第4話 すねこすりの相談

「久しぶりじゃないかァ、そんなとこに突っ立てないでこっちに来なよォ。」


「やぁ、ママ久しぶり!あなたの癒しのマスコットキャラが来ましたよ〜」

カウンターの席に腰を下ろすと、茶目っ気たっぷりに云った。


「あんたを顔を見ると昔飼っていた犬っころを思い出すよォ。いつもので良いのかい?」


「やだなぁ、あんな雑種と一緒にしないでよ!いいや、今日は飲んじゃうよ。この店で一番度数の高いアルコールをちょうだいよ」


「珍しいこともあるもんだねェ。亀ちゃん、一番度数の高いの用意してよォ」


「はい!ただいま持って来ます」

そう云うと、せわしなく店の奥に消えていった。


「可愛らしい子じゃない。あの子が噂の妖怪法に詳しい新人なの?」

亀姫の後ろ姿を見送ると、物珍しそうに云った。


「そうだよォ、見た目は童女だけど知識は相当なものさァ。あっ、いらっしゃいよォ」


その視線の先には、いつもの陰気くさい表情の貧乏神が立っていた。


「ふふっ、久しぶりだねママ」


「貧ちゃーん!こっちこっち」

まるで助けを呼ぶように両手を振り回しながら云った。


「ふふっ、どうしたんだい急に呼び出すなんて」


「それがさぁ、ちょっち面倒なことになっちゃって!貧ちゃんにも相談したくてさ」


「ふふっ、悪い予感しかしないな」

貧乏神がカウンターに座ると、ちょうど店の奥から亀姫が出てくるのが見えた。手にはなみなみとつがれた液体が入ったグラスを持っている。


「あっ、いらっしゃいませ」

グラスの液体をこぼさないように慎重に、その名通り亀のようにゆっくり歩いてくる。


「やだよォ、日本酒じゃあるまいし。そんな目一杯つぐものじゃないよォ」


「す、すいません。まだ慣れてなくて」

慎重にグラスをカウンターに置きながら云った。


「まぁまぁ、サービス精神が旺盛で結構じゃない。こういう子スッチーは好きよ!」

そう云い終え、すねこすりがグラスに口をつけた瞬間、、、


「ぶーーーっ!!なんじゃこりゃあ!!口がぁ、口がぁ!」

勢いよく液体を吹き出すと、絶叫と共にカウンターの上にキレイな虹ができた。


「あ、あの一番度数の高いアルコールで、これをお持ちしたんですけど、、」

あわてて店の奥から一本のボトルを持ってくると、飛縁魔の前に突き出した。


「どれどれ、見せてご覧よォ。おやまぁ、これは消毒用アルコールだねェ。たしかにうちで一番の度数だねェ」

まじまじとラベルを見ながら云った。


「前言撤回!これは危険水域の天然娘だよ!はいっ、ただいま傷害事件が発生しました。烏天狗のお巡りさ〜ん、ここに犯人がいますよー!シリアルキラーですよー!」


「あ、あの妖怪法では傷害事件は対人間にのみ対応するもので、妖怪においては生命の危機に及ばない場合は罪にならないとなってます。それにシリアルキラーって、私は連続殺人犯じゃないですから!」

申し訳なさそうな顔とは裏腹に、きっぱりと云った。


「出た出た、法律に触れないと罪に問えないっていつの時代だよ。時代はいつも変革を求めているんだよ!実態にそえない法律なんてクソくらえだ!!事件はなぁ、現場で起きているんだよ!」


すねこすりの舌鋒は止まらずに続けて、、


「それにだ!天然娘がつうじるのは二十代半ばまでだからな!それ以降はただの常識のない女ってレッテルがもれなく貼られるから。そういう客観的に自分をみれないやつに限って、マッチングアプリのマッチング条件が厳しいんだよ!高年収、高学歴、高身長!ってバブル全盛期の価値観だからね。なんでイルカと一緒に泳いでいるプロフィール写真のアップ率が高いんだよ!!」


一気にまくし立てるとカウンターにつっぷし、うぅ〜とうめき声を出した。


「いやだよォ、もう酔っ払っちまったよォ。いつもホットミルクしか飲まない生粋の下戸なのにねェ。亀ちゃんお水持ってきておくれよォ」



-10分後-


「なんかぁ、心の闇の扉が開いたというか。第二の人格がアルコールの力によって形成されたとうか、、、暴言吐いてほんとすいませんでした!」

小さい身体をさらに小さくして頭を下げると、ほとんど球体のようになりながら亀姫に云った。


「いえ、私の方こそ変なもの飲ませてしまってすいませんでした。あの先程いっていた面倒なことって聞いても大丈夫ですか?私でよければ力になります」


「う〜ん、それがある偶然が重なってしまい痴漢冤罪者をだしてしまって、、本来〝すねこすり〟はそっと人のすねをこするだけなんだけど、オレの場合はもう少し上というか」


「はぁ、もう少し上ですか」

不思議そうに訊ねると、


「そう上、絶対領域的な部分っていうのかな。その〜、ふともも」


「えっ、ふともも???すねじゃなく?」


「いやだな〜ちゃんと聞いてよ!ふ、と、も、も。本日ふとももをこすったところ、偶然その女の子の後ろにいた男が痴漢で捕まったってわけよ!」


「えっ、えーーーーーー!!!」

本日二度目の絶叫が店内にこだました。

それはもう〝すねこすり〟ではなく〝ふとももこすり〟じゃんという思いと共に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぽむぽむ妖怪奇譚 〜妖怪すねこすり痴漢冤罪者を救う〜 また市21 @tofukozou21

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ