第19話 柔らかく優しい手のひらに包まれて

 キーンコーンカーン。


 チャイムがなると同時に俺は席から立ち上がった。

「よし、帰るか」


 妹・みつの事をひたすら考えていたらいつの間にか、放課後になっていた。なんてことよくあるよね。


 大事な話とはなんだろうか。

 昨日俺に告白してきた謎の美少女が、実は蜜だったということだろうか。


 そんなことを考え出した俺はいてもたってもいられず、そのまま教室を飛び出し廊下へと駆け出そうとした。

 が、

「私の事、忘れてないよね?」

 俺が駆け出す前に紫月しづきがガッチリと俺の腕を掴んでいた。掴んでいたと言うより握りしめていて、とても痛かった。

「忘れてない。大丈夫、蜜のことで頭いっぱいだったとかそんなんじゃないから」

「益々怪しくなったんだけど……。本当に忘れてないよね……?」

 そう言いながら、心配し過ぎで今にも泣きそうな顔で強く握りしめる紫月。

「痛い痛い痛い!!!!」


 おかしい、誤魔化しきれてないだと?

 というか今思ったけど紫月の握力凄いな。こんな細い腕のどこにそんな力があるんだろうか。


 しばらく俺が紫月の予想外の力に悶絶していると、やがて諦めたのか紫月は次第に俺の腕を握る力を緩めていった。

「まぁ、忘れてないならいいや。……部屋で大事な話があるって私が言ったも忘れてないよね……?」

「……忘れてない」

 ジーッと俺の目を真っ直ぐ見つめる紫月の目線に耐えきれなかった俺は、咄嗟とっさに目線を逸らしてしまった。

「だからなんでいちいち怪しい反応するのかなぁ」

 呆れて肩を落とす紫月。


 その仕草が妙に可愛く、そしてもう一度見たいと思った俺は

「てへぺろ」

 気づけばこんな行動をしていたのだった。


 はたから見たら、絶対イラつく反応だがきっと紫月はもう一度さっきと同じ反応をしてくれるだろう、そう思い反応を待っていた。

 そんな紫月からの反応は

「次それやったらもっと強めに握るからね」

「……うぃっす」

 ブチ切れであった。


 そのまま紫月が怒りに任せて猛追を始まるのかと思い、身を小さくして構えていると

「はぁ……まぁいいや。とりあえず、桜夜おうやの家向かおっか」

 今日何度目かのため息をついた紫月は、そのまま優しく俺の手を握り廊下へと出た。

 俺もそのまま紫月の手を振り払うことなく廊下へと出る。


「ほんとに忘れてないからな……?」

 念には念をと、俺は最後のひと押しをして見ることにしたが

「はいはい。言い訳は後でじっくり聞くから」

 むしろ逆効果だったかのように思われた。

 後でじっくりって何されるんだろう……。


「いいから、早く桜夜の家行こ!……朝言ってた“ いいこと”やるんでしょ?」

 そう言って、紫月は歩みを早め、そして俺の手を優しく握ったまま、俺の家へと向かうのであった。


 このまま、紫月の柔らかい手を味わっていたい。

 なんならずっとこのままでもいい。




 そんなことを考えて、紫月のペースで俺の家へと向かっていたのだが、まさか俺の部屋であんなことが起きるなんて、この時には思いもしなかった。


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