第6話 夏休み明けの渡辺さんと渡部くん

 そして、夏休みが明けると、何事もなく、頭がレインボーになった渡部くん以外、すべて元のペースに戻った。あっという間に時は過ぎ、秋が訪れ紅葉したら、もう冬だ。雪は深々と降って消える。


 4月、雪解けを待って、始業式が始まる。クラス替えだ。

いち早く駆けつけたのはゆっこだった。

「まだ、上靴も履いてないのに何よ、ゆっこ。」

「私たち、また一緒だよ。」

委員長の声も聞こえる。

「じゃあ、はやく教室に入ろうよ。」

 渡辺さんは、いつものメンバーに囲まれて、教室に入り、「渡辺席」へと陣取る。

「へ~、駅前のドーナツ屋さん、移転したんだ。ちょっと、残念。」

「帰りどうする~?」

「コンビニがあるじゃん。」

「ああ、あるある。」

「で、帰りどこに集まろっか。」

「う~ん。」

「あそこじゃダメかな~。」

「どこ?」

「街に入るんだけど・・・。」

 と、そこにドスンと鞄を机に上げる者が。

「あの、席、間違えてますよ。」

「え?」

 と、意外そうな顔を突き合わせる3人。

「あの、わたべってしりません?」

「知りませんね。渡辺さんなら、ここにいますけど。」

「B組の渡部ですけど。」

「渡辺ですけど。」

「まさか、ワタブと思った? そんなわけないじゃん。おっかしな人だなぁ~。」

「思ってませんけど。なぜ、大声でしゃべるんですか?」

 渡辺くんが大きな声で言う。

「ここは「渡部席」なんです。小学校1年の頃から。」

「いやな席ですね。」

「大声で、みんな笑わすのが、渡部の務め。とはいえ、あなたのような美人の前ではそんなことやめますけど。」

「キモっ」

「何、あんた、初対面?」

 渡辺さんの事を覚えていないのは、姿かたちからだったので、少しショックを受ける。

「あ、どこかで、会ってましたっけ?まずいな、初対面の挨拶しちゃった。」

「なんでよ。」

「第一印象が大事だって、お母さんにいつも言われてたから・・・。」

「それで、窓際隅は、渡部のものだと。」

「渡辺に勝ってるって聞いたし。」

「負けてないわよ。」

「言い返されると、自分でもわからなくなるんですけどね。」

 そこに、担任の教師が入ってきた。

「せんせー、この子、席、分からないって言ってます~。」

「いや、渡辺、お前、渡部より、前やで。」

「へ?」

「「な」と、「べ」な。」

「「な」と「べ」。「な」と「べ」ですか。ややこしいです。」

「男女平等50音順や。納得したら、渡辺、席ついて。他のふたりも。」

「はーい。」

 渡辺さんは納得がいっていなかった。「渡辺席ロス」らしい。

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