第5話 翌日の渡辺さん

翌日。

 今日は少し化粧していこう。渡辺さんは、何かを意図して、半分だけメイクする。

 学校の休み時間は、相変わらず廊下がにぎわっている。

ガラガラッと、渡部くんは、A組の後ろのドアを開けた。

「昨日、陰口叩いたのどいつやねん。」

 静まる教室。

「そこの人垣どかせや。ええから。ここにおる。」

 予想通り、と、笑顔でややおっとりと上品なしゃべり方をする渡辺さん。

「チッ、なんでもないわ。」

 半々の化粧をネタに話ごっこをしていた渡辺さんは見事、渡部くんを粉砕した。アカンベーをして、背中を見送る。

 隣のB組では、ちょっと怖がられる存在になったらしい、渡部くんだった。

「最近、どうしたの、わたなべさん。」

「みんなのためだと思うんだ。化けの皮をはがないと、更生させるのは難しいのよ。」

「淋しいんじゃないの、転校してきてるんだし。」

「みんながあいつのことちやほやする時期は過ぎてるでしょ。何の努力もなく、座っていい場所じゃないのよ。」

 あとは、テストで差をつけるか、渡辺さんは復習を開始した。念入りに、これとないという勢いで。「渡辺席」を、あいつに汚せてなるものですか。

テストの次は、文化祭、そして、夏休み。あの山本なら、次の学期で忘れるでしょうから、そこは許してあげないとね。


テスト、当日になって、渡辺さんは、かなり知的に見えた。

「今回、かなり気合入ってるね。」

「知性がまぶしいです。」

 廊下から、A組を覗く渡部であったが、人垣の中の彼女を見ると、舌打ちをして戻っていった。

「どういう性格なんだよ、あいつは。大声出して笑わせるのが筋ってもんじゃねぇのかよ。」

テストの結果は、全科目1位を成し遂げた、渡辺さん。「残念だけど、B組のレインボーさんに悪かったかしら。」と、内心思っていた。周りの反応も、

「頑張ったね。」

 と、委員長。ゆっこも、

「進学する気満々だね。」

「進学するかどうかは、まだ、決められないよぉ。ちょっと、腕試し的な?」

「すごーい。」

「謙虚~。」

「かっこいいよ、ほんとに。」

「あ。」

 廊下から、渡部くんが声を出していた。

「誰だか知らんけど、学年1位おめでとさん。こっちの教室まで響いたわ。」

「あ。」

「彼はきっと、赤点よ。」

 その通りだったのは、授業の終了間近に爆笑が生まれたことが示していた。

「狙って、とったとは思うまい。」

 渡部くん、何か目的があったの?つくづく残念ね。渡辺さんは、小声で笑った。

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