第11話 プレゼント
夏休みにしていたアルバイトだが、週一で土曜日のみ続けることになった。夏休み期間中は、シフトの関係で花梨とはあまり重ならなかったけれど、花梨も土曜日に入ることになり、遅番早番で違うこともあったけれど、比較的同じ時間帯にアルバイトに入れた。
「弥生ちゃん、賢人と付き合うことになったんだって? 」
「えっ? 」
今日は早番だったから、五時上がりだ。花梨も同じで、一緒に更衣室で私服に着替えていた。
賢人とのことは、花梨はもちろん誰にも話していない。高校でもかろうじてまだバレていない。一緒に登下校(下校はたまにだけれど)していても、王子様キャラの賢人と地味でチンチクリンの弥生とでは、偶然会ったんだろう的な扱いをされることがほとんどだし、まさか彼女じゃ? なんて疑われることはなかった。
それなのに、何で花梨は賢人ととのことを知っているんだろう?
「土曜日とかバイト一日入れて、賢人嫌な顔しないの? 」
「いや別に……。というか、花梨ちゃん何で知ってるの? 」
「だって、賢人に遊ぼってラインしたら、もう彼女以外とは遊ばないって返ってきたから」
「え? それで何で私? 」
「そりゃそうでしょう。弥生以外が彼女なら、賢人は他の女切るようなことしないでしょ。まあ、私くらいみたいだけどね、そんな返事きたの。他は返事もこなくなったとか、無理とか会わないとかそんな返事だったらしいし」
他って、花梨は賢人の遊び相手数人と繋がっているような口振りだ。
着替え終わった花梨は、口紅を塗り直してスマホを取り出した。
「グループライン。ほら、賢人のファンクラブあったじゃない? 賢人と遊ぶんなら情報共有しろって小川さん達に言われてさ、とりあえず入ってるの。まぁ、私は賢人とナニしたとか報告なんかしないけどね」
ナニした……。
夏休み、ラブホテルから出てきた賢人を思い出した。
つまりはそういうことだろうか?
グループラインには、最近賢人がつれないとか、会ってくれないなどの愚痴が多かった。
中学時代に遡ると、賢人とデートしたとか……まぁかなりえげつない内容まで多数あった。賢人の黒子の位置とか個数とか、はては下半身事情まで。
「こんなの、半分くらいは彼女らの妄想だから」
半分は本当なんだ。
さすがに中学生でこの人数の女子と関係した賢人って……。
「弥生は……まだか」
「まだって? 」
「エロいこと。まずは下着をなんとかしないとね」
花梨は、着替え最中の弥生のブラをペチンと引っ張った。
「いや、ないないない! そんなの必要ないし」
弥生は慌ててTシャツを頭から被ると、真っ赤になって首を振った。
「第一、私なんか物珍しいだけで、そんなことになる前にすぐに飽きるだろうし」
「飽きる? かなぁ? 」
花梨はニマニマ笑いながら椅子を引き、椅子にまたがるように前後ろ逆に座り、椅子をユラユラ揺らした。
「にしてもさ、弥生ちゃんが賢人のこと好きになるなんて意外。そりゃさ、あいつって色んな意味でハイスペックだけど、究極に俺様じゃん。弥生ちゃんってあんま見た目に拘らなそうだし、どちらかというと賢人のこと苦手なんだと思ってたよ」
「苦手……というか、できれば関わりたくなかった」
「じゃあなんで? 」
まさか、目の前で下半身露出されたくなかったからなんて言えない。付き合わなかったら私との関係を言いふらすって、告白というより恐喝に近かったと思うけど。
「流れでなんとなく、付き合うような話になって。有栖川君もすぐに飽きると思ったし。学校では内緒にしてくれるって言うし。有栖川君のことが嫌っていうより、彼と関わることで他の女子に色々言われるのが嫌なだけだから」
「じゃあそういうのとっぱらったら、賢人のこと好き? 」
今の段階では、恋愛対象としては好きでも嫌いでもないが正しかった。
「まだわかんない」
「賢人にドキドキしない? あいつ、イケメンの無駄遣いだね」
「アハハ、イケメンの無駄遣いっていいね。でもさ、花梨ちゃん的にはいいの? 」
「何が? 」
弥生も帰り支度を終え、二人で揃って更衣室を出た。
「花梨ちゃん……一時期有栖川君のこと……」
「あ、それ弥生ちゃんの勘違い」
「え……でも……」
花梨はキョロキョロと辺りを見回してから、弥生の耳に口を近づけた。そして内緒話をするように声をひそめた。
「私ね、ずっと好きな人がいるの」
それは賢人ではなく……ということだろうか。
花梨は見たことないような表情を浮かべた。それは、寂しいとも違う、悲しいでもない、大人の女の顔で……。でも、すぐににっこり笑顔に置き換わる。
「だから、賢人は身代わり。それだけだよ。よし、決めた。買い物行こう! 」
「今から? 」
「うん、私から二人にお祝い……ね! 」
花梨は弥生の腕を取り、駅ビルへと向かった。
★★★
弥生は少しゲッソリした面持ちで最寄り駅についた。
花梨に連れていかれたのはランジェリーショップで、いやという程試着をさせられた。こんないかがわしい下着どうするんだ?! というような物から、純情可憐な物まで。見られているのは花梨とショップのお姉さんにだったけれど、恥ずかし過ぎて途中から記憶がなかった。
元は通販オンリーのランジェリーショップだったらしいけれど、客のニーズに併せて、最近店舗を置くことにしたらしい。その一号店ということで、通販ではできないフィッティングに特化した店らしい。
そのおかげか、今まで適当に選んでいた下着がサイズアップした。AカップがBカップになっただけだが、今までなかった谷間までできたのだから驚きだ。
しかも、背筋までシャンと伸び、姿勢まで良くなった気がする。
今つけている下着と、他に上下セットが二組、ベビードールとかいう下着だかネグリジェだかわからないイヤらしい物を花梨はプレゼントしてくれた。
高いからと最初は断ったが、この会社の社長が親戚だから社員価格で買えるんだと言っていた。アルバイト先もそうだが、ハイソな親戚が多いらしい。
凄いねというと、親戚だけでうちは一般家庭だよと笑っていた。
花梨と買い物をしていたから、いつものバイト帰宅時間よりも大幅オーバーで家につくと、スマホ片手の賢人が玄関前に立っていた。
「お帰り」
「うん……ただいまです」
賢人の視線を感じながら、家の鍵を探す。今日は父親と母親は結婚記念日デートらしく帰りは遅くなると聞いていた。
「家……入りたいんですけど」
「うん、入れば」
玄関の前に立っている賢人が邪魔で、鍵を開けることができない。
「鍵……開けたいんですけど」
「誰といたの? バイト、大分前に終わってるだろ」
「花梨ちゃんだよ。買い物してたの」
「何を? 」
賢人に弥生の持っていた紙袋を素早く奪われた。
「ウワッ! 見ちゃダメ! 」
慌てて紙袋を奪い返そうとした弥生は、力加減を謝って紙袋を破いてしまった。
散乱する下着とイヤらしいベビードール。
一瞬、賢人も弥生も硬直したように動けなかった。
「イヤ〰️ッ!! 」
弥生が鍵を放り投げて慌てて下着類をかき集めてる間、賢人は鍵を拾って弥生の家のドアを開けた。
「コーヒー飲みたい、いれて」
勝手知ったる隣の家。パニック状態の弥生を放置し、賢人はお邪魔しま~すと家に上がり込んでいた。
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