」

キッチンカウンターから台所を覗き込む。


「いらっしゃい、セイラ」

みんなのお母さんの、いつもの笑顔。


でも、あれ?何か違う…あっ!

「お母さんっ、なにそれ!!可愛い~!」


いつも、着けているエプロンは真っ白なのに、今日のエプロンは水色の水玉模様!

三角巾さんかくきんまで水玉!


少し、はにかんだ笑顔でニコッと笑い、みんなのお母さんは言った。

「いいかい?…お菓子作りはね、格好から楽しむものなんだよぉ?」


そう言いながら、何やら奥の棚から出して来た。

ピンク色のエプロンと三角巾さんかくきんだ。

もちろん、水玉模様!


してやったりの笑顔で、みんなのお母さんは、それを私に差し出した。

「早く着なさいな、はじめるよ」


「うんっ!ありがとう!お母さん」

…すっごく、嬉しかった。



台所で調理器具や食材を準備しながら、みんなのお母さんは聞いてきた。

「セイラも、背が伸びたねぇ…わたしゃ追い抜かれちゃったかね?」


「もう、お母さんが小さくなったんでしょ!」

そう、私は145cm。

成長期はまだまだ、これからなのだ。

私は笑いながら、みんなのお母さんに振り返った。


みんなのお母さんは背を向けていた。

…その背中が…少し、寂しそうだった。

気のせいかな?…。


みんなのお母さんは、背を向けたまま続ける。

「それで…イマリちゃんの誕生日は、いつだったかな?」


私は、三角巾さんかくきんに苦労しながら、答えた。

「お母さん!もうそれ何回目?…12月1日よ!カレンダーに書いておいてよ」


「そうかい!そうかい!」

みんなのお母さんは満面の笑みだった。


そして、カレンダーをめくり、12月1日に大きな……花丸を付けた。



―― その日から、私はひまさえあれば

みんなのお母さんの所に行き

一生懸命、秘密特訓をした。


カステラ美味しいって言う

イマリの笑顔を、見るために。

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