第18話 正直者には福来たるって、聞いたんですが

「あれ?お兄ちゃん何してるの、そんなにノートなんて持って。パシリ?」

 鈴音すずね先生から言い渡された罰、“ 教材運び”をしていると、階段を登ってきた妹のみつに出くわした。


「パシリじゃないし。すずちゃん先生の教材運び手伝ってんだよ」

 俺は、事情をざっくりと説明したが、いつもの俺を知っている蜜にはむしろ不自然に感じたようで

「ふーん?んで、なんで手伝ってるの?普段そんなのやらないじゃん」

 と、怪しげな目で俺をジロジロと見る。


 信用されてねぇなぁ、俺。

 まぁ、その通りなんだけどね。


「今日はちょっと手伝いたい気分だったんだよ」

 疑われていると分かっていても俺は罰のことは言わずに、あくまで自分の意思でということを貫く。

 極僅ごくわずかな、ほんの少しでも残された兄としての威厳いげんを守るために。


 けれど、やはりずっと一緒に生活してる蜜には誤魔化しきれるはずもなく

「いいよ、隠さなくて。お兄ちゃんのことだから、どうせなんかやらかしたんでしょ?」

「……ご明察」

 普通にバレていた。


「やっぱり」

 あっさりと嘘だったと白状した俺に呆れたのか、小さくため息をつく蜜。

 すると、蜜はニヤリと口元を緩めさせ明らかに悪巧みを考えてる顔をして、そのまま口を開く。

「それで、一体何やらかしたの?早いとこゲロった方が身のためだと思うよ?……と言うより、お兄ちゃんのフィギュアの為だと思うよ?」

「一体俺のフィギュアに何するつもりだよ……」

「さぁ?それはお兄ちゃん次第だよ?」


 この妹はほんとズルいよなぁ……。

 見るからに邪悪で悪巧みしてる顔をしてるのに、それでも可愛いんだから。

 しかも、学校での姿は誰にでも優しい優等生美少女で通してるのだから、なんとも言えない。



「それで、何やらかしたのさ」

 授業前というのもあり、周りに誰も居ないことをいい事に普段の姿をこれでもかと言うくらいにさらけ出す蜜。


 この時の蜜には兄である俺でも敵わないので

「んー、ちょっと色々あって紫月しづきを押し倒してしまってだな……」

 あっけなくゲロった。


 決してお気に入りのフィギュアに何されるのか怖くて、とかでは無い。


 そして、俺の言葉を聞いた蜜はと言うと

「しーちゃんを押し倒した、ねぇ……ほほぉ?お兄ちゃんごときが、しーちゃんを押し倒して色々しようとしたと?」

 めっちゃワナワナしてた。


 いや、まぁ、普通に考えたらその反応が当たり前だろう。その前に陽ちゃんのパンツも見ちゃったことだけは黙っておこう。

 多分、というか絶対に俺の命がない気がする。


 そんな殺気丸出しの蜜を目の前にして

「いや、事故だから!決してわざとじゃないから!」

 俺は必死に言い訳をする。

 実は自分から押し倒した、と言えなかったことにかなり後悔したが、

「とか言って実はワンチャン狙ってたりしたんじゃないの?」

 蜜は俺に自己嫌悪する時間すら与えてくれないそうだ。

「……ワンチャン狙ってたとか、そんなんじゃないし」

「なんで意味深な返事をするのかなぁ。まったく、これだから童貞お兄ちゃんは」


 何でもかんでも童貞のせいにしないで欲しいとは毎回思うが、強く否定しきれないのが辛いところである。


「いいか?毎回言ってる事だが、童貞じゃないかもしれないだろ?」

「まーたそうやって真実から目を逸らそうとする。いい?お兄ちゃんは残念童貞なの。自覚して」

 と、キッパリと断定する蜜。


 どうしよう、お兄ちゃん泣いちゃいそう。

 まぁ、今回もその通りなんだけども!!!


 そんなやり取りをしてると、俺はふと気づいた。

「そんなことより、どうして蜜はA棟にいるんだ?そろそろ授業始まるだろ?」

 1年の教室はB棟なので、本来は授業開始前5分の今の段階でA棟にいるのは少し不自然だった。

 陽ちゃんみたいに休み時間ごとにA棟とB棟を行き来する人を除いて。


 すると、蜜は「あぁ」と小さく感嘆すると、

「5限目は移動教室なんだよ。今から音楽室に向かうところ」

 と説明してくれた。

「あぁ、なるほどな」

 音楽室や化学実験室、情報室がA棟に集中している為、蜜がA棟にいるのも納得である。


 しかし、危惧するところもあった。

「まぁ、気をつけて音楽室行けよ?」

 理由は音楽室の場所だった。

 しかし、俺が気にしている理由が分からない蜜は

「お兄ちゃん心配症じゃない?大丈夫でしょ、もうすぐそこなんだから」

 顔を傾げ、眉をしかめる。


 確かに普通の学校だったのなら特に心配する必要はなかった。

 そう……普通なら。

「まぁ、そうなんだけどさ。音楽室の近くにオカルト研の部室があるから一応な……?」

 残念ながら、この学校は“ 普通”では無い人が少なくとも一人いるのだから。


 流石の蜜でも怯えることぐらいはあるだろう、と思いプチ仕返し程度と考え伝えたが

「あぁ……。まぁ、いざとなったらお兄ちゃんを生贄召喚するから大丈夫だよね!」

 思ったより効き目はなかった。

「その場合、俺の命が大丈夫じゃないが……」

 まぁ、妹の身代わりになるくらいなら、兄冥利に尽きるかもしれない。



「そんじゃそろそろ行くわ」

 時間も時間で、もうそろそろ授業開始に迫っていたので俺は慌てて教室へと向かおうとした。

 そんな時だった

「あっ、そうだ。今日大事な話があるからできるだけ早く帰ってきてね?」

 蜜からそんなこと言われた。


「……えっ、それってどういう!」

『 大事な話』。俺はその言葉に敏感に反応した。


 まさか、昨日の告白の相手って、蜜なのか?



 そう思い慌てて蜜がいた方を振り返ってみたが


「あっ……」


 もうそこには既に蜜はいなかった。




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