馴染みのない国のホラー映画も観てみよう!〜『ザ・マミー』〜
また夏がやってきたな。ホラー講座を改めて開講しよう。まあ、関係ないか。ここにいる限りは永遠に夏休みなんだから……。
さて、ホラー映画というとどこの国を連想するだろうか。ゾンビやジェイソンにフレディと数々の有名作を出しているアメリカ? 独特の幽霊の描き方が他国の作品にも影響を与えている日本?
ひとによって印象は違うだろうか。今回は多くのひとがあまり馴染みのないメキシコのホラー映画を紹介したいと思う。
メキシコならではの世界観が上手く作用した良質なホラー映画だぞ。
〜ザ・マミー〜
2019年のメキシコ映画だ。
数々の映画祭で特に観客からの支持が多い作品への賞を多数受賞し、『IT』のスティーブン・キングや『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロからも支持されているぞ。
まず、映画紹介の前に前提知識だ。
メキシコでは2006年の麻薬戦争で多くの死者を出して以来、未だに荒廃が続き、台頭したギャングによる人身売買のための誘拐や殺人、行き場をなくした子どもたちがストリートチルドレンと化し、戦争の際廃墟になった建物に住み着くなど様々な問題が起こっている。
この映画も冒頭、主人公の少女が授業を受けている最中学校のすぐそばで銃撃戦が起こるところから始まる。
教師から与えられた単語で御伽噺を作る授業が一変して混乱に変わり、机の下で怯える少女に教師は「御伽噺の願いが三つ叶う魔法のチョークよ」と手渡して彼女を励ます。
銃撃戦が終わり、少女は家に帰るが母親がいない。ギャングに誘拐されたようだ。
親を失った彼女はギャングから銃を奪った少年たちに混じってストリートチルドレンになっていく。
そして、辛い現実から逃げるように教師からもらったチョークに母親が帰ってくるよう願った日から、死者の声を聞く、どこからか流れてきた血が彼女を追うなど、様々な怪奇現象が起こっていく……。
これが映画の概要だ。
あらすじからわかる通り、幽霊などホラー的な要素がなくても危険と隣り合わせのハードな世界観の映話だな。
子どもたちを主人公にしたホラー映画は『学校の怪談』など多々あるが、どれも普段死の危険を味わうことのない子どもたちが非日常的な怪異に襲われるというのが前提の作品だ。
しかし、作中の子どもたちは死が現実として身近な世界に生きている。
だからこそ、死んだら終わりの救いのない現実にあるはずのない、霊魂や怪異などが御伽噺のように作用する不思議なホラーとして成り立っているんだ。
この映画はグロテスクなシーンやわかりやすく化け物が襲ってくるシーンはほぼない。
むしろ銃と携帯電話を奪ったストリートチルドレンのリーダーの少年を追う悪質なギャングの方がよほど危険として描かれている。
また、少年が命を狙われても携帯電話を手放さない理由が「母親を誘拐したギャングが取引のために撮った写真が唯一の遺影だから」だったりと、厳しい世界で逞しく生きる子どもの年相応に幼い部分も垣間見え、ドラマ部分でもしっかりと情緒がある作品だ。
『ボーダーライン』など、南米の現状を描いたシリアスな映画が好きなひとにもハマるかもしれないな。
常に現実を突きつけられ、死を意識しながら生きなければいけない子どもたちに訪れる死者たちの魂の描き方は、とても寓話的で切ないながらも美しい。
派手さはないが、夢見ることもできない子どもたちが厳しい世界にホラーという手法で一種の御伽噺を与える、メキシコならではの珍しいホラーだ。
たまに無料配信期間もあるから気になったときにはチェックしてみてほしい。
より楽しい夏が、終わらない夏にならないよう、しっかり理解を深めてくれ。
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