第2話 赤い花の名は。

古びた木の部屋の真ん中に、七つのイスを従えた大きなテーブルが、私の部屋だぞっとばかりにドンと構えている。


その上には青い花瓶に活けられた赤い花が飾られ、何も置いてないテーブル上にワンポイントの可愛さを演出していた。


奥の台所からはトントントントンっと、心地よい音が聞こえ、お味噌汁の良い香りがここまであふれ出ていた。


「お母さぁん、おはよう!」

私は、キッチンカウンターから台所を覗き込んで、みんなのお母さんに挨拶。


イマリも、私の真似をしたい年頃なのか、キッチンカウンターに手を付き、爪先つまさきちになり、キッチンカウンター越しに挨拶した。

「おかぁさん!おはよぉござぁます!」


みんなのお母さんは湯気の中から、こちらに振り返りニコッと笑った。


「あらあら、セイラおはよう。すぐご飯出すから座ってなさいな」

みんなのお母さんはそう言うと、キッチンカウンターから、こちら側の下を覗き込んだ。

「あらっ!?イマリちゃんも、おはよう!偉いね~」


イマリは、みんなのお母さんを見上げて、見つかっちゃったみたいな笑顔を振りいた。


私はイスに座り、朝日に照らされた湯気が立ち込める台所を再び見つめた。


湯気の向こうに見える、みんなのお母さん。

白髪がたくさん増えて、シワも増えて、最近じゃ腰が痛いって、腰を曲げたまま歩く姿を良く見るようになった。


みんなに優しくて、笑顔が可愛くて、何でも話を聞いてくれる。

私とイマリは、そんなみんなのお母さんが大好き。


イマリが隣のイスに何とか座り、足を前後にプラプラさせながら、頭を左右に揺らし始めた。

「きょうの♪おはな♪あかくて♪おっきい!」


イマリの良く解らない作り歌に、笑っていると

「ツバキの花だよぉ…ほら、温かいうちに食べなさい」

と、みんなのお母さんがトレーを二つ置いた。

みんなのお母さんは、ニコッと笑顔を残し、せわしく台所へ戻った。


「「 いただきます! 」」

私達姉妹は、花より団子…なのである。



朝食を終えた私達は、木のお家の前に広がる修行場の、すみにあるベンチに腰を下ろした。

昇り出した初冬の太陽は、やっとぬくもりを大地に届けてくれる。


私にはもうすぐ、技巧道ぎこうどう下忍げにん試験があるらしい。

試験内容も、日程もまだ決まって無いらしく、それが理由で、いまいち修行に身が入らない。


ううん、それが理由ってのは嘘。

私は不安なのだろうか…。

私は気付いている。

だけど…みんなのお母さんにも怖くて相談出来ない。

……私は気付いている。

このお家には、12歳以上の子供が一人も居ないこと……11歳で下忍試験を受けた子供たちが、誰一人として、ここに帰って来ていないことを。


「…おねぇちゃん?…おなかいたいの?」

イマリが不安そうな顔で見上げていた。


ダメな姉だねっ!


「ん~?大丈夫だぞぉ~こちょこちょ~」

私はなるべく不安をイマリに与えないように

明るく振る舞うんだ。

今までも、これからも。


私の必殺技こちょこちょに、ひとしきり笑い疲れたイマリに聞いてみた。

「イマリは、クナイとカタルどっちが好きなの?」

最近、武具の修行を始めたらしい。


「おねぇちゃんと、いっしょ~の…やつっ!」

「そっかぁ嬉しい~!

でも、もしイマリがカタルだったら~

私達、姉妹は最強かもよぉ?」

「さいきょ~?」

「…うん!」

「大事なものを、ぜっったい守れる強さ」

「ぜっ~~~ったい?」

「うん?絶対の絶対の…ぜっったいだぞぉ」



…私は…守りたい。

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