第51話 同窓会 【最終話】

商店街はクリスマス一色で、ジングルベルが繰り返し流れていた。

子供の時から馴染みのある商店街を、賢人と手を繋いで歩いている。

そしてそのまま同窓会開場である居酒屋に突入。ここは小学校同級生の実家で、二階の宴会場に皆集まっていた。


「キャー! 賢人君久しぶり!!」


女子がワラワラと回りに集まってくる。まさに女子ホイホイ。いや、ダイ○ン並みの吸引力?

女子の参加の方が多いのは賢人効果だろう。

みんな一斉に喋りだすから、誰が何を言っているのか全くもってわからない。


「賢人君、○○高校だったよね」

「ああ」

「実はさ、あたしの従姉妹がそこ出身で……」

「ちょっとあんたら抜け駆け禁止! 」


ハイハイハイと手で制しながら現れたのは、「いかにも盛りました」とばかりにゴテゴテ化粧をした……美鈴と紗英だと思う。あまりに原形がないから、一瞬誰かわからなかった。

彼女らは学年女子のリーダー的存在で、どうも今でもその上下関係は存続しているらしく、他の女子達が一歩下がる。つまり、この二人が弥生をイジメていた主犯で、他の女子はそれに追従していた形だった。


騒がしかった賢人の回りが静かになり、賢人と弥生、その目の前に美鈴と紗英、回りを女子が囲む形になった。

弥生は無になるべくなるべく自分の存在を消そうとしたが、美鈴と紗英が弥生を見逃してくれる筈なかった。


「何、どういうこと? 」


賢人と弥生が手を繋いでいることに目敏く気がついた美鈴が目を吊り上げる。


「あんた、家が賢人君の隣だからって、調子のってない?! 」

「そうよ! 賢人君は皆の賢人君なんだからね」

「そうそう! 賢人君と同じ大学に行けたからって、仲良しアピール? バッカじゃないの? 賢人君と関係もてるのは、ナイスバディのイケてる女だけよ」


その発言がイケてないと気が付かないのだろうか?

妙に露出の多い服を着ていると思っていたけど、なるほど賢人をお持ち帰りしようという魂胆からか。凄く寒そうだけれど。


二人は弥生の格好を見て鼻を鳴らす。


安定の眼鏡に素っぴん、紺色の膝下丈のワンピースに黒のタイツ。肌の露出なんて手と顔くらいしかない。Aラインのフォルムだから、身体のラインもわからない。二人は、そんな弥生の格好を見て小馬鹿にしたよう見下ろしているが、弥生を攻撃することに夢中で、隣の賢人のブリザードばりの冷笑には気付いていなかった。


「あんたら誰? 」


エッ? 記憶喪失?! 的な唖然をする美鈴と紗英に、賢人は口元だけの笑みを深くする。


「弥生、知ってる? 」

「美鈴ちゃんと紗英ちゃんですよ」

「美鈴? 紗英? わかんねぇな。俺にとって女って、弥生かそうじゃないかくらいの違いしかねぇから」

「ちょっと、賢人君?! 」


賢人が繋いでいた弥生の左手を持ち上げると、弥生の指輪にチュッとキスを落とした。


「ああ、そうそう。こいつ、俺の婚約者ね。来年の成人式には夫婦で出席する予定だから」

「「「エエッ?! 」」」


美鈴と紗英だけじゃなく、弥生までも驚きの声を上げた。それを見て、賢人のブリザードが色濃くなる。


「しゃーないじゃん、弥生、結婚しないとヤらせてくんねーって言うし。あ、そうだ! 担任と副担きてるよな。これにサイン貰おう」


賢人は、美鈴達をかきわけて、弥生の手を握ったまま上座にいる先生達のテーブルを突撃した。

女子達もぞろぞろ後についてくる。


「先生、これにサインと判子よろしく」


賢人がコートの胸ポケットから出したのは……婚姻届け。

すでに夫の欄はばっちり埋まっているし、妻の欄は名前を書けばよいだけまで埋まっていた。生年月日、住所に本籍……全て弥生のものである。


「婚姻届け? ここで書くのか?」

「そ。親はもう承諾してっから。ほら、ボールペン」


言われるままにサインをする担任と副担。判子……何故に持ってるの?


「ほら、おまえも名前を書いて」


先生達の目の前に座らされ、皆の注目を浴びている。

ボールペンを握らされ、後ろから抱き込むようにして賢人が弥生の右手の上に右手を重ねた。


「渡辺弥生……と。はい、判子」


ボールペンを持っているのは私だけど、手を動かしたのは賢人君だよね?!


婚姻届けは全ての欄が埋まった状態で、賢人の胸ポケットにしまわれた。


「皆が証人な! じゃ、これから提出に行ってくっから。ほら弥生、コート着て」


弥生は居酒屋に入った時点でコートを脱いでいたが、賢人は着たままだった。最初から先生達にサインを貰ったら帰るつもりだったようだ。

あれよあれよという間に居酒屋を後にし、目の前にいたタクシーに乗り込み、五分もしないうちに役所に到着。時間外受付に書類を提出し、弥生が気がついた時には役所のおじさんに「おめでとうございます」と言われていた。


結婚って、こんなにスピーディーにするもの?

あれ? あれ?


待っててもらっていたタクシーに乗り込み帰宅するかと思いきや、タクシーが止まったのはきらびやかなホテルのエントランスだった。


「結婚初夜、よろしくな、奥さん」



END



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちょっと無理です! 勘弁願います 由友ひろ @hta228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ