第12話 下着姿なんか見せられません

「どうぞ」


 HPがほぼ0に削られた弥生は、地面に散らばった下着類をリュックに詰め込むと、すでにリビングでくつろいでいる賢人の為に、ご所望のコーヒーをいれてやってきた。ついでに、自分用にはミルク増し増しのカフェオレをいれた。


「ああ……。本当に山下と買い物だったんだな」

「そう言ったよ」

「ライン、見たか? 」

「ライン? 」


 弥生はゴソゴソとリュックをあさる。スマホはバイト前から見ていない。友達の少ない弥生にスマホをチェックする習慣はなかったからだ。

 ラインを開くと、弥生は小さく「ゲッ! 」とつぶやいた。


「暇だったの? 」


 賢人からのラインが十三件入っていた。特にバイト終わってからは頻繁だ。


「暇な訳あるか」

「ですよね……」


 賢人は女友達はもちろん(最近はハーレムを解散したらしいが)、弥生と違い同性の友達も多い。

 こんな俺様が?! と思うが、きつい口調も、自分勝手な行動も、男同士であればそこまで気にならないのかもしれない。賢人がモテ過ぎるのも、女子が群がってくるのも、賢人の見た目ならば「ですよね」って感じで、嫉妬する対象にすらならないらしい。

 まぁ、賢人のハーレムの女子って、奔放な感じの娘ばかりで、恋愛対象に成りがたいというのが理由の一つかもしれない。羨ましがられても、恨まれない(自分の好きな娘じゃないから)。うまく立ち回っているなというのが弥生の印象だった。


「……で」

「で……?」

「何か言うことない? 」

「はあ……、すみません? 」


 賢人は明らかにムッとした顔をする。

 弥生にしたら、知っていて無視した訳じゃないし、こんなにラインが入っていたら、逆に怖いんですけど……といったところだ。


『バイト終わったか? 』

『腹へった。飯作れ』

『まだか?! 』

『早く帰れ! 』

『どこ行きやがった! 』

『誰と一緒だ? 』

『男と一緒だったらぶち殺す!』


 ……等々。

 どこの亭主だ? という内容に顔がひきつる。


「男の子の友達なんかいないし、何このライン? 脅迫状ですか?」

「腹へってんだよ。飯は? 」

「お母さん達いないから、花梨ちゃんと食べてきた」

「俺の飯」


 うちに帰って何か食べなよ……と思いつつ、弥生は無言で立ち上がりキッチンへ向かった。

 冷蔵庫の中を確認したら、スパゲッティならすぐに作れそうだ。

 シメジとベーコン、長葱で和風スパゲティを作ることにした。スパゲティを茹でている間に材料を炒め、ついでにサラダも作った。


 十五分程で作り終えると、お盆にのせて運んだ。リビングに戻ると、今日買い物したブツがテーブルに並べられていた。


「ヒエッ! 何を見てるんですか?!」

「おまえの下着。けっこうエグいな。これなんか、いつ着るの? 」

「し……知らないよ。ってか、ご飯できたから! 置けないからどけてください! いや、待った! 触らないで! 」


 弥生はお盆を賢人に押し付けると、自分で下着をまとめてリュックに突っ込んだ。


 勝手にリュックあさるとか、あり得ないんですけど!!


「いただきます。おまえさ、今も新しい下着つけてるだろ? 」

「な……何でわかるの? 」


 恐ろしい!

 透視能力でもあるの?!


「透けても見えてねぇよ。いつもより胸がでかいから……いやでかくはないか」


 何か、失礼な言葉を聞きましたよ?! 私の思考すら読めるって、超能力ですか?!


 弥生は顔を赤くして両手で胸を押さえる。


「それ、逆にエロいからな」

「エロ……」


 ほんの五分程で完食した賢人は、カーペットなの直に座っていた弥生の隣に移動してきた。


「で、反省した弥生は俺に俺にお詫びに何をしてくれる訳? 」

「反省……お詫びって」

「さっき謝ったってことは反省したんだろ? 」

「ご飯作りましたけど……」

「それはお詫びと違うだろう。三秒で考えろ。はい、一・二・三。残念、時間切れ」

「えっ? いや、何? 」


 賢人はヤンワリとだけれで、振りほどけない力加減で弥生の腕を掴んだ。


「おまえがお詫びの内容考えられないなら、俺の言うこと一つ聞けよ」

「え? ……何」


 綺麗な賢人の顔がゆっくり近づいてくる。

 弥生の腕を掴んだ手と逆の手が弥生の後頭部に回った。


「……」


 嘘……、キスされる?


 弥生は唇を噛み締めてうつむいた。


「買ってきた下着、つけて見せて」

「はあ?! 」


 キスは……されなかった。

 代わりに、弥生の耳に息がかかり、不穏な言葉が囁かれる。


「無理無理無理……! 」

「俺を無視したあげく、空腹で放置したんだから、それなりに落とし前つけないとじゃないか? 」

「下着姿なんか見せられないです! 見ても面白くないです」

「面白いか面白くないかは俺が決める。じゃあわかった。一つでいい。あの中の一つだけ。ただし、どれかは俺が決めるけど。ちなみに、今つけてるのはどんなの? 」


 賢人はヒョイとお気楽な感じで、弥生のTシャツの襟首を引っ張って中を覗き込む。


 ヒィ〰️ッ!!

 今ので良くないですか?!

 今のはノーカンなんですか?!


 賢人はまるで自分の荷物のように弥生のリュックをあさり、下着を片手に弥生と下着を見比べる。


「決めた! これだな、やっぱり。ちなみに、下に下着はつけるなよ」


 賢人が手をとったのは、白のベビードールとパンティのセットだった。

「はい」と手渡され、弥生は息をするのも忘れる程固まってしまった。

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