第2話 ピースサインが元気印の美少女・碧海 紫月

「おはよう、桜夜おうや

 俺がのんびり歩いて学校へと向かっていると、後ろから元気な透き通る声と共に、その声をかけてきた女の子から背中をポンと押された。

 振り返ってみると、青空のように爽やかな、薄い青色の短い髪の美少女がニコニコしながら俺を見つめていた。

「おう。おはよう紫月しづき。今日も元気そうだな」

「元気だけが私の取り柄だからね!」

 そう言って、紫月は俺に向かってピースをする。


 今の行動からわかるその活発さと、無駄に凹凸のないスラッとした体、そして何よりも、男女分け隔てなく接する人間性が碧海あおみ 紫月しづきの魅力だろう。

 同級生の男子だけでなく、同学年、ましてや学校全体でこっそりとファンクラブができるほどである。


 そんな紫月だが、俺しか知らないもう1つの顔がある。毎回、ドキドキするのだが朝っぱらから思い出してしまうと色々と支障がある為、これ以上はやめておこうと思う。



 すると、突然キョロキョロと俺の周りを見渡す紫月。

 一体何をしてるのかと思っていると

「ところで、みっちゃんは?いつもは一緒に登校してるよね。喧嘩でもした?」

 と聞いてくる。どうやら妹の蜜を探していたようだ。

「いや、そういうんじゃないよ。今日は日直なんだと。喧嘩どころか昨日も蜜と一緒に遊んでたし……」

 少し残念そうに聞いてきた紫月に俺はそう返した。

 すると、あからさまに態度を変え

「なーんだ。てっきりみっちゃんの兄離れが始まったのかと思ったけど、そういうわけじゃなかったか〜。つまんないの〜」

 と、コーーーンと近くにあった小石を蹴っ飛ばした。

 蹴られた小石はマンホールのでっぱりに当たり、大きく跳ね上がったが気にしている場合ではなかった。

 なんで態度を変えたのか、女心に疎い俺には分からないが、不機嫌な紫月は見たくないのだ。


 とはいっても、ヨイショして機嫌とるわけではない。むしろ紫月が一番嫌うものなのだから。

 だから結局は選択肢はほぼ一つしか無かった。

「つまんないって、紫月なぁ……。というか、蜜に兄離れは無理だろ。いつまでも俺にベッタリなんだし」

 普段通りに接するのがいいってことだ。



「なんだ、ただのシスコンか」

 機嫌の悪そうな表情崩さずに紫月が喋る。

「シスコンじゃないからね?事実を言ってるだけだからな?」

「シスコンは皆そう言うんだよ〜」

 紫月はまるで聞く耳を持たない様子だった。

「なんだそれ……」

 どうしていいのか分からず、俺は思わず大きくため息をついてしまった。

 すると

「ふふふ……っ」

 機嫌の悪そうだった表情が再び一変して、徐々に明るくなっていった。まぁつまりは、今のは紫月の悪戯ってことだろう。

 普段は裏表の無い紫月ということもあり、本気だと思ってしまった。

「はぁ……。なんかあったのか?」

 こういうことをしてくるということは、何かストレス発散でもしたかったのだろう。

 そう思った俺はやんわりと本人に聞いてみた。

 とはいえ、“何かあったのか?”と聞かれて返す答えはほぼ決まっており

「何でもないよ〜、ちょっとからかってみたかっただけ〜」

 紫月も例外ではなかった。

「さいですか」

 何でもない、そう言われてしまった為俺はあっさりと引き下がった。

 紫月本人がそう言ってるのであるから、今は追求しない方がいいのだろう。



「……ところで、あの人だかりなんだと思う?」

「……校門で何かあったのかな」

 気づけば、もうまもなく学校というところまで来ていた。

 紫月との会話に夢中で、紫月に指摘されるまで校門に人だかりができていることにすら気づかなかったのではないだろうか。

 そう思いながら、その人だかりに目を凝らしていると、見覚えのある人を見つけた。


 この学校に通っていて知らない人はいない有名人を。


「人だかりの中心にいるの墨谷すみや先輩じゃん!!」

 俺は思わず叫んでしまった。

 すると、俺の声を聞いた紫月が

「墨谷先輩って、あの墨谷すみや 優那ゆな先輩!?」

 墨谷先輩の名前を驚きながら繰り返す。


 ただし、それは芸能人に会えたような驚きとは違う。

 街を歩いていたら指名手配犯に巡り会ってしまった、恐怖心とも似ている感覚の驚きであろう。



 カールの掛かったクセのある長い黒髪の巨乳美少女である、墨谷 優那先輩はこの学校で唯一のオカルト部員であり、そして何かと問題を起こす文字通りの危険人物なのであるのだから。






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