第7話

 数か月後、彼女の推しはグループからの卒業と、自身のアパレルブランドを立ち上げることを発表した。卒業後は、アパレルの仕事に専念し、芸能活動からは離れるという。

 俳優になるとかならともかく、事務所も辞めてしまうということで、彼女のショックはより大きいものになるのではないかと予想した。

 しかし、意外にも彼女はケロッとしていた。二人で彼の最後の舞台となるコンサートに行くこともできたが、その時も彼女は最後まで明るかった。

「なんか、意外とすんなり気持ちが落ち着いたよ。きみが心の準備をさせてくれたからかな」

 コンサートからの帰り道、彼女の言葉に、わたしの心は軽くなった。

「わたしの能力が、初めて役に立ちました」

「本当に? 今まで、なんの役にも立たなかったのか?」

「はい」

「役に立つさ」

 思えば、彼女は一度もわたしに自分の未来を見てくれと言ってきたことがない。超能力会を抜けたのは、そう言ってくる人が多すぎたのも理由のひとつだった。今回見えたのは、無意識だったから、近々の未来だった。見ようとすれば、もっと先の未来を見ることもできる。しかしそれを望んだことのない彼女から出た言葉としては、意外だ。

「そうですかね」

「これから起こることの心構えにはなるだろ。でも、やっぱりわたしは自分の未来は知りたくないかな」

 彼女がこういう人だから、わたしたちは友達になれたのだ。わたしの能力を受け入れて認めたうえで、必要としない人。

 彼女のほかにも、そういう人はいるんだろうか。ほかにもそういう人と出会えるだろうか。

 別に出会っても出会わなくても構わない。わたしにはすでに彼女がいるから。

「手を触らなくてもわかることはありますよ。わたしたちはずっと友達です」

 嬉しくて調子に乗ったわたしに彼女は照れたような笑みを見せ、なにも言わなかった。

 心の中のイメージでだけ、わたしは彼女と手をつなぎ、星空の下の未知への道を軽いノリで歩いた。

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推し活の終わり 諸根いつみ @morone77

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