第38話 人影

会社の帰り道、それは突然現れた。


当時、私・香子(26歳)は一人暮らしを始めたばかりだった。

駅から私の住むマンションまでの15分の間、誰かがついてくる。

暗い夜道に、同じ距離を保って歩いてくる。

はじめの2・3日は、偶然同じ方向の人がいるのだと空いてるのに思っていたが、さすがに4日も続くと気持ち悪く感じるものだ。


今日は途中で、止まってみたり振り返って確認してみた。

あきらかに、私から見えないよう隠れているのがわかる。

とにかく今日は急いで帰る事にした。


部屋に戻った後も落ち着かない。

まだ、その辺にいるのではないかと。

ドアに付いている除き穴から外を確認してみる事にした。

玄関前に誰もいないことに安心した。

次は窓から周りを確認。

街灯のあかりが寂しく灯る路地だけが見える。

良かった、誰もいない。


しかし、次の日も次の日も帰り道に人影がつきまとう。


正体が掴めないまま警察にストーカー被害として届け出る事にした。

一週間後、警察から捜査の結果をきいた。

届けを出した次の日から警護、辺りのパトロールをしたが、ストーカー犯らしき者が見当たらないとの事だった。

一時保留にするらしい。

次回は、もっと確固たる事実確認が必要と言われた。


しかし、誰だかわからないストーカー行為は続いていた。

日に日に、私との距離が縮まってきているのに気づいた。

はじめの頃は100メートル以上後からだったが、今は50メートル位に人影がみえる。

刺激しないよう、平然を装うっていたが、鼓動がバックバックいっていた。

何故?私だけが狙われる。

帰宅する道のりが怖かった。


このところストーカーの影響もあり、引きこもりがちだった私を友人が買い物に連れ出してくれた。


気分転換


人といると、少しだが楽になる。


友人の付き合いで、占い館へ行った。

彼女は、恋愛を占ってもらうらしい。

しかし、占い師は私を見て

「ちょっとお客さん、控え室の方に来てもらってもよいですか。」

と、占う彼女を後にして、バックヤードにある従業員控え室に案内された。


占い師は私に

「ごめんなさいね、裏方に連れて来ちゃって。

プライベートの話をするから、周りに聞かれちゃうのもあれだしね。」

プライベートの話???

私にはさっぱりわからなかった。

彼女は続けて

「私は、タロット占いが本職だけど、霊感・スピリチュアルで占うの。

だから、はっきり言うわね。

貴女には、霊がつきまとっている。

変な感じした事ない。

見られてるとか。

人影がみえるとか。」

私に、霊が憑いてる。

ストーカーの事が頭をよぎった。

自分の唇が震えるのがわかる。

声を出そうとしたが、なかなか声にならなかった。

振り絞るように、かすれ気味な声で

「い・い・つも帰り道、つけられてるんです。

スト・ストーカー………だと…思うんですが。」

占い師が落ち着いた声で

「やっぱり。

私には、貴女に未練のある男の人が見えるのですが。

特長としては、短めの茶髪で、メガネをかけている25歳から30歳の人。

心当たりある。」

私はすぐに元彼の事が頭に浮かんだ。


『そういえば、彼どうしているんだろう。』


私から別れを切り出して2年経つ。

かなり荒れた別れ話だった。


占い師に

「特徴は元彼に似てるんですが、死んでいるとは聞いてないんですけど。」

「あらそう、生きてるならもっと大変だ。

生き霊は厄介だね。

余程、貴女の事が好きみたい。」

頭をハンマーで叩かれたような衝撃を受けた。

「どうすれば良いでしょうか。」

「未練を絶つのが一番だけど、難しそうですね。

貴女が引っ越すなどして、今の場所からいなくなるのが一番早い解決かもしれない。

でも、再び元彼に居場所を知られると、現れる可能性はあるけどね。」


私は、早速引っ越す事に決めた。

引っ越先を一部の友人にしか知らせなかった。

パッタリと私を追う影は消えた。

数年後、再び影が現れた。

再び引っ越す事に。

こんな事をいつまで繰り返せば良いのか。

いっそのこと、死んでくれた方がマシのようにも最近感じてきたのだった。










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