第3話 ちょっとぐらい期待しちゃってもいいじゃないか、男の子なんだもの。

「とりあえず、気にせずに通り抜けよう。関わるとめんどくさい事になるだろうし」

 校門の端で集団を作っている中心人物、墨谷すみや 優那ゆな先輩に注意しながら、俺は一緒に登校してきた碧海あおみ 紫月しづきの手を掴み、集団との隙間を通り抜けようとした。

 俺の意図がわかったのか、紫月は俺の顔を見て集団に脅えながらも大きく頷いた。

 表に出るほど、墨谷先輩が紫月の中で恐怖なのだろう。

 そう考えていると

「そ、そうだね……。たまにはいいこと言うじゃん、桜夜おうやのくせに」

「たまにはってなんだよ、いつも言ってるだろ。てか最後の俺のくせにっていうのは酷くね!?」

 いつもの調子で話しかける。

 けれど手は震えていた。空元気なのが見え見えだった。

 少しでも心配させまいとしようとしてるのかもしれないが

「え?そうだっけ?」

「そうだよ!?」

「じゃあ、そういうことにしといてあげましょう。あと、最後のはごめん勢い余って本音が」

「うんうん、分かればいいんだよ。てか本音だったのかよ……」

 それにしたって、いつもとあまり話してる内容が変わらない気がするのは気のせいだろうか?


 と、果たして紫月は空元気なのだろうかと疑問に思っていると

「ところで、桜夜?」

 集団を今まさに抜けようとしたところで、紫月が声を震わせながら話しかけてきた。

「どうした?」

 紫月の体が完全に硬直してしまってるのが非常に気になった。

 元気が取り柄はどこいったとツッコミたいぐらいに。

 すると、ゆっくりと、ある一点を指で示す紫月。

 そして信じ難い言葉を紫月が口にした。

「墨谷先輩にロックオンされてる気がするんだけど。……主に桜夜が」

 俺は紫月のその言葉を聞き、指で示されてる方を見ると

「え、そんなわけ。……あ、めっちゃ見てる。やばいガン見されてる。超怖い」

 じーーーーーっと俺の方を見ていたのであろう墨谷先輩と目が合ってしまったのだった。


“終わった……”

 心の中で俺は、学園生活での平穏が終わった気がした。いや終わるのだろう。

 墨谷先輩に目をつけられるとはそういうことだ。

 それをわかってるからか

「えっと、それじゃあ、後は頑張ってね?先に教室行って待ってるから」

「え、待ってこの状況で!?」

「放課後、いいことしてあげるからーーーー!」

 紫月はそう言ってその場から俺を置いて走り去ってしまった。

 それほどまでに墨谷先輩はほとんどの生徒にとって恐怖の対象なのだ。

 俺ももちろん逃げるべきなのだが

「いいことしてあげる、って言われても……」

「桃乃くん、おはようございます」

 あいにく、ロックオンされてしまってる俺はそうもいかなかった。

「お、おはようございます、墨谷先輩……。俺に何か用でしょうか……?」

 俺は恐る恐る墨谷先輩の方へと改めて体を向けた。

「そうですね。まどろっこしいのは苦手なので、率直に言わせていただきますね」

「……っ」

 俺は一体何を言われるのかと思い、キュッと身構えた。

 すると、自身のカールのかかった長い髪を指でクルクルといじりながら墨谷先輩はこんなことを言い出した。

「昨日の返事を聞きたくてずっと待ってたの」

「え、返事って……」


 俺は昨日の謎の黒髪ストレートの美少女ことを思い出した。

『 明日返事聞かせてね……。待ってるから』

 確かに彼女はそう言っていた。

 名前を名乗らなければ、時間も伝えてなかったが彼女は確かにそう言っていた。


 まさか、その子が墨谷先輩なのか?

 ストレートとは程遠い墨谷先輩の髪だが、昨日の為にわざわざストレートにしてきたとか……?

 そういうことなのか……?


 と、俺が必死に考えているかたわらで


「あの墨谷さんがあの子に興味を?」

「おいおいあの子終わったな」

優那ゆなたんから熱い視線オラも貰いたいでござる」


 集団の中の数人が口々に何か言っていた。


 けれど、俺だけでなくその集団の主である墨谷先輩ですらそれらを無視し

「答え、教えて貰ってもいいかな?」

 俺ばかりを見ていた。

 危険人物と名高い彼女だが、今話してる限りは普通の人であり、なんなら整った顔立ちに見惚れてしまいそうまであった。

「えっと……なんの答えでしょうか」

 こんな美人がただの一般人である俺なんかに好意を持つわけない。そう考え、俺は惚けて彼女から真意を引き出そうと試みた。

「何って、それはやっぱりアレに決まってるじゃない……って、こんなこと言わせないでよ。恥ずかしいわ」

 顔を赤らめあからさまに照れながら言葉を発する墨谷先輩。

 俺は確信した。

“ これはいける!”と。

「そうですよね決まってますよね。………ちょっと意外です」

 俺の事をなんとも思ってなければあんな反応するわけが無いのだ。

「ええ、もちろんよ。でも、意外では無いかもよ?私だって、したくなっちゃうお年頃なんだから」

 先程から墨谷先輩は俺と目を合わせようとしない。


 つまりはそういうことだろう。

 俺は思いきって聞くことにした。

「アレっていうのはやっぱり恋、ですよね?」

 これで俺にも、晴れて人生初の彼女が!そして童貞卒業もっ!!!

 そう思って彼女の返事を待っていると、墨谷先輩が口を開いた。

「いいえ?違うわよ?」

 そう言われた俺は、驚きながらも墨谷先輩の顔を見ると、彼女はキョトンとした顔で俺を見ていた。


「えっ?それじゃあ、一体アレって……」

“ アレ”が恋じゃないなら、彼女にとっての“ アレ”とは何なのだろう。

 そう思いながら呟いていると

「アレって言ったら人体実験に決まってるじゃない」

 墨谷先輩は真顔でさらっと恐ろしいことを口にした。

「えっ?」

「え?」

 俺は思わず間の抜けた声を出し、それに驚いた墨谷先輩もまた間の抜けた声を出した。


「あっ、実験パートナーを探してたんですか、そうでしたか」

 俺は聞き間違いであることを祈った。

 彼女の件は諦めるから、その代わり今彼女から聞いたことを無しにしてくれとまで思った。

 しかしその願いは神には届かなかったようで、

「いえ、私専属の人体実験モルモットになってもらって欲しいの。そしたらあなたの私生活を堂々と監視出来るものね」

 より詳しく説明をしてくる墨谷先輩。

 しかも

「なにそれ超怖いんですが、ちょっと聞き捨てならないことが……。いま『 堂々と』って言いませんでした?」

 不穏な言葉を付属して。

「言ったわよ?」

「なんの悪びれもなく堂々と……」

 先程から顔色ひとつ変えずに淡々と、言葉を発する墨谷先輩に俺は戸惑っていた。


 が、ここで墨谷先輩の様子が変わった。

 どう変わったのかといえば、これぞオカルト部員といった禍々しい雰囲気へと……。

「ちなみに今朝の桃乃くんと妹さんのやり取り最高だったわ。妹さんにバレてないと思ってこっそりと女の子のフィギュアを下から覗こうとする桃乃くんの欲望に溢れた表情が、何とも……ふふふふ」

「ちょっと待ってください、どっから覗いてたんですか!?それに俺の部屋2階なんですが!?」

 美少女フィギュアのパンツを覗こうとしていたことを妹の蜜に見られていたことは正直どうでもよかった。

 いや、どうでもよくはないが俺の私生活をずっと覗き見されていたことと比べたらなんてことは無かった。


 けれど、彼女にとってはあくまで観察対象でしか無いらしく

「桃乃くんのお部屋は2階だから普通は覗けないだろうって?そんなもの、私の知識を持ってすればなんてことないわよ」

「ええ……」

 プライバシーもクソも無いらしい。


 俺の直感は間違ってなかったらしい。

 彼女に目をつけられた時点で俺の学園生活は終わってしまっていたらしい。

「それで、返事は?」

 相変わらず表情を変えない墨谷先輩は、俺に返事を催促する。

 彼女に追い詰められた俺は、意を決して返事をした。



「お断りします」


 と。



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