第50話 婚約者になりました

 婚約……してしまった。


 好きだと意識してまだ数ヶ月、かするくらいのキスはしたものの、まだ恋人としても初心者マークバリバリで、何をすればいいのかもよくわかっていないというのに、結婚を前提としたお付き合いって、余計にどうすればいいのかわからない。

 第一、まだ学生だし、成人してすらいないんですよ。


「賢人君ならいいよ」「弥生ちゃんなら願ったりよ」って、両親ズ軽すぎませんか?!

「どうせなら同棲しちゃえば?」「いいわね、下宿費が安くなるんじゃない? 」って、異性が一つ屋根の下に住んで、もし万が一間違いが起きたらどうしてくれるんですか? 責任とって……くれちゃうんですね。婚約ですものね。


 なんか、お正月が過ぎたら、同棲する部屋を探しましょうみたいな流れが出来上がり、弥生そっちのけで賢人と両親ズでスマホで検索してたし。

 このままでは、「学生結婚もありよ」とか言ってなし崩しに婚姻証明書に判子を押させられそうです。


 両親ズの勢いについていけない弥生は、疲れたから戻ります……と、早々に自分の家に引き上げてきた。今はベッドにうつ伏せに寝っ転がっている。


「飯、持ってきたぞ」


 いきなり耳元で囁かれ、弥生はガバリと起き上がった。


「な……な……何でいるんですか?! 」


 ドアは閉めていなかったけれど、足音とかしなかったからかなりびっくりした。


「飯、ほとんど食ってないだろ。うちん親が持ってけって。ほら、ピザ。ポテコーンマヨ好きだろ」

「好き……ですけど」


 弥生がピザを受けとると、賢人は帰るでもなく弥生の部屋に居座った。


「部屋、決まったぞ」

「はい?! 」

「同棲する部屋。1DKだけど、今より広い感じ。今1Kだから、まぁまぁいいよな」


 弥生のいない間に、ポチッと仮予約をしてしまったらしい。内見もしていないのに。


「1DK……」


 何故2DKもしくは2Kじゃないんでしょうか?

 部屋は二部屋必要ですよね。


「噛めよ。食えよ」


 思わずピザにかぶりついたまま放心していた弥生に、賢人は食べることを思い出させる。


 そうだ、まず食べなくては。話はそれからです。


 急いでピザを一切れ食べきると、お皿を床に置いて賢人の方に向き直る。


「賢人君! 」

「何だよ」

「こ……婚約……」


 賢人は「あぁ」と弥生の左手をとると、チュッと唇を寄せた。そのまま上目遣いに微笑まれ、弥生の顔と言わず身体までボンッと真っ赤に染め上がる。その反応を見て、賢人は満足気に口角をさらに上げる。


「俺と婚約するの嫌か? 」

「嫌とかそういうのじゃなくですね、展開が早すぎると言いますか……」

「嫌か、嫌じゃないか」

「嫌……じゃない……です」


 蚊の鳴くような声で答える弥生はいっぱいいっぱいだ。


「なら、早いも遅いもないな。俺は昔からおまえが好きだった。今も好きだ。これからも変わらない」


 賢人の両手が弥生の頬を包み、ゆっくりと賢人の顔が近付いてくる。フニッとした感触と、少し高めの体温が唇から伝わってきた。


 弥生は目を見開き、0距離の賢人の顔を見つめた。この距離でも賢人の顔は完璧だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る