第4話 金髪ツインテールと毒舌!(そしてロリ巨乳)

「あ、桜夜おうややっときた!」


 なんとか学園唯一のオカルト部員である危険人物・墨谷すみや 優那ゆな先輩から開放された俺は、一足先に行った碧海あおみ 紫月しづきの待つ、A棟校舎の三階奥にある自分の教室の前に到着した。

「やっときたじゃないって、俺置いて先に行ったくせに……」

「だから後でいいことしてあげるって言ったじゃない」

 彼女特有の明るい声でそう言うと、悪戯いたずら顔で俺の顔を覗き込む紫月。

 青白くサラサラとした髪と対象的な活発っぷりに俺は毎度気持ちを振り回される。

「そういう問題じゃなくてだな」

「え、いいことして欲しくないの?」

「して欲しいに決まってるが?」

「決まってるんだ……しかも真顔で言うんだ……」

 今回もそうである。

 気軽に“ いいことしてあげる”と誘ってくる。

 今度こそ教えてやらねば、紫月の為にもならないし、何よりも俺の気が持たない。割とマジで。

「いいか、紫月?」

「な、何よ。急に真面目な顔で」


 だから俺は意を決して、真実を伝えることにした。


 妙に紫月が顔を赤らめていたがそんなこと今はどうでもよかった。

 紫月に男の真実を伝えなければならないことと比べたら、妙に紫月の目線が泳いでいることなんて些細なことだった。


 そして俺はいよいよ伝える。

「思春期の男子に“ いいことしてあげる”とか言っちゃあダメだ。いいか?俺だったからよかったものの、他の男子なら間違いなく大変なことになっていたぞ」

「た、大変なこと……?た、例えば……?」

 例えばと言われてしまった。

 俺は悩んだ挙句に、あることを言葉を濁して伝えることにした。

「……まず間違いなくオカズに……っ!!!」

 ……のだったが、途中で邪魔が入った。

 俺と紫月が話しているすぐ横の壁に柄が黄色い刃物が突き刺さっていた。それはまごうごとなきナイフだった。

 その壁に突き刺さったナイフを見た紫月は

「えっ、ナイフ?なんで?てかどこから!?」あまりにも突然の事で驚きを隠せない様子。

 すると、俺が歩いてきた方向とは逆方向から、金髪の女の子が現れたのだった。胸は大きく、しかし身長は低めのツインテール美少女が。


「紫月先輩に何吹き込もうとしてるんですか?これだから童貞は……」

 いきなり現れた金髪ツインテールなロリ巨乳美少女は、壁に突き刺さったナイフを回収しながらさらっと俺を“ 童貞”と吐き捨てる。

「やっぱり、ひなたちゃんだったか……。てかナイフはほんと危ないからやめて!?」

 朝からエキサイティング過ぎるだろ。

 なんでだよ、なんで学校来るだけで2回も命の危険を感じないといけないんだよ!


 そんな俺が心の中で嘆いている横で

「あ、ひなちゃん。おはよう今日も可愛いね〜」

 何事もなかったかのように振る舞う紫月。

 さすがに心強くはありませんかねぇ?ほんとにさっき墨谷先輩が怖くて逃げた人ですか!?

「おはようございます、紫月先輩。今日も爽やかでとても心が癒されます。いつまでもそのままでいてください」

「う、うん。ありがとう」

 だが流石の紫月でも、信仰神のように扱われるのはやはり苦手らしく少々苦笑いしていた。


 そんな、滅多に人に苦手意識を感じないであろう紫月でさえも苦笑いさせるこの金髪ツインテールロリ巨乳美少女は、俺と紫月の一つ下の高校1年であり、名前は檸檬レモン ひなた

 自称『 女神・紫月様親衛隊一番隊隊長』らしい。とにかく紫月LOVEであり、紫月に変なことしよう物なら先程のように普段から彼女が隠し持っている黄色い柄のナイフの餌食になる。

 ちなみに俺の妹・みつとクラスメイトであり、今の顧問に強制的に入らされた文芸部の後輩でもある。

 あとは何故か俺にだけ毒を吐く。理由は不明。


 そんな紫月一筋数ヶ月のひなたが俺に向けて口を開く。

「それで、桜夜先輩はこの純真無垢な紫月先輩に何を吹き込もうとしたのですか?」

 どうやら紫月の事をホントの女神のように心酔しているらしく、性知識すら知らないと信じ込んでいるのだ。

 その為、

「いや、俺は良心で紫月に一般的な男子の思考を説明しようとしただけであって、決して陽ちゃんが考えるようなことは!!」

 俺には他意があった訳では無い、と伝えたものの

「はぁ、そうですか」

 俺の事を敵とみなした陽ちゃんは、話を聞く耳すら持っていなかった。


 あれ?陽ちゃんから聞いてきたんじゃなかったっけ?

 まぁいいや、それよりも俺にはもう1つ訂正するものがあるのだから。


「それと、俺を童貞と決めつけるのはどうかと思うぞ?違ったらどうするんだ!」

 そう言って俺は声高らかにひなたちゃんに抗議した。

「え?違うんですか?」

 陽ちゃんがその反応するのは予想していた。用意していた答えである

『 審議を確認していないのに疑うのはどうかと思うぞ!』

 という言葉をそのまま陽ちゃんにぶつけようとしたその時だった。

「そうなの、桜夜おうや?」

 予想外の紫月からの反応である。


 やめてくれ、そんな探究心丸出しの目で俺の事を見つめないでくれ。

「うっ、いやぁ、あのぉ……そのぉ……」

 思わず吃る俺。

「「どうなの(どうなんですか)?」」

 ずいっと詰め寄る2人。

 タイプは違えど2人とも美少女であり、思春期真っ只中の俺にはとても耐えられるものではなかった。


 なので俺は

「そんなことよりもさ、陽ちゃん何か用があってこっち来たんじゃないの?」

 どうにかしては話題を切り替えることを試みた。

 当然そんな考えは陽ちゃんや紫月にはバレバレで

「あ、誤魔化した」

「誤魔化したわね」

 と言われる始末。

「それはもういいから!俺が悪かったから!ごめんて!!!」

 お願いだからこれ以上追求しないでくれぇぇぇ!!



 そんな俺の心からの叫びが届いたのか

「はいはい、分かりましたよ。仕方ないですねぇ」

「ふぅ……助かったぁ……」

 陽ちゃんはこれ以上の追求はやめてくれるようだった。

 本気で助かった……。


 それから陽ちゃんは俺ら2年の教室に来た理由を話し始めた。

「えーっとですね。桜夜先輩が例の墨谷先輩の生贄いけにえになったって噂を聞いて、からかいに」

「あー、うん。生贄になってないからね?てかせめてそこは心配になってとか言って欲しかったわ」

 やはりこの子は俺には厳しい。というかせめて、もうちょっとオブラートに包んで欲しいものだ。

 俺だって傷つく時は傷つくのだから。


 けれど、そんな思いは陽ちゃんに届くはずもなく

「私がそんなこと先輩如きに言うとでも?」

「ですよねぇ……。うん、知ってた」

 もはや先輩ってなんだっけ、と疑問になるくらいである。


 というか今更だが、生贄って言うのは本気でやめて欲しい。勘違いする人がいるから。

「えっ、桜夜ってば墨谷先輩の生贄になっちゃったの!?」

 ほらね?こういう純粋な紫月みたいな子が引っかかるんだから。

「なってないって言ったよね?話聞いてた?」

 俺は再度改めて紫月に生贄にはなってない云々の説明をした。

「なんだ、良かったぁ……」

 顔を綻ばせ胸を撫で下ろす紫月。

 どこかホッとする様子の紫月の様子を見た俺は

「そんなに居なくなって欲しくなかったのか……?」

 と、ポツリと言葉を零していた。


 何を言っているのだろうか俺は。

 紫月が言っていた“いいこと”に期待でもして浮かれているのだろうか。


 俺は心の中の俺を殴りたくなった。

 紫月と俺はそんな関係にはなるはずないのに。無いと信頼してるからこそ定期的に“アレ”を俺に頼むのだから。


 そんな俺が葛藤していることを知らない紫月はと言うと

「だって桜夜がいなくなったら、誰から宿題写してもらえばいいの?」

 と、なんとも心がほっこりするような事を言っていた。

「そういうことかよ。てか割と俺以外からも宿題写させてもらってるよな!?」

「てへぺろ」

「そうやって可愛い仕草して誤魔化そうとしても、騙されないからな!?」

 結局俺は紫月のペースに翻弄されていた。

 その様子を黙って見ていた陽ちゃんが、ようやく口を開いた。だからとて、言うことはいつもと変わらず

「諦めて認めちゃったらどうですか?所詮、桜夜先輩は尊き紫月先輩と比べたらありんこ以下だということを!」

 毒っ気しか無かった。いや、もはや毒しかないんじゃなかろうかこの子は。

「そこまでは言われてねぇ!てかそんなこと紫月は一言も言ってねぇ!」

「それは桜夜先輩が理解してないだけじゃないですか?本読むといいですよ。おすすめの本貸してあげましょうか?」

「どうせ、『 サルでもわかる〜』シリーズだろ!?分かってんだよ!」



 こんな風に俺と陽ちゃんがいつものようにくだらないやり取りをしていると

「……でも本当に良かった、桜夜にしか頼めないこと沢山あるし……」

 ポツリと紫月が何かを言っていた気がした。

「ん?なんか言ったか?」

 俺は陽ちゃんとの口喧嘩(?)を中止し、紫月の方へと駆け寄った。

 と言っても、たったの数歩だったが。


 すると、紫月はどこかもの寂しげな表情をしながら首を振る。そして

「んーん、何も言ってないよ。それよりもひなちゃん、そろそろチャイムなるから自分の教室戻ったら?校舎渡るんだから、早めに戻らないと」

 陽ちゃんに一年の教室に戻るよう促す。


 俺たち二年の教室がA棟校舎の三階なのに対し、陽ちゃん一年の教室はB棟校舎の二階なのだ。

 つまり有り体に言ってしまえば、本来移動するのが超面倒臭いのである。


 だから滅多に一年の教室から二年の教室に来る生徒なんていないのだが……。

「あぁ、そうですね。ではまたお昼休みにでも!」

 稀に、陽ちゃんのような頻繁に往復する生徒もいるのだそう。



「というか、お昼にも来るのね、陽ちゃん」

 俺がそう呟くと、間もなくしてホームルーム開始のチャイムが鳴り響いた。



 果たして陽ちゃんは担任教師が来る前に教室に着いたのだろうか。

 自分の担任教師が教室に到着するまで、そればかり気にしていた。





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