追加エピソード ケイトとの食事 第7話後

「お待たせ! ベンで合ってるわよね?」


 急に声をかけられて振り向くと、そこにはケイトがいた。長い金髪を揺らしながらこちらに向かって歩いてくる。クリーム色のコートを着て、黒い革製のカバンを肩からかけていた。俺は必死に笑顔を取り繕いながら返事をする。


「ああ、俺がベンだよ」


「ごめんなさい。お店以外で会うの初めてだったから。人違いしていたら怖くて」


「気にしないで、さあ行こう」



 ・・・



 今日俺が予約したのは少しおしゃれなステーキハウスだった。俺はステーキとワインを注文したのだが、気分が優れないためかすぐに腹が膨れて、半分ほど食べたところでナイフとフォークを置いた。彼女が食事をしている間、ワインを飲んでごまかす。何とか会話しようにも、言葉がまとまらずぎこちない会話が続いた。そうして、落ち込みながらワインを飲んでいる時だった。


「あなた、今日は調子が悪いでしょ」


 そう言って、彼女はこちらの顔を覗き込んでくる。


「そんなことはないよ」


 とまた無理矢理作り笑いをしながら、グラスに口を付ける。


「嘘はやめて」


 そう言われて彼女の方を見ると、彼女は真剣な目でこちらを見つめていた。これ以上、嘘を通すのは無理だと思い観念する。


「実は、あまり調子が良くない」


「やっぱりね、今日、駅前で最初にあった時からそう思っていたのよ」


 そう言うと彼女は優しい声音で尋ねてきた。


「何があったの?」


「実は仕事で色々あってね」


「そうだったのね」


「本当に今日はすまない。僕から誘っておいてこんなことになるなんて」


 そう言って手に持っていたワイングラスをテーブルに置く。


「誰だって仕事をしてれば、気分が落ち込む日もあるわ。あなたはそれが偶然、今日だっただけよ。私だってそういう日があるわ」


「そうなのか」


「ええ、私だってオーデションに落ちたり、先生に怒られれば次の日は今のあなたみたいになってるわ」


 彼女は優しく語りかけてくる。


「また、今度別の所で仕切り直しましょ。今度は私がいい店を探すわ」


 彼女の言葉に驚いて、顔を上げる。


「また付き合ってくれるのか? どうして?」


「あなたが今までに会った男と違ったからよ。あなたみたいに食事に誘ってくる男は前にもいたけど、人を欺くことに長けてるというか、薄っぺらい嘘を平気で私につくのよね。食事中もずっとこの後のことを考えているのよ。私はそんな軽い女じゃないのに……あなたからはそういう裏表みたいなのは感じなかったわ。ただ食事を楽しみたかった。そういう風に感じるもの。これでも女優志望だから薄っぺらい演技は見抜けるつもりよ」


「僕はそんなにいい人間じゃないよ」


「そう? 私はそうは思わないけど。根はいい人のはずよ。」


 彼女はそう言うと、席を立った。


「また、調子のいい時に会いましょ」


 彼女の優しい態度が俺はとてもうれしかった。今まで周りに悩みを聞いてもらえる人がいなかったからだろう。思わず、目から雫がこぼれそうだった。彼女に悟られまいと、額のあたりに手を当てて目元を隠す。涙が引くのを待って俺は彼女の顔を見た。すると、ふとあることを思った。彼女はジュリアによく似ている。金髪に蒼い瞳。好みはそんな簡単に変わるもんじゃないな、と思いつつ俺は少し微笑みながら席を立った。


 その日の夜はよく眠れた。過去の悪夢も見ることは無かった。きっと、彼女のお陰だろう。朝起きると、昨日のことを謝りにいかないといけない、と思い俺は彼女のアルバイト先のカフェテリアに向かった。











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