受講者からのリクエスト映画紹介!〜『怪怪怪怪物!』〜

 禍原かはらだ。



 第九回目の講座だな。

 今回紹介する映画の監督は元web小説作家らしい。

 学生時代妙な本ばかり読んでいる同級生がいたが、アイツなら知っているかな……関係ない話か。



 では、前回に引き続き、リクエストのあったホラー映画を紹介しよう。



 〜怪怪怪怪物!〜



 毎年行われる台湾巨匠傑作選で、今年2020年に上映がかかった作品だな。

 企画のタイトルからわかる通り台湾の映画だ。


 監督はギデンズ・コー。

 前作の青春映画『あの頃、君を追いかけた』でデビューし、今作は長編二本目だ。

『アメリカン・スリープオーバー』の監督の『イット・フォローズ』といい、『君の名前で僕を呼んで』の監督の『サスペリア』リメイクといい、青春ものを撮る監督はホラーも上手いのは何故だろうな。



 物語は台湾のとある町を舞台に展開する。

 少々治安は悪いが何の変哲もないはずの町には、夜な夜な食人を行う姉妹の怪物が潜んでいた。


 真面目な優等生で不良集団から目をつけられてしまった主人公の男子高校生は、クラスの集金を盗んだ濡れ衣を着せられ、不良たちと老人ホーム慰問のボランティアに参加する羽目になる。



 不良集団と仲間に組み込まれた主人公たちは、老人の家に強盗に入ったとき、そこに巣食っていた怪物姉妹に遭遇し、妹の方の怪物を捕獲する。


 最初は怪物を持て余す彼らだが、徐々に人間ではないから何をしてもいいと実験と称した数々の非道を行うようになり、行為は次第にエスカレートしていく。

 同時に、街へ降りてきた姉の怪物は、妹を奪った者たちを探して、彼らの高校を狙った惨劇を次々と起こしていく。



 あらすじだけだと陰惨に聞こえるだろう。

 実際に、校内暴力やいじめに大量殺戮、倫理的に是非を問われそうなハードな場面はたくさんある。

 しかし、本編に観てみると意外と悲壮感がない。



 学園ものを撮った監督らしい、疾走感のある早回しの映像と、学園ものらしいロックなBGMで、悲惨なストーリーをそう見せないのが魅力だ。

 冒頭の食人シーンに前作の主題歌が使われていたりもするぞ。


 スタイリッシュな映像と音楽で薄汚い老人ホームを荒らしたり、怪物を虐待するシーンすら青春のひと幕のような爽快な場面に見えてしまうのがこの作品の特徴だ。


 それは同時に、いじめられていた者がいじめる側に回った途端、苦しかったはずの加害が楽しいおふざけに変わってしまう、子どもたちの残酷な瞬間を表すようでもある。


 実際、主人公は不良たちとは違うとなん度も繰り返しながら、彼らに混じっているときは同じ表情で笑っている。



 この映画に真っ当な人間は大人も子どももほぼ出て来ない。

 頼れる教師も親もなく、いじめっ子との上下関係の中に友情を期待して、弱者がさらに弱者を叩く。

 学園生活の光を描いた監督だからか、そういう闇の部分のリアルさも生々しい。



 光と闇は表裏だ。


 非行少年にも家庭環境などそうなった理由がある。

 虐待される怪物も生きるためとはいえ、同情できないほど人間を殺している。

 主人公もいつかは助けると言い訳しつつ、保身のために怪物を身代わりにする。


 弱い者を食い物にする人間の方がよほど怪物だという、安易な善悪二元論で済ませないところが魅力だな。



 そういった清濁併せ呑むには若すぎた少年少女の物語だ。

 大人と子どもの狭間の怪物のような可塑性を持った少年たちと、その揺らぎで起こしたことにもしっかりとのしかかる責任が描かれている。

 スプラッタとしての演出もしっかりと見所があり、青春映画としても珠玉のホラーだぞ。


 地獄に向けて一気に駆け抜ける、悲惨なのに爽快な作品といったところか。


 そういう少年期の明暗を描いたホラーには名作が多々ある。また時期を見て紹介しよう。



 次回は最近日本で公開され一部で話題になった、本国オーストリアで一週間上映後ただちに上映中止された幻の問題作を紹介しようと思う。



 より楽しい夏が、終わらない夏にならないよう、しっかり理解を深めてくれ。

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